見出し画像

映画『劇場』に正面から殴られた話

「演劇でできることってなんだろうってずっと考えてた。そしたら全部だったよ。
 演劇でできることは現実でもできる。だから演劇がある限り絶望することはないんだ。」

だから永君は、今も生きて、書き続けているんだ。
1%でもあり得たかもしれない沙希ちゃんとの未来を演劇に託して。

「いつまでもつだろうか」
今にもバランスを崩して谷底に落ちてしまいそうな、綱渡りをするように生きる永君。不器用で実力もないのに、プライドだけが高い演劇の道を夢見る青年。

そんな彼が出会い恋をしたのは、同じく演劇−女優−の道を目指す沙希。地方から上京し、大学に通う。いちいち感情に素直な女の子で…って本当に彼女は感情に素直で真っ直ぐな女の子なのだろうか。そんな女の子なら、微笑みを浮かべて「私、賢いんだけどなあ」なんて言わないと思うよ。

永君は自分のことばっかで、時々何を考えているのかわからなくて、愛情を向けたことを後悔させて、でも離れることはできなくて。「ああなんでこんな男を好きなんだろう」と思いながらズルズルと沙希自身も壊されていく。

山崎賢人さんのふとした時に消えてしまいそうな儚さと、松岡茉優さんの内に秘めた「暗」が最高の塩梅。

2人の関係性を理解できない、という声は多いかもしれないけど、沙希に共感する女性は多いのでは?笑
どうしようもない男なのに、幻の1ミリの希望を信じて献身し過ぎ、自ら破滅するタイプ。
逆に永君タイプは、自分が永君タイプであることに気づかないと思う。

恋愛映画なのに、キスもそれ以上のシーンも一切なかったのが逆によかった。

劇中常に「今にも壊れそう」な関係性が切なく見えるけど、そんなの誰にだって言えることで。恋愛関係は全て、少しバランスを崩せば簡単に壊れてしまうような切なさと脆さの狭間で想い合い、成り立つものなんだなと。
だからこそ、この作品で描かれる刹那的な「幸せ」が愛しい。

若気の至りみたいな恋愛をしたことがある人は、もれなく正面から殴られます。是非。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?