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【脂質二重層】細胞膜を作る分子は未来の医療の希望になる

私たちの体は無数の細胞によって構成されています。この細胞は細胞膜と呼ばれる柔らかい膜で覆われており、この膜は非常に面白い性質を持っていることからいろいろと研究が進められています。

今回は、そんな細胞膜の原料でもある脂質二重層について紹介したいと思います。

脂質二重層とは

脂質というと、油?脂?と思われる方が多いと思います。その通り脂質二重層は油脂の一種です。

特に細胞膜に使われるような油脂はリン酸脂質と呼ばれるものになります。この名前は覚えなくても大丈夫です。

この脂質はどうやって膜を作っているのでしょうか。その答えはこちらを見ていただければわかると思います。

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wikipediaより引用

この図のように脂質分子は集団になって二重層を作っています。この”二重層”というところがとても重要なんです。

ちなみに、この分子は二重層という膜を作りながらも内部で動き回っています。つまり非常に流動性の高い物質になります。膜を構成しているのに内部で動いているって不思議ですよね。

どうして二重層になるの?

脂質分子はもともと下の図のような構造で、頭は水が大好き(親水性)、足は水が大嫌い(疎水性)という性質を持っています。

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棒人間のようなふざけたイラストですがイメージはこんな感じです

一つの分子の中に水が好きな領域と嫌いな領域を併せ持つ分子を両親媒性分子といいます。この名前は特に重要ではないので覚えなくても大丈夫です。


このような特徴を持つ脂質分子は頭は水が好きなので水面に接するように出てきますが、足は水が大嫌いなので、足同士が向かい合う形になります。

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すると、頭の部分だけが水と接しており、足の部分は水と接しない二重層が出来上がるんです。これが二重層になる原理です。

そしてこの脂質二重層は、ただの膜としてだけでなくさらなる面白い性質があるんです。


脂質二重層は球体になる

脂質二重層は液体の中で存在しているわけですが、必ずしも一枚の膜として存在しているわけではありません。液体の中で安定な構造をとろうとした脂質二重層は丸まって球体の構造をとることがあります。

このような球体をベシクルと呼び、リン酸脂質を使った場合はリポソームというそうです。特にこの二重層の球体であるリポソームは非常に面白い性質を持っています。

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wikipediaより引用


脂質のカプセルが医療に役立つ

このようにできたリポソームと呼ばれる球体は内部に他の物質を内包することができます。この特徴を使って内部に薬の成分を入れたものが最近流行りのドラッグデリバリーシステム(DDS)と呼ばれるものです。

薬は副作用が強いものもあるため、なるべく患部にだけ届けたいという要望があります。そこで、薬の成分をリポソームと呼ばれる球体の脂質の中に入れて、患部に届いたときに球体が破裂するような仕掛けを用意して、薬が必要なところにだけ届けるという方法がとられています。

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何の面白味もないと思っていたただの油脂の膜が、私たちの命を救う希望になると思うと不思議ですよね。

最後に

今回は生体分子としての脂質二重層について紹介しました。実は脂質の研究はかなり進められており、今回の紹介はイントロのイントロぐらい簡単なものです。

それでも、初めて聞いたという方も多いのではないでしょうか。私自身固体物理の出身なので研究室に入るまでは、全く知らない分野でしたが研究をよく聞いているととても不思議な特徴を持つまるで生き物のような分子だなと感じていました。(ある意味生体内に存在する分子なわけですが)

今後も不思議な生体分子の物理的なお話を紹介していけたら面白いなと思っています。

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