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普通って不思議

普通という言葉の意味は普通に定義できません。
むしろ、真反対の意味で使われているんじゃないかと密かに疑ってます。

食堂で定食やカレーを注文すると、ご飯は普通でいいですか?などとよく訊かれます。

この場合、「(ご飯の量は) 普通 (盛り) でいいですか?」という意味だと思うのですが、私はいつも、いやまてよ、普通のご飯の量って一体どのぐらいなんだろう?と考えてしまいます。
まぁ、こんな反応をすること自体、普通じゃありませんが。

ご飯の量の「普通」といえば、昔、こんなことがありました。
私が通っていた大学には、歩けば日本代表に当たるというぐらいトップ・アスリートが在籍している体育学部があり、とにかく食べる量は(飲む量も)半端じゃない。たとえば、彼ら御用達の中華料理屋でチャーハンを頼むと、明らかに2合以上の山盛りが「普通」だったんです。
うっかり知らずに大盛りで頼もうものなら3合のチャーハンが供される。
それが普通の世界でした。
兎角ご飯にまつわる普通という言葉には、危険な香りが満ちています。

仕事でも、普通という言葉はたくさん使われています。
しかし、その基準は実にあやふや。
何が普通なのか、いまだにさっぱり分かりません。

大学を卒業後、就職した先は普通の日本の大手メーカー。
配属先に着任した日、定時の18時になっても誰も帰りません。
夜22時になってやっとみんな帰りはじめるのを見て、えっ、毎日こんなに遅くまで残業するんですか? と上司に訊くと、えっ、これが普通だよ (全く、これだから新卒は…) という顔をしています。
(あ、これ、90年代の話です)

いや、おかしい、絶対こんなの普通じゃないと思い続け、新卒一年目でありながら年末に5連休の有給休暇を申請し休んだ私は、こいつ普通じゃないな…と思われたみたいです。
今だと普通に休めるんじゃないか…と思います(多分)。

ところが、30代で勤めた米国の機器メーカーの本社では、金曜の午後3時ともなると、もうオフィスはガラガラでした。

えっ、皆さん帰っちゃたんですか? と同僚に訊くと、えっ、今日は金曜だよ、さっさと帰るのが普通だろ、まだ残ってる俺達の方がおかしいんだよと返されます。

なるほど、じゃ私も帰ろうと帰り支度を始めると、あ、そうそう、来週月曜の電話会議は日本時間で午前1時スタートだから、よろしくねと同僚に言われ、なるほど米国の普通って普通じゃないなと悟りました。

普通の格好、というのも実に曲者です。
海外でドレスコードが指定される場合、細かくattireが示されるのですが、日本ではよく「普通の格好でお越しください」などと言われます。
危ういのは、その普通は普通じゃない点です。

40代の時、会社の就職説明会を開催するので、普段の仕事内容のスピーチをお願いしますと人事に頼まれた時のお話しです。
普通の格好でいいですよと言うので、いつものタートルネックにチノパンの格好で会場のサンシャインシティのホールに行ってみると、来場された学生の皆さんは全員、ユニフォームの様な真っ黒なスーツを着ています。
壇上に立つ、明らかに場違いで浮いた格好の私を見て、きっと学生の皆さんは (この人、きっと、今日のイベントの運営スタッフの方でしょ? … え、まさか、この人が部長!? ) と思ったに違いありません。 

後で、一体全体、あの学生の制服みたいな格好は何なんですか? と驚いて人事担当者に尋ねると、えっ、ごく普通のリクルートスーツですよ… (当たり前じゃないですか、あなたの格好の方が普通じゃないですよ…という視線で) 返されました。
あれから十数年が経ちますが、いまだにあの格好が普通とされている様で、日本の行末が心配です。

私の人生なんて、ごく普通よ、というセリフは海外でも耳にします。

シリコンバレーでの長い会議を終えて、BMWで101を飛ばしながらそう呟く彼女に、ふーん、そうなんだ、で、プログラミングはいつ頃から始めたの?と尋ねてみました。

確か、はじめて触ったのは、北京大学 (中国では超難関) で応用数学を勉強していた時だったかな。でも博士課程の研究でいじってるうちに面白いなと思って、スタンフォードのコンピューター・サイエンス(のPh.D。彼女は20代にしてdouble degreeを取得)を取ったんだけど、うーん、Cimputer Scienceって、まだよく分からないなぁ...という答えが返ってきます。

すでに米国で二冊も専門書を執筆し、米国大手コンピューター会社のエンジニアリング・リーダーを務める彼女にしてみれば、それが普通の人生なんだそうです。

どうみてもそのキャリアの持ち主ってsix sigmaの領域、絶対普通じゃないよとコメントしかかったのですが、たっぷり1時間は標準偏差の解説をされそうだったので、そうだよね、プログラミングって奥が深いよねと、ごく普通のコメントを返して話を終わらせました。

普通って言葉、普通に使っちゃ危ういですね。

やっぱり普通って、普通には、普通の定義がないんだなと考えることが普通なのかなと、ごく普通に考えています。

I still think normally it is very normal to think that normal has no definition of normal.

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