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Essay|東京で桜の開花が観測されました

例年より2週間ぐらい早く東京で桜が開花したらしい。連日、心穏やかでないニュースばかりをみているものだから、こんな平和で陽気なニュースにわかりやすく気分はあがる。

朗らかな日に気づいたらわたしは、ほぼ動画を見て過ごしてしまった。わたしのリビングは南向きで角部屋なので驚くほどに日当たりがいい。一番日の当たる場所に大きめのソファを置いている。ちょっとだけ日向ぼっこでもしようか、とまったりしていたら3時間ぐらいひたすら動画を繰り返しみる日曜日。

人には際限なくずっと見てられるものがある。人の咀嚼音に安心する人や(芸人のオカリナちゃんのご飯動画の妙に癖になること)、いろんな動物の鳴き声を採集してしまう人(たしかにあの動物ってどんなに鳴き方なのかなって気になってしまうよね)、わたしの会社には「石鹸の削る動画ばかり見ています」という後輩がいて、仕事が忙しくなるとそればかりみるらしい。石鹸?削る音?と驚いたけれど、再生回数は凄まじくてどうやら彼女だけではないようだ。気になる人はYouTubeで「石鹸 削る」でぜひ検索してみて欲しい。

かくいうわたしは暮らしの動画に弱い。部屋の引き戸を開ける、水道から水が流れる音、大根の千切り、コーヒーを注ぐ音。生活音フェチ。中でも慎ましさとか、地に足がついてるとか、そういう根付いたものにめっぽう弱いのである。

そのことに気がついたのは映画『リトル・フォレスト』に出会ってからだ。原作は五十嵐大介さんの経験から生まれた漫画で主人公のいち子を橋本愛さんが演じている。いち子は都会で、彼と暮らしていたけれど馴染めずに地元に戻って自給自足の生活を始める、というものだ。

いち子が朝起きて家をほうきで掃く姿を見ていると大してお家を掃除できないわたしまで整うような気がしてくるし、いち子が野菜の下ごしらえのコツを見つけると、一向に料理の腕が上がらないわたしまで腕が上がったように思えてくる(完全なる勘違い)。

気を抜くとすぐに暮らしは揺れる。「この部屋荒らしたの誰だ?」と犯人は自分しかいないのに手をつけられなくなることしばしだし、毎日コツコツと積み上げていくことのなんと難しいことか。いち子の自給自足の暮らしを見ていると、いま、ここにいることに集中せねばと気が引き締まる思いだ。

気がつけば至る所でくしゃみは響いて、桜も開花し、もう春はそこまでやってきている。

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