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はじめての手作り化粧水は天国と地獄だった【ユーモアエッセイ】

          *約10分で読めます*


 とある某人気モデルが“化粧水は手作りしてます”とテレビでらんらんと語っていた。
 
 当時、肌トラブルに悩まされていた私は、モデルの話に心を持っていかれた。
 自信に溢れた笑顔とツヤツヤに光る彼女のふっくら頬がなによりも証拠だと確信し、テレビにかじり付き、“手作り化粧水レシピ”を語る彼女を食い入るように見た。



 食生活が悪かったのかファンでショーンが合わなかったのか代謝が悪かったのか、様々なスキンケアを試したが私の肌は今ひとつだった。

 俗に言う敏感肌というヤツだと自己判断していた。

 吹き出物はできやすかったし、Tゾーンの脂の滲みようは異常で『テカってる』そのものだった。
 その反面、頬に艶がないというか、肌の色に統一感がないとうか、くすんでいるというか――30歳も半ばになるとこんなにも悩みの種が芽吹くものかとゾッとしたものだ。



 高級な化粧品も試してみたこともあったが、高級であればあるほどムカつくほどに拒否反応を起こしてくれる。
 鮫肌のような、厄介でしかないブツブツが増えてファンデーションが上手く乗ってくれないし、Tゾーンが脂負けしているから、直ぐに化粧崩れを起こす。とんだひねくれ肌である。



 “某人気モデルの手作り化粧水”は、憧れの陶器肌になるための頼みの綱だと思った。これでダメなら、もう意を決してエステか美容皮膚科などに行くしかない。それくらい私にとって極めて尊く、こよない情報だった。






 手作り化粧水に必要な材料は『精製水』と『グリセリン』の2つ。たったこれだけなのだ。化粧水のシンプルイズベスト大賞ものである。



 精製水はドラッグストアで約120円(500ml)、グリセリンはネットでオーガニックの商品を買った。237mlで2,000円弱だった。グリセリンに関してはセット購入で割引だったものだから、欲張って2本も買ってしまった。


 100均で買ったボトルスプレーに、精製水100mlに対してグリセリンは小さじ1(5ml)。しかし冬場で肌が乾燥気味だったため、保湿成分の要であるグリセリンを小さじ2にした。
 私の計算違いでなければ、天然保湿化粧水100mlが、たったの120円で出来てしまった。申し分のないコスパ!



※追記:2023.10.24※
 後々、尿素を入れるともっと良いと知ったことを思い出しました!!尿素追加して使っていたこともあります!



 私は手作り化粧水を毎日使った。
 結果は上々だった。荒れることもなく市販品よりも肌の調子が良い。「モデルのやっていることは見事なものだ」と心底感心した。

 初めの数日はグリセリンの量に悩まされたりもしたが、自分に合った調合割合を発掘できたときには、歓喜に包まれて祈りの手を天に捧げたほどだった。
 ありがとう神よ――。
 
 しかも安価で出来ちゃうものだから、惜しげもなく使えちゃうのだ。
 
 

 最高の化粧水に出会えた私は、調子にのって、大量に精製水を買い込んだ。
 一ヶ月もすればお手の物で、小さなスプレーにチマチマ入れ替えることなどしない。精製水の容器に直接、適量のグリセリンを入れて作るという画期的な方法で、私は内職のようにせっせと手作り化粧水作りに没頭した。



 手作り化粧水を朝と夜、洗顔後の顔に大量に染み込ませる日々がしばらく続いた。コットンにたっぷり浸してパックの様にも使った。世界に一つしかない化粧水のような気がしてプチセレブ気分だった。

 そして季節は夏になり、さっぱり系の化粧水を肌が求めたため、グリセリンの量を少々減らして当たり前のように顔に浸し込んでいた。

 肌の調子も悪くない。
 このまま続けたら間違いなくモデル肌。


「もう何の心配もない。純粋無垢な化粧水のおかげで肌が蘇ってきている。お金もかからないし最高じゃないか!」

 しかし、地獄に叩き落とされたような悲劇が起こることなど、このときの私は知る由もなかった。






 どうも痒い。
 両目の周辺がチクチクと痒いのだ。
 爪先で跡をつけるように痒みを紛らわすも、細かいホコリがぺたぺた貼り付いているような感じがする。
 鏡で見ても何も付いてはいないのだけれど、違和感がある。

「むくみか、腫れか?」
 そんな気がした。

 両の目尻下がパンと張っていて、笑いジワが薄くなっている。
 ただ、アホな私は、シワが薄くなったことに小躍りし「むくみと腫れ」を即刻除外した。「手作り化粧水の賜物だ!」と歓喜した。



 結論から申すと、手作り化粧水の管理不足が原因であった。

 夏の暑い時期に、冷蔵保存ほったらかしで雑菌が大繁殖した模様。防腐剤など入っていないから当然なのだけど。しかしこれは、私の保管状態がお粗末過ぎた結果で、手作り化粧水には罪はない。

