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超スマートな freeeの決算説明資料を分解してみた

先日、freeeの2020年6月期の決算が発表されました。

決算内容は、年間売上高が前年同期対比で52.7%増の68億円、来期は40%増の96億円の予想とのことで、引き続き非常に高い成長率であり、来期末にはARR100億円も見えています。

決算自体に特段のサプライズはなかった一方、あらためてfreeeの資料がめちゃくちゃわかりやすく、スマートにまとめられていると思ったので、今回の記事ではその要因をさぐりたいと思います。


freeeの資料がわかりやすい3つの理由
❶ 伝えたいことが端的に伝わる資料構成
❷ KPIを軸に一貫した内容
❸ 読み手にスライドの意図が感じられる

以下のスライドは「freee株式会社の2020年6月期 第4四半期決算説明資料(2020年8月12日)」を抜粋しております。


❶ 伝えたいことが端的に伝わる資料構成

freeeの資料がわかりやすいと感じた1つ目の理由は、スナップショットやAppendixを効果的に活用することによって、今期決算で伝えたい内容が端的に伝わる点です。

freeeの決算資料の構成をまとめるとこのような感じになります。

■決算説明資料の構成
① スナップショット
 ・スナップショット(p.2)
 ・連結PL実績(前年同期、予算比)(p.3)
② ビジネスハイライト
 ・ユーザー基盤拡大に向けた取り組み(p.5-7, 14)
 ・顧客価値向上に向けた取り組み(p.8-11, 15)
③ 今後の展望
 ・外部要因(p.17)
 ・実現したいビジョンと大枠の方針(p.18)
 ・業績予想(p.19)
④ 財務実績
 ・ARR(KPI:直近のMRR×12)、企業数、ARPU、解約率(p.21-23)
 ・売上高、売上総利益、営業利益(四半期推移)、販管費(p.24-27)
Appendix
・KPI推移(ARR、企業数、ARPU)(p.30)
・PL、BS、CF(詳細)(p.31-34)
・実現したい世界とビジネスモデル(p.35-37)
・ターゲットと獲得戦略(p.38-39)
・競合優位性(p.40-41)
・市場規模と拡張性(p.42-43)
・サービスプラン紹介(p.44-47)
・株主構成(p.48)

会社の重要なKPIの状況や、今期の成果として伝えたいトピック事項を冒頭で説明し、詳細情報や毎期変わるものではない内容、補足的な内容はAppendixに記載されています。

これにより、freeeのことに詳しい機関投資家や、さっと概要だけつかみたい人は、冒頭のスナップショットとPLサマリーを中心に、5分程度で概要をつかむことができますし、初めてfreeeの決算資料を見る人も、Appendixの内容を見ることで、freeeの事業内容やマーケット規模、ターゲット層などがわかります。


すべての人が決算説明資料をじっくり時間をかけて読んでくれるとは限りません。むしろ多くの人は、最初の数ページ見て興味がなければ後半は見ない可能性があります。

冒頭から会社概要が数ページにわたって記載されている資料もよく見ますが、ぼくはfreeeのように、冒頭に会社の重視しているKPIをスナップショットとして出し、補足的な情報はAppendixにまとめている会社の方が好きです。

■スナップショットのいいところ
・会社が何を重要な指標(KPI)としているかがわかる
・最新の会社の状況が一目でわかる

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スナップショットのいいところは、会社にとって重要な指標が一目瞭然であることと、その時点の(最新の)会社の状況がすぐにわかることかと思います。

会社のPLは、四半期ないし、1年の経営成績を示すため、基本的には過去の情報が開示されます。

一方で、freeeが冒頭で開示しているKPIは2020年6月時点の情報を切り取ったものであり、最新の状況を把握するのに非常に便利です。

特にSaaS企業では、最新のMRR(およびそれに基づいたARR)が将来の売上のベースになる点で、過去1年間の経営成績の売上高よりも、直近のMRR(ないしARR)の方が重要な指標となりえるため、最初のスライドでこの情報を開示していることにも納得できます。

このスナップショットのスライドに前年同期比(YoY)の数字も入れたくなりますが、敢えてシンプルにしているのでしょう。


❷ KPIを軸に一貫した内容

2つ目の理由は、会社が重視しているKPIを軸に、資料全体が一貫性のある内容になっているという点です。

まず、先ほどのスライドにある通り、freeeは「ARR」「サブスクリプション売上高比率」「ARPU」「有料課金ユーザー企業数」を重要な指標としています。

freeeのような、いわゆるSaaS企業の価値は、サブスクリプションの売上高(Recurring Revenue)から算定されることが一般的なため、年間のサブスクリプション売上高であるARR(Annual Recurring Revenue)は、会社にとって最も重要な指標と言われています。

また、売上高は、単価×顧客数に分けられるため、顧客平均単価である「ARPU」と「有料課金ユーザー企業数」も当然に重要な指標になります。

顧客を増やすことは、「新規顧客を獲得すること」と「既存顧客の解約を減らすこと」にわけられるので、SaaS企業の売上高の成長ドライバーは次の3つにわけられます。

■SaaS企業の売上高の成長ドライバー
① 新規顧客の獲得
② 解約顧客の減少
③ 既存顧客の単価拡大

したがって、一般的にSaaS企業の重要な経済活動はこの3つに関連します。


ここで、freeeの資料のビジネスハイライトを見ると、「ユーザー基盤拡大に向けた取り組み」と「顧客価値向上に向けた取り組み」に大きく分かれていることがわかります。

(決算説明資料から2つスライドを抜粋します)

