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Essay|ふつうって何?

いろんな当たり前が揺り動かされる毎日だ。

小さい頃はよく「普通にしなさい」「普通がいちばんだから」と言われて、普通って何かわからなくて顔はわかりやすく無になっていたし、みんな普通でみんな普通じゃないよなと禅問答のように頭の中はぐるぐるしていた。結果的に大人になった今、私はとても普通で、まるで普通じゃない人なのだと思う。

昭和から平成、令和になり、時代が変われば、普通なんてものは変わっていく。これまでよかったことがダメになったり、ダメだったことが解放されたり。社会はいつも不確かで頼りないものだ。

SNSがもたらした負の要素はいくつかあるけれど、オタクや推し活が市民権を獲始めた今、いろんな好きを、あるがままの自分を、とことんまでに探求できるようになったことはSNSがもたらしたポジティブな要素だと思う。

そんな令和な2022年、日本でまた一つ素敵な映画が誕生した。テレビの世界に彗星のごとく登場して、魚のお話をするときはいつもキラキラと楽しそうで、多くの人から愛されているさかなクン(実はとっても偉いお魚博士)。そんなさかなクンの自伝的エッセイを沖田修一監督が映画化した。そして、さかなクンを演じるのは、女優でアーティストののんちゃん。

タイトルは「さかなのこ」。まだSNSもなかった時代に、タコさんに出会って、おさかなさんに虜なミー坊。小さい時からずっとおさかなさんのかっこよさに夢中だ。勉強は苦手だけれど、さかなの事は誰よりも詳しい。そして大好きだから、ちゃんと食べる。どう食べるとおいしいかも誰よりも詳しい。

映画の開始すぐにスクリーンに大きく映し出される沖田監督の宣言。あまりに不意をつかれたからかつい笑ってしまうし、妙に納得して泣きそうになるそれ。あぁ、そうだよな。さかなクンを演じられるのはのんちゃんしかいないよね、って激しく同意しながら映画は始まっていく。

大きな声で好きなものの話ができない人も、自分の好きがなんなのかわからないでいる人も、好きなものに夢中になる横顔に恋をしてしまっている人も、好きなもの以外社会とうまく付き合えなくなってる人も、全員見て。

のんちゃんの、いやミー坊のお魚を見つめるキラキラした目を見ていたら、うっかり吸い込まれそうで答えはここにあるんだなぁと思い知らされるし、誰かの好きを応援できる人でいたいなぁと思うから。そして何より自分の中にある好きを大事にしたくなる。

年齢も性別も長いも短いも、たぶんない。誰かと比べるものでもない。自分はこれが好き、それだけでいいじゃないか。

タコは吸盤で匂いを嗅ぐってこと、私は大人になって(というかこの映画に出会って)初めて知った。たこさん、すぎょい。

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