 私は肌がみっちり悪化するまで、原因がカビであることに、やや時間がかかった。

 化粧を落とす時間が遅いことが良くないのかもしれないと無理やり終着させたが、悪化の一途をたどったため、ドラッグストアで顔用の皮膚炎軟膏を買ったが、効かず。

 さらにアホな私は、ではクレンジング剤が良くないのではないかと思い、これまで使ったことがなかった某ホットクレンジングを試したら、余計に荒れ二重苦となり、顔面日焼け状態。四六時中、痒みと痛さの地獄。

 
ここまできてようやく「おかしい……」と、私は手作り化粧水を横目で見た。

 崇拝していた手作り化粧水は一旦中断した。







 私は皮膚科を受診した。が、肌で萎えていたのに、先生が無愛想すぎて心も廃れた。

 たった数分の診察後に処方された薬は、軟膏と飲み薬。
 軟膏は当然「ステロイド配合」のモノだった。

 ステロイド軟膏は、即刻効いてくれた。
 ただれまくっていた肌は瞬く間に回復した。
 無愛想な医師が神に思えた。

 しばらく通い続け、同じ軟膏を処方してもらった。

 軟膏を毎日使い続けたある日のこと、洗顔中、私の顔面の皮が、まるで蛇の脱皮のようにべロリと剥けた。
 一瞬ビビったが、炎症していた皮膚の生まれ変わりというように、つるんとした綺麗な肌がそこにはあった。

 感動した。
 
 あんなにも苦しんだ肌がこんなにもツルツルに(涙)
 なんなら私が目指していた陶器肌になっていったではないか!

 残すは首元の炎症のみとなった。
 軟膏を引き続き塗り、首の皮も剥がれそうな雰囲気に。

 

 




 治りかけの真っ只中、先生の許可が出たため、旦那と温泉に行くこととなった。
 私はお守りのように軟膏も持って行った。

 そのころには、顔に引き続き、首も皮もベロベロ剥け始めていた。あたかも海で日焼けしまくった人の肌のようだった。首だけ。

 旦那が運転する中、私は助手席でミラーを見ながら首の皮剥きに夢中だった。
 綺麗に剥けると快感ほどに気持ちが良い。
 剥けた皮は、嫌がる旦那に一旦見せびらかし、面積が大きな皮に浮かれながら細かくちぎり、ティッシュにくるんで捨てた。

 温泉の刺激はとくに違和感もなく満喫できた。

 とにかく小まめに軟膏をぬりぬりしていた。

 化粧水はキュレルに変えた。

 





 数ヶ月通った皮膚科。

 完全に良くなったと自己判断した私は、通院を止めた。

 ステロイド軟膏を塗ると、化粧ノリも良いし陶器肌のようになるから名残惜しかったが、毎月通うのもお金がもったいないと思ったのが、正直なところ。
 そして先生、やはり怖い。


 脱ステロイド軟膏!


 日が経つと、残念なことに陶器肌ではなくなった。化粧ノリも振り出しに戻った。せっかくのタマゴ肌も、もとのもくあみである。

 そして、良くなったはずの痒みが復活した。

 少々恐怖が芽生え、結局、再び皮膚科へ。

 先生は開口一番「まだ完全に治ってないんだよ」とぶっきらぼうに言い放っただけで同じ軟膏が処方されてしまった。

 なんとなくだが、「これは永遠と繰り返されるのでは?」と不安になった私は、薬剤師に聞いてみた。

「薬を止めたら痒くなったんですが……」
「そうですね、このお薬は微量ながらもステロイドが入っていますから。止めると一時的に痒みがでることがあります」

 ん???
 てことは、やはりエンドレス軟膏じゃないか!

「そうですか」
 と、私は苦笑いで調剤薬局を後にした。

 





 ステロイド軟膏は安全とも思ったが、副作用のある薬であるとも理解していた。
 肌トラブルには早い回復が求めらるが、やはり安易にステロイド剤は使わないほうが良いのかもしれないと、素人ながらに思った。

 私の肌は完璧に治っていなかったのだろうが、微量でも脱ステの症状があるのなら初めに説明して欲しかったわぁ~先生…。



 その後、何とか脱ステは成功した。
 痒みを我慢して、ワセリンやキュレルや、王道のオロナイン軟膏でやり過ごした。

 時間はそんなに掛からなかったよう記憶している。
 
 先生も怖いし、ステロイド軟膏依存になりそうだから、その気合も私には十分にあったのが良かったのかもしれない。

 

 だが、そのまた数ヵ月後、今度は膀胱炎で同じ医院に頼ってしまった私だった……。
 先生は相変わらず怖かったが丁寧な検査をしてくれた。そして無事治った。ありがとう。


 欲張って買ったグリセリンは、1本余った。
 未開封だったため、フリマアプリに出品し、即売れた。ありがとう。


 手作り化粧水には十分ご注意を。
 



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#眠れない夜に

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