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プレイドの「成長可能性に関する説明資料」が素敵すぎる3つの理由

今回は、昨年12月に上場した株式会社プレイド(以下、プレイド)に関する記事です。

プレイドは上場の際に「成長可能性に関する説明資料」を公表しています。資料自体は昨年の12月にリリースされてたものなので、新しいものではないですが、この資料が素敵すぎるので紹介させてください。

プレイドの資料が素敵すぎると思う3つの理由
❶ 欲しい情報(要素)がすべて入っている
❷ 初めて見ただけでプレゼンできそうな論理構成
❸ 洗練されたデザイン

❶ 欲しい情報(要素)がすべて入っている

1つ目の理由は、会社の事業概要を理解する上で欲しい情報がすべて入っている点です。

以前、「納得感」のある事業計画書の持つべき要素について解説した記事を公開しました。

「成長可能性に関する説明資料」は事業計画書とはイコールではないですが、投資家向けにアピールする資料の一つであり、その会社のことを知らない投資家も会社の事業や成長性を理解できるように作られている点で、中身は似ています。

■補足:「成長可能性に関する説明資料」とは
「成長可能性に関する説明資料」は、企業が上場時に開示する資料の一つ(マザーズでは必須)で、その名のとおり、投資家に対して、会社が中長期的に成長する可能性があることを示す(アピールする)ために作成・開示している資料です。
「成長可能性に関する説明資料」は公表される点でも、いわゆる「事業計画書」とは別のものですが、投資家にアピールする意味では「事業計画書」と目的は近く(会社で資料を何と呼んでるかは別として)、実際に「事業計画書」をベースに、公表したくない/できない内容等を多少差し引きして作成いるケースが多いかと思います。

プレイドの「成長可能性に関する説明資料」には、こちらの記事で紹介した納得感のある事業計画書が持つべき8つの要素(「市場の課題」「解決策/ビジネスモデル」「競合/代替手段」「プロダクト/サービスの競合優位性」「市場規模」「成長戦略」「チーム」「ビジョン/ミッション」)のすべてがバランスよく含まれています

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また、プロダクトの導入事例や利用企業紹介、KPIや重要な財務指標である売上高等の情報(成果)が、上記の主張の「根拠(裏付け)」として説得力をもたらしています

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これらの要素は、会社の事業を「誰が」「なぜ」「いつ(なぜ今)」「どこで(どの市場で)」「何を」「どうやって」いるのか、を説明する要素であり、これらの要素が含まれていることで、プレイドを知らない人でも、事業の概要がつかめます


❷ 初めて見ただけでプレゼンできそうな論理構成

2つ目は、資料の論理構成についてです。

プレイドの資料を見て思った感想は、めっちゃわかりやすい!というのと同時に、これ自分でも投資家に説明できるな!と思いました。

もちろん質疑応答とかもあるので実際はできないんですが、要は、人に説明できちゃうくらい論理構成がスムーズで、かつ、わからないことがほとんどないということです。

資料の構成は以下のようになっています。

冒頭:会社概要/プロダクト概要
 ・ミッション(p.3)
 ・会社の基本情報(p.4)
 ・マネジメント(p.5)
 ・スナップショット(KPI)(p.6)
 ・プロダクト概要(p.7-9)
 ・利用企業(p.10)
 ・売上高推移(p.11)
1.CXが注目される理由
2.サービス概要
3.潜在的な市場規模
4.成長戦略とポテンシャル
5.財務モデル
Appendix

この資料は、プレイドを全く知らない人も読む前提なので、本論に入る前の冒頭に概要があります。

資料の冒頭は言うまでもなく重要ですが、概要部分は非常に端的にまとまっています(概要部分がだらだらと長く続く資料がたまにありますが、その時点で飽きてしまいます)。

また、以前freeeの決算補足説明資料の解説記事でも触れましたが、SaaS企業の場合は特に、冒頭にその会社の重要なKPIがサマリーとしてあると、その会社の状況が一気にイメージできるのでいいですよね(KPIが悪い会社は出しにくいですが)。

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このような良いKPIが冒頭にあると、グッと心をつかまれます。


次に本論部分ですが、まず、「1.CXが注目される理由」「2.サービス概要」で、Whay→How, Whatの順にサービスの説明がされています。

1.CXが注目される理由(Why)
2.サービス概要(How、What)

Simon Sinekの有名な「The Golden Circle」でも主張されるように、この流れは当たり前と言えば当たり前ですが、意外と、What(プロダクト)を細かいところまで述べることに終始している資料が散見されます。

