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不思議な結晶がエアコンを進化させる


概要

今回紹介するのは、柔粘性結晶と呼ばれる少し変わった結晶を使うと、熱をもっと効率的に冷却することが可能になるという論文です。

現代社会において冷却というのは非常に多くの電気を消費しており、環境問題にも影響を与えています。
考えてみれば、私たちは冷蔵庫がなければ生活できませんし、近年の夏場の酷暑ではクーラーを使わないと生きていけません。

これまで熱の交換にはガスを使っていたのですが、より安定にかつ環境にやさしいを求めると固体の材料の方が優れている面があるそうです。

Colossal barocaloric effects in plastic crystals
Bing Li, Yukinobu Kawakita, Seiko Ohira-Kawamura, Takeshi Sugahara, Hui Wang, Jingfan Wang, Yanna Chen, Saori I. Kawaguchi, Shogo Kawaguchi, Koji Ohara, Kuo Li, Dehong Yu, Richard Mole, Takanori Hattori, Tatsuya Kikuchi, Shin-ichiro Yano, Zhao Zhang, Zhe Zhang, Weijun Ren, Shangchao Lin, Osami Sakata, Kenji Nakajima & Zhidong Zhang
Nature 567 (2019) 506-510.

この論文には多くの日本人研究者が関わっていますね。実際に日本の実験施設を使って結果を出したようです。


柔粘性結晶とは

原子よりも大きなものであっても規則正しく並んでいれば、○○結晶と呼びます。例えば分子結晶、タンパク結晶、コロイド結晶などです。
分子のように形や大きさのあるものが規則的に並ぶとき、分子は向きもそろえてきれいに並びます。しかし柔粘性結晶では、規則正しく並んでいるにも関わらず、1つ1つの分子は回転することができ、全然違う方向を向いています

柔粘性結晶の模式図(分子は自由に回転できる)

柔粘性結晶


何がわかったのか?

一般的な結晶は原子が熱により振動していることが知られています。結晶では原子が規則正しく並んではいるものの温度があれば、私たちにはわからないぐらい密かに振動しているのです。この振動が大きくなり、私たちの目に見えるようになったのが液体ですね。

柔粘性結晶は分子が規則正しく並んでいるのに振動のみならず、自由に回転することができます。この回転が今回のミソのようです。
それに対して、柔粘性結晶を圧縮すると、分子は回転をやめ振動だけになるそうです。普通の物質では、少し圧縮したぐらいでは熱を吸収したり放出したりすることはないようですが、この柔粘性結晶では非常に大きな吸熱・放熱が起きることがわかりました。
この大きな熱の吸収・放出を利用することで、省エネルギーで熱交換を行うことができる冷蔵庫やエアコンが誕生するかもしれません。


感想

熱を制御する研究は環境問題を解決する点でかなり流行っているので、これからも大きなインパクトを出していきそうですね。
今回の柔粘性結晶は圧縮により分子の並び方(結晶構造)も変化するようで、いろいろな点で面白物質ですね。

歴史の古い原子の結晶の研究はより複雑になり、最近では今回紹介したような少し不思議な結晶の研究も話題になってきています。今後も未知なる能力を秘めている結晶に注目していたいですね。

こちらの公式記事ではより詳細に説明されています。多少材料の知識がないと難しいかもしれないですが、非常に面白記事です。
https://www.jaea.go.jp/02/press2018/p19032902/

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