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映画みたいなそれ

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1本の映画をピックアップして書く映画エッセイ
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記事一覧

Essay|本屋がなくなったら困る

少女漫画じゃないのだから、毎日を普通に過ごしていてワクワクが向こうから飛び込んでくることなんて、そうない。そうないけど本屋にはあるよなと、思う。 本屋を見つけるとたいして用もないのに、「何かあるんじゃないか」とふらり立ち寄ってしまう。昨日も本屋に立ち寄ってしまった。そこでは、正面入り口付近で科学フェア的な何かが催されていて、明らかに書店員さん達の手で彩られたカラフルな陳列に、まんまと引き寄せられてしまった。 見てみると「なにこれ。今の子どもたちはこんなに面白い児童書を読ん

Essay|ぱっつん前髪は眉下で

おもむろにハサミを取り出して鏡の前で前髪を切る。しかもかなりの目分量でザクザクと。愛用するのは、すきバサミとかのお洒落なやつじゃなく、本当に普通のハサミ。 これがわたしのストレス発散法だ。 この前髪との付き合いはかなり長い。今では「目よりも上で眉毛より下で」と言い慣れてしまった。幼稚園の頃のお誕生日写真も、ピアノを習っていた小学生時代も、バスケ部全員ショートカットだった青春の一コマも、どれをとっても前髪は眉下ぱっつん。頑固なものだ。 気まぐれに少しだけ伸ばしてみる。でも

Essay|予定調和はいらない

2016年、ニューヨークのイーストヴィレッジにあったレコードショップ「OTHER MUSIC」が多くの音楽ファンから惜しまれながら閉店した。本作を撮った監督のロブ・ハッチ=ミラーとプロマ・バスーは、その知らせを知ってすぐにカメラを回し映画にすることを決意したらしい。二人は公私共にパートナーであり、このOTHER MUSICが縁で出会った過去があった。 OTHER MUSICを見ていると「場」の力を感じずにはいられない。そこには音楽があり、音楽が好きなスタッフがいて、OTHE

Essay|夏が終わる前に

夏は、出会ってしまうものだ。 2022年の夏、私の中で大きな出来事の一つはサマソニでRina Sawayama(リナ・サワヤマ)のパフォーマンスを見たことだ。彼女の存在は、音楽好きな友達から聞いて知っていた。ただ、私の体内に流れ込んできたのは、確実にサマソニのMarin Stageで彼女の歌声を聴いた時だ。 赤い衣装に身を包み、登場からオーラが半端じゃなかった。音が鳴った瞬間、彼女から目が離せなかった。圧倒的なエンパワーメント。彼女の音楽の真ん中にはそれがあった。「今度発

Essay|ふつうって何?

いろんな当たり前が揺り動かされる毎日だ。 小さい頃はよく「普通にしなさい」「普通がいちばんだから」と言われて、普通って何かわからなくて顔はわかりやすく無になっていたし、みんな普通でみんな普通じゃないよなと禅問答のように頭の中はぐるぐるしていた。結果的に大人になった今、私はとても普通で、まるで普通じゃない人なのだと思う。 昭和から平成、令和になり、時代が変われば、普通なんてものは変わっていく。これまでよかったことがダメになったり、ダメだったことが解放されたり。社会はいつも不

Essay|この先に見る未来に

少し先の未来を見ることは、今の私たちをうんと勇気付けると思う。 幼い頃、こんなことがあった。母のいたずらか思惑か今となってはわからないが、私は5歳か6歳の(それすらうろ覚えだけど)お誕生日プレゼントに「ついておいで」と当時住んでいたマンションから少し歩いた先の、ある一軒家に連れて行かれた。 連れて行かれた先は、小さな個人でやっているピアノ教室。物がもらえると思い込んでいた私にとって、見知らぬ場所に連れられ「これがプレゼントだよ」の意味がまったく理解できなかった。 わからな

Essay|憧れの人。

わたしの憧れの人は、みな料理上手だ。 暮らしを慈しむその眼差しに、その実利的な日々に、わたしは焦がれ続けている。ポーズでも何でもなくさらっと作ってしまうそれ。しかもただただ食べる相手を思ってることが伝わってくる手料理に、心底惚れてしまう。 かく言うわたしは料理上手ではない。 料理を作っている時、味見をするのを時々忘れてしまうし、火のコントロールもどうにも甘い。なんだったらすぐよそ見をしてしまう。でも料理をするのは好きだ。 もっと言うとキッチンに立つ、そのことが好きだ。

