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Essay|夏が終わる前に

夏は、出会ってしまうものだ。

2022年の夏、私の中で大きな出来事の一つはサマソニでRina Sawayama(リナ・サワヤマ)のパフォーマンスを見たことだ。彼女の存在は、音楽好きな友達から聞いて知っていた。ただ、私の体内に流れ込んできたのは、確実にサマソニのMarin Stageで彼女の歌声を聴いた時だ。

赤い衣装に身を包み、登場からオーラが半端じゃなかった。音が鳴った瞬間、彼女から目が離せなかった。圧倒的なエンパワーメント。彼女の音楽の真ん中にはそれがあった。「今度発売するアルバムの曲だよ」と歌ってくれたHold the Girlは最初から最後まで最高だったし、「I’m proud to be Japanese, でもG7の中で同性婚を認めていないのは日本だけで、そのことがとても恥ずかしい」と言って最後に歌ったFree Womanに鳥肌が止まらなかった。


映画「サマーフィルムにのって」の主人公は映画部に所属する勝新を敬愛し、時代劇映画が撮りたくてたまらない高校生のハダシ。部内の選抜に負け、自分の映画が選ばれず、くすぶっていたハダシの目の飛び込んできたのは、自分が思い描く武士役にピッタリの凛太郎だった。

「(凛太郎で)映画を撮りたい。時代劇をつくろう」と雷に打たれたみたいにハダシは、凛太郎に主役の交渉を始める(と言ってももう強引にもぐるぐる巻に捕まえるのだけど)何かに出会って、雷に打たれたみたいな衝撃。ずっとずっと心の中に渦巻いていた感情が、出会いをきっかけに流れ出るみたいなそれ。

動き出した時間は止まらなくて、ハダシは親友のビート板とブルーハワイたちと一緒にカメラを回した。走って、悩んで、あと戻りして、喧嘩して、それでも映画を作った。

青春は眩しくて、脆くて、その中に大切な宝物みたいな時間や気持ちが隠れてる。

もうこの予告だけでも何周でもできる。ハダシがエンディングの前に突然映画を止めて、ラストカットを取り直そうとしたみたいに。この時間よ終わらないでと願いながら、それでも切らねばならない。

私たちには伝えることがある。この夏が終わってしまう前に。

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