3.潜在的な市場規模
4.成長戦略とポテンシャル
5.財務モデル

そして、マーケットの大きさとポテンシャル「3」、そのマーケットでシェアを獲得していくための戦略「4」、成長過程である現在の実績としての主要な財務数値とKPI「5」が続きます。


また、プレイドの資料は「全体的に粒度が細かくなりすぎていないこと」で、資料を読んでいる間に混乱したり飽きがこずに、最後まで通して理解できます。

例えば、サービスの細かい部分まで踏む混んだり、情報の粒度がどんどん小さくなっていくと、資料の中で迷子になったり、何が重要なのかを見失って結局要点が伝わらなかったりします

この「情報の粒度」は、要点をきちんと理解してもらうためにめちゃくちゃ大事です。


❸ 洗練されたデザイン

3つ目は、洗練されたデザインです。
デザインが綺麗すぎて逆に内容が頭に入ってこないくらい綺麗です(違うか)

ぼくはデザインについては素人ですが、色のトーンや配色がめちゃくちゃ綺麗だなと思いました。

例えば、こちらの「利用企業」のスライドは、単に利用企業のロゴを並べるだけでなく、強みのある顧客セグメント(Eコマース)と、意外と幅広い業種に利用されていること(その他が60%超)を示しており、今後の成長ポテンシャルも感じさせます。

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一方で、情報量も多いためごちゃっとしがちですが、色の使い方(Eコマースとその他の使い分けやそれらに属するジャンルの配色)やバランスを工夫することで非常にきれいにまとまっています。


また、全体的に文字数が少ないことも見た目を良くしている重要なポイントです。

アピールしたいことがあると、どうしても1枚のスライドになんでもかんでも入れ込んでたくさん説明してしまいたくなりますが、シンプルでも十分伝わる言葉で表現することで、とても洗練された印象を与えます。

機関投資家は、ほとんどの場合資料を見ただけではその会社の株式を購入しません。興味を持って1on1ミーティングをして(場合によっては何回かミーティングを重ねて)初めて株主の購入の意思決定をします。

従い、なんでもかんでもすべてを伝えるというよりも、興味を持ってもらえうきっかけになるような要点を端的に伝える方が好印象を与えるなと思いました。

ついつい言いたいことを全部盛り込んで、結果なんだかよくわからない資料にならないために、文字数を減らすことってやっぱり重要です。


最後に個人的に好きなスライドはこれ!

ここまで、論理構成や資料に必要な要素、デザインの話をしてきましたが、最後に、僕が個人的に好きなスライドを紹介させてください。

そこ?!って感じかもですが、Appendixにあるこちらのスライドです。

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一見するとよくあるサブスクリプションモデルを示した図ですが、よく見ると新規契約が翌年に少し増えています(緑色は筆者加筆)。これは、NRR100%超であることが前提で、プレイドのプライド(言いにくい)が現れているようにも思えます。

NRR(Net Retention Rate):既存顧客の売上高が前年度から(or特定の期間で)どの程度増減しているかを示す。解約がなくアップグレード等もなければ100%。

プレイドが提供しているプロダクトは、マーケティング領域のSaaSですが、企業のマーケティング予算は、会社の業績や季節性、プロダクト/サービスローンチのタイミングなどによって変動するため、必然的にマーケティング系SaaSは、管理系SaaSに比べて解約率は大きくなります

一方、管理系SaaSと違い、マーケティング系SaaSは、売上に直接影響を与える点で、ROIが合えばUpgradeのポテンシャルは管理系SaaSよりも大きい

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実際にプレイドの契約単価は大きく成長しており、これがARRの増加にレバレッジをかけています。

SaaS企業だとどうしても「解約率」ばかり目が行きがちですが、要は解約を補って余りあるアップグレードがあればネガティブチャーン(解約をアップグレードが上回っている状態)が実現できるわけで、NRR100%超はそれを意味しています。

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マーケティング系SaaSでもNRR100%超であるというプライドと自信。
そんな会社の思いが感じられていいなと思いました(考えすぎかもしれないですが)。

これからも「思い」の詰まった素敵な資料が見られると嬉しいです。

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今回の記事は以上です。このnoteでは、ビジネスモデル(SaaSなど)の分析記事や、企業分析等を定期的に上げているので、もしよかったらフォローをお願いします<(_ _)>

【参考記事】

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