Essay|愛していると、I love youと

魔女の宅急便が好きだ。 ジブリ作品は全部大好きだけど、中でも特筆して好きな作品だ。もう小さい頃から数え切れないほど見ているし、とってもベタだけど、何かがあって落ち込んだときは、一度飛べなくなってしまったキキやあの街の人のことを思い出して、自分も頑張ろうと思う。それぐらい刷り込まれている作品だ。 言うまでもなく全てのシーン大好きだけど、キキが親元から離れるシーンについて書いてみたい。 それはオープニングのシーン。 キキが生まれ育った家を離れるとき、パパとお別れの挨拶をす

Essay|忘れないようにするにはどうしたらいい?

「〇〇さん(←わたしの名前)ハフポストに記事が載ってますよね?」と商談相手から突然言われた。 取り出された記憶に、最初なんのことを言われているのか全くわからなかった。「ハフポストですか・・・?」と言葉通りキョトンとしてしまう。なんてことはない。5年ほど前に社内の女性マネージャーを特集する企画があって、それが会社の公式ブログに掲載されて、知らないうちにハフポストに転載されていたらしい(転載されるのなら教えておいてほしいものだが)。 そんなことがきっかけとなって、2016年に

Essay|東京で桜の開花が観測されました

例年より2週間ぐらい早く東京で桜が開花したらしい。連日、心穏やかでないニュースばかりをみているものだから、こんな平和で陽気なニュースにわかりやすく気分はあがる。 朗らかな日に気づいたらわたしは、ほぼ動画を見て過ごしてしまった。わたしのリビングは南向きで角部屋なので驚くほどに日当たりがいい。一番日の当たる場所に大きめのソファを置いている。ちょっとだけ日向ぼっこでもしようか、とまったりしていたら3時間ぐらいひたすら動画を繰り返しみる日曜日。 人には際限なくずっと見てられるもの

Essay|ゆっくり回復していこうじゃないか

そういう時はあるんである。 被災の様子を見てると情緒が不安定になって完全に寝不足で。そしたら反動で次の日は眠りすぎてしまうし、とりあえず食べてシンクにたまった洗い物を片付けねばと思うのだけれど放置してしまうこと。そういう時はあるんである。心は置いてきぼりなのに、生活だけがとにかく進んで、なんとなしにやり過ごしては、辛うじて人間の生活についていってるような時。 気づいたら雨が降っていて、出掛ける予定をしていたけれど、”あぁ面倒くさい”の頑ななやつが真ん中に居座っている。「雨

Essay|覚えておきたい残したい

時間は不思議だなと思う。 まったくもって興味の湧かない集いだと3分ぐらいの間に「何回時計見るん?」と思うほど時間ばかり確認してしまうこともあれば、毎月恒例のイツメンとのカラオケは3時間が本気で秒なんである。 年々歳はちゃんと一つずつ増えているけど、中身はいっこも変わらず、苦手なものは相変わらず苦手なままだし、ありふれたことを言うようだけど「子供の頃は、大人ってもっと大人と思ってたよな」と言う感じだ。 Twitterを始めたのは10年前の3月11日で、この日になるとセレブ

Essay|ホラーを乗り越えた先のハッピー

それはもう随分と前から始まっていたのだ。 うちの会社のテレワークが始まって気づけばもうすぐ丸一年になる。これまで毎年240日ほど会社に通ってたところがこの1年は恐らく50日にも満たない。それゆえ、日常に入ってくる声、情報、景色はまるで違う。 一番目にする光景は、我が家だ。そりゃぁもう我が家のあらゆるほころびが気になって仕方ない。逆に言うと帰っては寝るだけの日々だった頃は、こんなにも目の前にあった揺れをよくもまぁ素通りしてきたもんだなぁと我ながら思う。 気になりだすと人間

Essay|世界でいちばん好きな人

今日KANさんの弾き語りコンサートに行った。 会場に入るとまだ開演前だけれど、KANさんが舞台の上でピアノの音を確認していてお客さんはそんなKANさんに特段湧き立つこともなく(みんなマスクをして無駄に喋れないというのもあっただろうけど)、まるでKANさんがピアノのウォーミングアップをするのはいつものことみたいに心地よい雰囲気で始まるのを待っていて、それはそれは素敵なディスタンスだった。 緊急事態宣言がもう少し延長されそうな東京でのライブは、ひと席ずつ空いた開催で大声で歓声