SaaS企業 直近のARR・PSRランキング(ARR50億円以下の会社編)
こんにちは、今回も前回の記事同様SaaS企業のARR・PSRの比較ついて取り上げます。
対象企業はこちらです↓
【対象企業】
❶ 直近ARRが50億円以上(100億円程度)の会社(←前回の記事)
サイボウズ、sansan、フリー、マネーフォワード、ユーザベース、ラクス
❷ 直近ARRが50億円未満の会社(←今回の記事)
AI inside、カオナビ、スマレジ、チームスピリット、Chatwork、HENNGE、プレイド、ヤプリ、ユーザーローカル
前回は、直近ARRが100億円程度の会社を対象にしました。こちらの記事も合わせてお読みいただけると嬉しいです。
AI insideは見たことがないARRの伸び
まずはARRとARRの成長率です。
【補足①】ARRとPSR
・ARR(Annual Recurring Revenue)は、年間のサブスクリプション売上高
・PSR(株価売上高倍率)は、時価総額÷年間売上高
※この記事では時価総額÷年間のサブスクリプション売上高で計算しています。
【補足②】この記事でのARRの計算の仕方
・この記事では、直近でARR(直近の月次サブスクリプション売上×12など)を公表している会社はそのARRを、それ以外の会社は直前四半期のサブスクリプション売上×4をARRとしています。
・ARRの成長率は、(直近のARR÷1年前のARR×100)-100%で計算しています。
ARRの計算方法は、直近の四半期期間(3ヵ月)のサブスクリプション売上高×4で計算しており、ARR成長率は、同様に計算した1年前のARRからの増加率です。
AI insideは、1年前のARR(四半期期間のサブスクリプション売上高)が開示されている情報からとれなかったので、9ヵ月前のARRからの成長率を記載ししております。
そして、9か月間でARRが約4倍というすさまじい伸びとなっています。
先日freeeが日本最速(創業から8年8ヵ月)でARR100億円に達したというリリースを出していますが、創業から6年目のAI insideも最速更新を狙える位置にいるのかもしれません。
米国SaaS企業に求められる最低限の成長率であるMendoza Lineと見てみると、ARR20億円であれば成長率62%以上、ARR40億円であれば成長率46%程度以上が目安となります。結構高いですね。
(表はこちらの記事より抜粋。ARRの単位はMillion US$≒億円です)
もっとも、日本と米国では市場環境も規模も異なるため単純にこれを上回っていないとだめというわけではないですが、仮にこの目安と比較すると、ARR50億円未満の会社は少し緩やかな成長と言えそうです。
次に、すでにARR100億円程度に達している、ある意味「偉大な先輩たち」の過去の成長率を見てみます。
簡便的に有価証券報告書の売上高を利用。フリー、sansanは個別財務諸表の売上高、ラクスは連結財務諸表の売上高、サイボウズはクラウド売上高
sansanは、売上高20~40億程度の際は毎年50%~60%の高成長、フリーは、売上高20~40億程度の際は毎年2倍(成長率100%)という桁違いの高成長をしていました。
また、通常は、売上高が大きくなるほど成長率は下がっていきますが、ラクスは売上高が30~40億のときよりも60億以上の時の方が高い成長率になっています。
サイボウズは2016年より前は数字が取れなかったのですが、グラフで見ると、売上高が30~40億のときの成長率は40%程度ありそうです。
(サイボウズ株式会社「2019年12月期(第23期)決算および2020年12月期(第24期)事業戦略説明会」より抜粋)
日本最速でARR100億に到達したフリーは、当然過去の成長率でも突出しており、次点にsansanが続きます。
ARR50億円未満の方がPSRの「バラつき」は小さい結果に
次にPSRを見ていきます。
全体的に、今後の成長期待からかPSRはもともと低くなく、1年前と比較しても大きく変化はありません。
過去1年間のPSRの推移を見るとこんな感じです。
AI insideは、ARRの異常な(?)急成長と「AI」への期待感もあってか、一時期PSRが急騰しましたが、足元では落ち着いてきています。
AI insideのせいでグラフが見ずらいので、除くとこんな感じです↓
個別に見るとHENNGEがここ1年でPSRが2倍以上になっています。
ARR成長率は約20%とそこまで高くはないですが、圧倒的な解約率の低さが高評価の一因かと思われます。
また、前年同期対比では大きな変化はありませんでしたが、月次推移を見ると、ARR100億円程度の会社が各社が安定的に右肩上がりだったのに対して(下グラフ参照。横軸の数値は違います)、ARR50億円未満の会社の方が、増減の変動が大きいように見えます。
時価総額が相対的に低いために、その時の状況によって変動しやすそうです。
次に、PSRの「平均値」「中央値」「標準偏差」を比較してみます。
ARR50億円以上(100億円程度)の会社とARR50億円未満の会社の、2月末時点のPSRの平均値・中央値はそこまで大きな違いはありませんが、標準偏差を比較してみると、大きな開きがあることがわかります。
ARRが50億円未満の会社は、会社間の「バラつき」がそこまでない(一時のAI insideは除き)ですが、ARRが100億円程度になると、売上高成長率や、今後の成長可能性、IR活動(機関投資家比率を含む)などによって明暗がくっきり分かれているようです。
ということで、現時点でARRが50億円未満の会社も、今後の成長率等によって、数年後のPSRは大きく乖離が出てくる可能性がありそうです。
最後に
最後に時価総額です。
AI inside、プレイド、HENNGEなどは、ARRが50億円未満ですが、ARRが100億円以上のサイボウズやユーザベースよりも時価総額が大きくなっています。
もちろん、この瞬間の時価総額には特に意味はないですし、サイボウズやユーザベースがこれら3社と比較して成長性が低いとも思いません(むしろこの2社は個人的に好きな会社なのでこれからがめちゃくちゃ楽しみです)。
ただ、売上や会社規模が相対的に小さい会社でも、2倍以上の会社より時価総額が高くつく場合があるのは夢があり、SaaSの醍醐味の一つだなと思います。
そして、今回SaaS企業の数字を並べてみて思いました。めっちゃ楽しい。
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今回の記事は以上です。このnoteでは、ビジネスモデル(SaaSなど)の分析記事や、企業分析等を定期的に発信しています。
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■参考記事
なお、本記事は特定の株式や商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではありません。また、開示情報からできる限り正確な計算に努めていますが、情報の正確性、信頼性、完全性を保証するものではありません。************************
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