【パリ1日1話】15 おっさんピンクとバラ色の日々
パリの人っておしゃれなんでしょう?
と、たまに日本のひとに聞かれるけど、なんというか、それは「人による」としか言えない。
おしゃれとはなんぞや、という定義の問題にもなるが、もし「流行に敏感でていねいに着飾ること」がおしゃれならば、日本のひとのほうがよほどおしゃれだ。
パリで、「流行に敏感でていねいに着飾っている」ひとは、人口比で考えると非常に少ないと思う。ファッション関係や編集者なんかの、そういうエッジのきいた職業は別とすると、一般人はけっこう雑。
ほころんだ服も平気で着るし、やぶれたストッキングもよく見るし、なによりあまり流行に敏感ではない。というより、パリにいると流行ってなんだろう?と思ってしまうほどだ。
たしかにアドとよばれる高校生くらいの子どもたちには、ある程度流行りがあるようだが、それもジーンズが細身になったり膝の破れ方が激しくなったり、トップスの裾をインしたりと、そういう細かい話のような気がする。実際高校生に聞いたわけではないけど。
大人にも、少しは流行がある。みんなユニクロのダウンきてたり、カナダグースのダウンになったり、真冬なのに短いソックスをはいてくるぶしを出したり、白いスニーカーが多かったり。でもまあ、観察してる限り、そんなものだ。それに、人種ごとにも好みがあるから、一概にはいえない。
たとえば男子の髪型でいうと、ヨーロッパ系にロマン・デュリス的なアート系ロングヘアが好まれるかと思うと、アラブ系はものすごくぴっちり髪型を整えるのを信条としているようだし、どっちがパリなの?っていわれると、どっちもパリだし、どっちがおしゃれなの?っていわれると、よくわからない。
ただ、わたしはそれほどファッションに興味がなく、日本にいたときでさえ「大人の制服がほしい」と思っていたくらいのタイプなので、ファッションにあまり制限がなさそうにみえるパリの生活は、けっこう楽だ。悪者に追いかけられたら困るので、もうヒールのある靴なんて履けないし。
パリに来てから、わりにヒマなので、よくひとを観察するようになったが、ちょっと驚くのは男性のピンク着用率の高さだ。幼児から若者、そしておっさんやおじいちゃんまでピンクをけっこう着ている。シャツでも、セーターでも、パンツでも、靴でも。さすがにスーツは見たこと無いけど、きっと売ってるんだと思う。
小さいころからピンクや赤は女の子の色だと認識してきた。赤は性別の認識方法の一環として仕方なく受け入れるとして、あるときから、ピンクは絶対イヤだと思うようになってしまっていた。
理由はわからない。生意気なこどもだったので、決めつけられるのが嫌だったんだろう。男の子に絶対に負けたくなくて、女の子ぽいものを着用しなくなった時期もあったけど、いちいち選ぶのも面倒くさくて、せめてピンクだけは避けて通るようになっていった。ピンクを身につけることで、女の子を主張しているような気がして恥ずかしかったのだ。
大人になりきらないわたしは、その「ピンク嫌い」をパリに来るまでひきずっていた。でも、街をみると、おっさんも、じいちゃんも、ピンク着てるじゃん!誰でもピンク着ていいんだ!となんだか目からウロコが落ちるようだった。そして、ようやくピンクから「女の子」の付箋を外すことができた。
それから、夫にピンクのスニーカーを買ってもらった。スターカウというサントノレ通りにあるおしゃれなセレクトショップで、ナイキの可愛いやつだ。しばらくは、それを履いて外に出るとはがゆい感じもしたが、そのうちなんか華やかでいいな、と思えるようになった。ピンク、悪くないじゃん。それにロゼ・シャンパーニュのノベルティグッズのピンクの持ち手のコットンバッグを合わせるのが、いまのお気に入りのコーディネートだ。
考えを変えるだけで、ちょっとおしゃれが楽しくなった。好きなものを好きなように着ればいいんだな。ばあちゃんたちも、夏にはミニスカートはいたり肌を露出したワンピースを着るパリ。
自由は、悪くない。
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