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住宅設計者の「家と子育て」11 子育て目線の家づくり~幼児と暮らすための内装材選び

自分の家をつくるとなった時、内装をどうしようかと考えるのはトップクラスの楽しみではないでしょうか。

大人だけ、もしくはある程度落ち着いた年齢の子どもと一緒に住むのであれば、余計なことを考えずに自分の好きな内装を選んでいけば良いと思いますが、乳幼児がいるとなると少し迷いが出る方もいるかも知れません。

例えば我が家の場合は住み始める時期の子供の年齢が4歳間近で、このくらいの子どもというのは、かなり自由に体をコントロールできるようになり一番暴れたい時期のように思えます。

家でも思う存分体を動かしてもらいたいのですが、そうすると壁にぶつかったり、床にモノを落としたり、場合によっては汁物をぶちまけたり吐いたり漏らしたり…などと様々な事態が考えられます。

これまでに設計してきた事例でも「本当は左官の壁にしたいけどお子様が小さいうちはクロスにしておいて大きくなったら左官にしたい」とか「トイレはとにかく全部水拭きできるようにしておきたい」などといったご要望があり、そこは設計者としても無理して口出しする要素ではないのでご要望通りに対応してきました。

ただ、自分の家となると、子どものために内装を諦めるということはしたくなく、逆に「左官の壁がどの程度の被害に合うのか」とか「オイル塗装のフローリングに液体をぶちまけたらどんな感じになるだろう」などといった実例収集の機会ととらえ、子どもがいても好きな内装にしたいという方々へデータ提供ができればと思いました。

そんなわけで、選んだ素材をご紹介します。

壁と天井

皆さんにどんどん左官を使ってもらいたいという思いがあり、ショールーム的に使う意味でもできるだけ左官ででいこうというのは決めてました。

一口に左官と言っても様々な種類がありますが、私は漆喰系の少しだけざらっとした手触りのもので、あまりパターンはつけずになるべくフラットに仕上げつつ時折コテ跡が残る程度にするのが好みで、意外とキズもそれほど気にならないように思います。

上の写真でもすでにテレビの下は結構キズがついてますが、個人差はあると思いますが私は生活していて特に気になるということもありません。

壁天井で左官を使わない場所
・浴室:樹脂モルタルなど水廻りでも使える左官材もありますが、狭い空間で他の部屋以上におもちゃなどの攻撃を受けやすそうなことから壁は耐久性で勝るタイルに撥水剤塗布にします。
天井は普通はやらないですが、ドアがなく湿気がたまりにくいので他と同じ左官の天井のままでいってみます。

・洗面の前:壁は浴室からの並びでタイルでも良いかと思いましたが、鏡と目地の関係がどうもうまく納まらないように思えたのでカウンターもろともタイルと似た色味のモルテックスにして、天井は他と同じ左官です。

・キッチン:モルタルに撥水剤でも悪くないですが、気に入ったタイルがあったのでそちらにして、天井は他と同じ左官です。

・寝室:布団をこすると左官と布の双方が摩耗するのと、ベッドで飛び跳ねて遊ぶことが想定され、ガンガンぶつかっても良しとできる素材でかつ見た目や調湿防臭性能があるということで桐合板にして、天井は他と同じ左官にします。

・子ども室:当面落書きができる場所として使いたく、将来的に自分の好きな色に塗ってもらおうということで、壁天井共に塗装下地となる紙クロスにします。

・玄関収納、ウォークインクローゼット:寝室同様に、壁天井共に衣類などこすれると双方が摩耗するので、消臭や調湿の性能が高い桐合板にします。

ちなみにクローゼットと寝室は共に桐合板ですが、クローゼットはあまり見えないので見た目はやや荒い板目のもの、寝室は落ち着いた印象の柾目のものを採用しています。

・楽器置き場:楽器がぶつかると双方傷つくのでスウェードクロスを試してみます。

以上が壁天井で左官を使わない場所になります。

一般的にはトイレの壁も左官にはしないことが多いですが、今回は男児がいる家庭のトイレで左官壁だとどの程度の問題が出るか試してみようと思います。

床は、1フロア40平米前後の狭い家なので1フロアの床素材は1種類で統一したいと思っていて、LDKと子ども部屋がある2階はオイル塗装の挽板フローリング、水廻りと寝室メインの1階はタイルとします。

