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Essay|憧れの人。


わたしの憧れの人は、みな料理上手だ。

暮らしを慈しむその眼差しに、その実利的な日々に、わたしは焦がれ続けている。ポーズでも何でもなくさらっと作ってしまうそれ。しかもただただ食べる相手を思ってることが伝わってくる手料理に、心底惚れてしまう。


かく言うわたしは料理上手ではない。

料理を作っている時、味見をするのを時々忘れてしまうし、火のコントロールもどうにも甘い。なんだったらすぐよそ見をしてしまう。でも料理をするのは好きだ。

もっと言うとキッチンに立つ、そのことが好きだ。上手じゃないけど、好きという気持ちがあるので、憧れの人に近づけるかもしれない希望がまだあるような気がして、ギリギリセーフなのではと期待している。その気持ちがあれば、上手になるのではないか。


憧れの人の一人に、辰巳芳子さんがいる。2012年に公開された映画「天のしずく」を見てから、私の頭の片隅には辰巳芳子さんが丁寧に手仕事をされた映像が頭に焼き付いている。

食べること。こんなに原始的で、習慣的で、幸せなことって他にない。元気が無くても美味しいものを食べると本当に元気になる。わたしはあんまり沢山は食べられないのだけど、それでも食べることは好きだ。食べることが好きな人も好きだ。そんなだから、美味しいものを作れる人には全幅の信頼を置いている。(もう本能レベルで)


わたしは今日も憧れの人に焦がれながら、なかなか上手にならない料理を作る。
ローマは一日にして成らず、なのだ。

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