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Essay|ぱっつん前髪は眉下で

おもむろにハサミを取り出して鏡の前で前髪を切る。しかもかなりの目分量でザクザクと。愛用するのは、すきバサミとかのお洒落なやつじゃなく、本当に普通のハサミ。

これがわたしのストレス発散法だ。


この前髪との付き合いはかなり長い。今では「目よりも上で眉毛より下で」と言い慣れてしまった。幼稚園の頃のお誕生日写真も、ピアノを習っていた小学生時代も、バスケ部全員ショートカットだった青春の一コマも、どれをとっても前髪は眉下ぱっつん。頑固なものだ。


気まぐれに少しだけ伸ばしてみる。でも何だか自分の様子がおかしくなり、前髪をぱつっと切ってしまう。はぁ、すっきり。前髪を切ると気分がいいなと、もはや病みつきである。

とはいえ美容師さんほどうまくは切れず、自分で切るとガタガタしちゃうので、美容院でのカットはもっと好きだったりする。数ミリ単位で整えてくれるし、いい感じのカーブ。前髪タイムになると、その動きに惚れ惚れしていつも切る手をガン見してしまうのだ。


美容院に行った後、「前髪、切りました?」と声をかけられることが多い。他にももっと切ったところあるよと言いたいところだけど、確かに前髪も切ったから「うん。切ったよ」と答える。人がどれだけ前髪と顔まわりの印象で判断しているかがわかる。



街を歩いている時、3歳ぐらいのぱっつんキッズに出会った。眉毛より上の攻めた前髪も、ちょっと重ためのぽってり前髪もどちらもタイプ。

「わたしもお揃いの前髪だよ」と心の中でつぶやきながら、ふと気づくのだ。いまわたしの日常を取り囲む素敵女子たちはどのタイミングで幼稚園の頃のそれから卒業したんだろう。そしてわたしはいつまでぱっつん前髪でいるんだろうか、と。キラキラ女子を少しだけ羨みながら、おしゃれなすきバサミでも買おうかと物色する春である。


映画の主人公たちにも実はぱっつん前髪は多い。眉上のマチルダには及ばないけれど、私は私で我が道を進む。

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