フローリングは適度に節などもあるような割と木目がしっかり見えるタイプにしておくと汚れや傷が目立ちにくいのでホワイトオークの板目と柾目が混ざったようなものにしました。

ちなみに、キズや汚れがつきにくいという点ではオイル塗装よりUVウレタン塗装などが優れていますが、その場合の触感はプラスチックなので木を直に感じることができず、せっかくの天然木の魅力が半減してしまいます。

メンテナンス性と触感とどちらをとるかということになりますが、家の中で裸足で過ごすことが多い場合はキズや汚れが目立ちにくい樹種にしてオイル塗装をおすすめします。

また、キズがついた場合、UVウレタン塗装だと塗膜に傷がつくために白っぽくなり、木目によってはオイル塗装で木に直に傷がつくより目立ちやすい傾向があります。

2階からさらに1段上がった小上がり的空間は畳としています。

子どもと畳はとても相性がよく、飛び跳ねても多少のクッション性があり、寝転がっても気持ちよく、最悪交換も簡単です。

1階のタイルは全面同じ柄ですが、洗面所と浴室内は濡れる前提でノンスリップタイプ、それ以外は掃除のし易い通常のタイプで分けています。

レールの部分でノンスリップと通常でわかれてますが、パッと見は差がわからないくらいです。

タイルだと滑って転ぶなどを心配される方もいらっしゃいますが、防滑タイプではなくても激しく濡れていない限りはオイル塗装のフローリングよりは滑りません。

階段やベンチなどは無垢のホワイトオークやタモを使います。

階段はホワイトオーク
ベンチはタモ

ベンチや階段は角を立てているので、オークやタモのような硬い広葉樹だとぶつかると特に痛いですが、陰影をくっきり出したい場所だったので、ひとまずこの状況で様子を見てみます。

ちなみに本記事トップの画像は上のベンチが机として使われていていつまにか色鉛筆の跡だらけになっている様子になります。

その他

他にも、インテリアとして破綻しない範囲で多くの樹種を入れておこうと思っていて、手で触れる場所でさまざまな樹種を使っています。

小上がりの上がり框に杉
柱にヒノキ
間仕切りスクリーンにシナ
キッチン袖壁の角にチーク
窓枠はスプルス

特に広葉樹と針葉樹では手触りがかなり違うので、そのような樹種ごとの触感の違いなどを感じながら育ってくれたら良いなと思ってます。

住んでみて

現時点では住み始めて2年近く経っており、変化の様子をまとめた記事がありますので、そちらをご覧いただけるとどの程度ダメージを受けてるかの参考になるかと思います。

ちなみに上の記事にトイレは書いてませんでしたが、何度かのお漏らし系大惨事があったものの、その都度ノロアウトというスプレーで対処していて、左官壁に特に臭いがついていたりシミが付いたりということはありません。

ただし「小のときも座る」というのは徹底していて、これが立ってしているとまた違った結果になっていたかもしれません。

結果として、子どもに合わせた内装にしなくても特に後悔はしておらず、むしろ壁や床にキズがつくということなどを理解してもらいながら育てられるのが良いことのようにも思えます。

最初はキズがついて残念な気持ちなることもあるかもしれませんが、月日が経つとちょっとした思い出になったりもするので、思い切って好きな内装にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

・お知らせ
特に子育て目線ではない自宅の設計経緯をまとめたマガジンです。
これから家を持とうと考える方全般に何らかのヒントになるかと思います。

また、建築の楽しみ方なども書いてます。



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