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「ユーザー基盤拡大に向けた取り組み」は、まったく新しいユーザーを獲得するための取り組みであったり、既存顧客の新しい部門などの新規ユーザーを獲得するための取り組みであり、言い換えると「新規顧客の獲得」と「既存顧客の単価拡大」のための取り組み・成果を説明しています。

また、「顧客価値向上に向けた取り組み」は、機能の向上により顧客満足度を高めることで「解約顧客の減少」や「既存顧客の単価拡大」を意図した取り組み・成果を説明していることがわかります。

「ユーザー基盤拡大に向けた取り組み」
⇒「新規顧客獲得」「既存顧客の単価拡大」のための取り組み・成果

「顧客価値向上に向けた取り組み」
⇒「解約顧客の減少」「既存顧客の単価拡大」のための取り組み・成果

これらの成果は、「ARPU」や「有料課金ユーザー企業数」、そして「ARR」の増加につながる点で、このビジネスハイライトでは、単なる今期のトピック紹介ではなく、「会社のKPIをよくするための取り組みができており、一定の成果がでている」ということが、具体的に説明されています


ちなみに、「有料課金ユーザー企業数」や「ARR」に大きな影響を与える点で非常に重要な指標である「解約率」は、これまで四半期の資料ではされていませんでしたが、今回の資料では解約率の推移と改善施策についても開示されています。

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SaaS企業が継続的に成長するためには、解約率を抑えることが極めて重要です。個人事業主や中小企業が多いことを考えれば、1.6%という解約率自体は非常に低い水準かと思います。

個人的には、「解約率」も十分に低い水準であるため、是非スナップショットに含めて継続的に開示してほしいなと思いました。


❸ 読み手にスライドの意図が感じられる

freeeの資料が分かりやすいと思う3つ目の理由は、各スライドに明確な意図が感じられ、それがわかりやすいデザインを通してきちんと読み手に伝わる点です。

まず、スライドに意図が感じられる例です。

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こちらは損益計算書(PL)の推移ですが、販管費がR&D、S&M、G&Aに分かれています。

海外のSaaS企業では、販管費をR&D、S&M、G&Aで分けるのが一般的なので、海外の機関投資家からも、なじみがある表記となっています。
(freeeの株主構成を見ると、海外投資家の比率が非常に高く、自社経営陣の株式を除く86%を占めています。直近の高いバリュエーションを見ても海外投資家から高い評価を得ているかがよくわかります)


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また、貸借対照表(BS)とキャッシュ・フロー計算書(CF)に関しても、必要最低限の記載ですが、気になる情報はすべてこの1枚にあります

例えば、feeeは現在売上高を早く成長させるために、費用が先行しており、結果的に赤字になっています。たが、直近の営業キャッシュフロー(マイナス13億)と比較して、現預金が151億円ある点で、キャッシュフローには全く問題ないことがわかります。

なお、財務CF(プラス119億)からもわかる通り、freeeは2020年6月期に大型の資金調達もおこなっています)


BSに関して、サブスクリプションビジネスでは、顧客が前金で支払う場合も多く、売上に対してどれくらい前金でとれているかを伝えるため、前受収益は重要な指標の一つです。

年間売上高68億円にたいして、前受収益が25億円なので、向こう4ヵ月分程度の将来の売上高をすでに回収していることがわかります。

営業利益がざっと26億円の赤字である一方、営業CFが14億のマイナスでおさまっているのは、前金でもらっている額が大きく増えていることが主な要因です。

また、顧客側の視点では、年間の金額を前払いすることは、サービスへの高い満足度や、解約意思の低さも意味しています。


次に、デザインも含めた「伝え方」のわかりやすさについてです。

例えば、freeeの顧客は、年間数万円の前半で使う個人事業主から、上場企業まで幅広いのが特長の一つですが、このスライドから、①freeeがターゲット群をどう分けていて、②それぞれがどれくらいの数あり、③どういったサービスの提供を想定しているか、④なぜ必要なのか などがよくわかります。

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現在の「有料課金ユーザー企業数」は22万ですが、潜在的な顧客数を踏まえると、将来的にまだまだ顧客数の増加や、高単価の顧客の増加が見込める余地が高いこと(伝えたいこと)のイメージがつきます。


また、こちらの「ターゲット群」別の獲得方法についても非常にわかりやすくまとめてあります。

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上場企業と、個人事業主では、獲得するためのマーケティングプロセス、セールスプロセス、また受注後のカスタマーサクセスの対応も異なることは容易に想像がつきますが、それぞれに対してどのようなチャネルでアプローチするのかが非常にわかりやすくまとめられています。

ターゲットに合わせてメリハリをつけることで、労働集約的ではなく、新規獲得からカスタマーサクセスまで、効率良く、スケール可能な仕組みがしっかりと確立されていること(伝えたいこと)がうかがえます。


まとめ

以上、今回はfreeeの資料がわかりやすい理由をまとめました。

(再掲)freeeの資料がめちゃくちゃわかりやすい3つの理由
❶ 伝えたいことが端的に伝わる資料構成
❷ KPIを軸に一貫した内容
❸ 読み手にスライドの意図が感じられる

最近は、IT系の会社を中心に、デザイナーが関与されていると思われる決算説明資料が増えてきてる気がしますが、freeeの資料は、資料として綺麗なことに加えて、内容も一貫性があってわかりやすく、参考になる点が多々あるなと思いました。

読んでいただいた方の資料作成や決算説明資料の見方の参考になれば幸いです。

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今回の記事は以上です。このnoteでは、ビジネスモデル(SaaSなど)の分析記事や、企業分析等を定期的に上げているので、もしよかったら「フォロー」もお願いします<(_ _)>

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