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濃い塩水がもつ不思議な性質

この間、濃い塩水が持つ不思議な性質について紹介しましたが、文献調査してみるといろいろとわかってきました。

いや、塩水って何が楽しいの…?

と思われるかもしれませんが、ここ5年ぐらいで次々新しい報告が上がっており、最先端のナノテク業界でひそかに盛り上がってる?みたいなんです。

今回は第2弾ということで、もう少し詳しく、濃厚な塩水の中でいったい何が起こっているのか模式図も交えて紹介していきたいと思います。

この現象、どうやらイオン液体の研究から始まっているようです。ということで、まずはイオン液体から見ていきましょう


イオン液体とは?

そもそもイオン液体とは何でしょうか?こちら、溶融塩(ようゆうえん)とか言われます。

例えば、常温で食塩や岩塩といった塩は固体(粉や塊)ですよね。でも塩も800℃ぐらいまで熱すると融けてドロドロになります。こういうものを溶融塩といいますが、一般に常温でドロドロしているものをイオン液体といいます。

https://www.youtube.com/watch?v=8bJHqRx_i8Uより引用

ちなみに食塩を例にすると分かりにくくなってしまうのですが、一般に科学で塩というと陽イオンと陰イオンでできた化合物のことで読み方は”しお”ではなくて、”えん”といいます。

普段目にする塩水(しおみず)は陽イオンであるナトリウムイオンと陰イオンである塩化物イオンが水の中に溶けて浮いている状態です。逆に食塩の溶融塩はドロドロになったナトリウムイオンと塩化物イオンのみでできています。

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イオン液体や溶融塩というのはイオンしか存在しません。イオンが浮いているのではなくて、イオンしかないというイメージです。


イオン液体中で粒子はどうなる?

前回記事で書いたのですが、コロイド粒子は主に2つの力(ファンデルワールス力と静電力)によって安定性が決まります。詳細は冒頭のリンクへ

コロイド粒子が液体の中で安定に浮いているためには静電反発が必要になります。そんな中、イオンがあると静電反発が弱くなり、粒子は凝集して沈殿します。

常識的に考えると、コロイド粒子はイオン液体中では不安定で凝集します。

しかしいくつか条件を満たしたコロイド粒子とイオン液体の組み合わせでは、コロイドは凝集するどころか、むしろもっと安定な状態になりプカプカ浮いているということが発見されました。

正直、多くの研究者が”嘘でしょ!?”ってなるようなことが現実に起きます。
そこで、研究グループはどうして粒子が集まってこないで安定なのか調べました。


イオンの層ができる

詳細な実験と計算の結果、イオン液体中でコロイド粒子の表面にイオンが層状になっていることがわかりました。

イオン層


イオン液体ではイオンしかないので、粒子から陽イオン、陰イオン、陽イオン、陰イオンといった感じで層が形成されるようです。

そしてその時にできる力(科学的にはポテンシャル)がこれまで考えられてきた力よりもずっと大きいことがわかりました。つまり、昔から科学者たちが考えてきたファンデルワールス力(引力)や静電反発(斥力)なんかよりもけた違いに強い反発力が生じるため、粒子同士が互いに近寄ることなく安定な状態を維持していたそうです。

濃い塩水でも同じ!?

イオン液体での研究が進み、一部の研究者の中で濃い塩水ならどうなの?という疑問が出ました。

昔から考えられてきた希薄な溶液では考えられなかった現象が、最も濃いイオン液体/溶融塩で見られたなら、感覚的にはその間に位置する濃厚な塩水ならどうだろうと考えるのは意外と自然な考えかなと思います。


この前の記事と同じ内容になりますが、結果からいうと濃い塩水でもこの現象が起こると分かりました。

いまだ研究が進められている分野であり詳細な理由が解き明かされているわけではないのですが、おそらくはイオン液体で見られたイオンの層のようなものが起きている可能性は高いです。

当然、イオン液体と濃厚溶液は似て非なるものなので、100%同じとは言えませんが、感覚的には似たようなことが起きていると考えても不思議ではないです。


最後に

今回ちょっとマニアックな内容になってしまいましたが、たまにはこういうのもいいかなと思って書いてみました。

最先端の研究を見ていると、常識では考えられないようなことを垣間見ることができます。

保険をかけるように何度も書いてしまいますが、定説になっていない科学はやはりあいまいなところがあります。個人的に信頼していることを発信していますが、信じるか信じないか読者の方に任せます。

まあ、自分が手掛けているわけでもない他人の最先端研究を100%あってるとかいう大人は信用できないですよね。

そんなところも含めて科学って面白い!

参考文献

[1] Hao Zhang, Kinjal Dasbiswas, Nicholas B. Ludwig, Gang Han, Byeongdu Lee, Suri Vaikuntanathan & Dmitri V. Talapin, Stable colloids in molten inorganic salts, doi:10.1038/nature21041.
[2] J. C. Riedl, M. A. Akhavan Kazemi, F. Cousin, E. Dubois, S. Fantini, S. Louis, R. Perzynski and V. Peyre, Colloidal dispersions of oxide nanoparticles in ionic liquids: elucidating the key parameters, Nanoscale Adv., 2020, 2,1560.
[3] Vladislav Kamysbayev, Vishwas Srivastava, Nicholas B. Ludwig, Olaf J. Borkiewicz, Hao Zhang, Jan Ilavsky, Byeongdu Lee, Karena W. Chapman, Suriyanarayanan Vaikuntanathan and Dmitri V. Talapin, Nanocrystals in Molten Salts and Ionic Liquids: Experimental Observation of Ionic Correlations Extending beyond the Debye Length, ACS Nano (2019).

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