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ゴヨ(2024)ASD×恋愛

 ASD(アスペルガー症候群/自閉スペクトラム症)の男性ゴヨが一人の女性に恋心を抱き、戸惑いながらもありのままの愛を伝えていく物語。アルゼンチン産のNetflixオリジナル作品だ。

 普段読んでくださっている方ならお気づきかもしれないが、私自身も少なからずASD傾向だなぁと思いながら生きているので、ゴヨの不器用でまっすぐな生き方を見て何度も目頭が熱くなった。

 ASD当事者の方はもちろん、ご家族や関係者、生きづらさを感じている方などすべての人に観てほしい心温まる良作だ。

〈あらすじ〉

ヴァン・ゴッホをこよなく愛するアスペルガー症候群のゴヨ。ブエノスアイレスの国立美術館でガイドを務める彼は、同じ職場にやってきた警備員のエバに心を奪われて、日々のルーティンに支障をきたすようになる。自身の結婚をめぐる問題で、愛に幻滅し自信を失っていたエバ。やがて2人は思いがけない出会いをきっかけに、これまでとは違う愛の形を見つけていく。

Firmarks


〈感想〉

 映画だから多少オーバーに描いているであろうが、ゴヨは典型的でわりと重度のASDだ。例えば、大きな音が苦手、決まったルーティーンがある(ゴヨの場合は階段昇降の際に段数を数えないと気が済まない)、一方的に話し続ける、冗談が通じない、相手の間違いをはっきりと指摘する、などの特性がある。卓越した記憶力により美術に関する知識量はすさまじく、それを活かして美術館の案内人として働いている。職場の人たちがとっても優しくて、ゴヨに障害があることは分かっていながら同時に彼の良さも理解してくれている。冗談が通じなくても「今のは冗談よ」と笑顔で返してくれる。

 家ではピアニストの姉と二人暮らし、シェフである兄ともよく会う仲だ。姉兄とゴヨは母親が異なるのだが、それぞれ愛情をもってゴヨに接してくれる。姉はやや心配性で過保護気味、一方で兄はある程度自立させた方がいいと考えているのだが、家族間での意見の相違や葛藤も非常にリアリティーがあって良かった。

 とにかくゴヨを取り巻く周囲の人たちがみんな愛情深くて優しい。発達障害を抱え非常に苦しい社会生活を送っている方も多い中、ゴヨは本当に恵まれている。みんながこうだったら良いのになと思ってしまう。

 美術館の警備員として働き出したエバに一目惚れしたことから、決まりきったゴヨの世界に少しずつ変化が生じる。おそらく彼にとっては苦手な「変化」だが、それは衝動的にそして情熱的に展開していく。お相手の女性エバはゴヨよりかなり年上で、夫とは離婚寸前、2人の息子を抱えているという状況。上の子は反抗期真っ只中で手を焼いている。そこに突如現れたゴヨはとにかく真っ直ぐで純粋。お世辞も言わなければ空気も読まない(読めない)彼は、人生に疲れきったエバの心をみるみるうちに癒していく。ゴヨは当然エバに性的な魅力も感じているが、ゴヨの兄はそのことについても包み隠さず話し合ってくれる。性的な話題をタブー視して婉曲的な表現にしてしまうとゴヨには分かりづらいからだと思う。このシーンも兄の優しさを感じた。

 ゴヨがエバに惹かれたのは単なるルックスだけではないと思う。一目彼女を見たときから強烈に惹かれた彼は、印象的な横顔や笑顔を静止画のように頭の中で思い描く。彼女の放つオーラも含めて彼女の全てに惚れたんだなと思わせる。衝動的な行動で突っ走ってしまうこともあるが、彼は自分にも彼女にも嘘をつくことができない。ASDの特徴でもある独特な言い回しも素敵だ。

”あなたの顔を照らす日の光は特別です。フィンセントの黄色のように”

”今までの相手とは違うかもしれません。でもありのままのあなたを愛しています。迷子で欠点のあるあなたを”

フィンセントはゴッホのことだ。「ひまわり」で有名なゴッホが好きだったあの黄色を指している。こんなに美しい口説き文句があるだろうか。

 



 ここ数年大人の発達障害が大きな注目を浴び、ASDやADHDの存在が広く知られるようになった。本作は発達障害を抱える人々を内包する社会へのメッセージを含んだ、一種の社会派映画でありながら、誰よりも純粋な男のラブストーリーでもある。映画の舞台は異国の地であるが、障害を抱えていても自分らしく生きることの尊さを教えてくれているようだ。

 Netflixで独占配信中。ぜひご覧ください。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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