五. 暗黒時代の自分に言いたい事。

母に「あんたなんか産むつもりなかった」と言われ、大学生だった私はそれまで以上に母を嫌いになった。そんなことを言う人間は、嫌われても仕方がないと思った。他人を傷つけても全く気にせず自分のことばかり大事にする母に完全に呆れた。

私は大学を卒業し1年バイトを続けながらお金を貯め、就職先を見つけて家を出た。もうこれ以上この家にはいられない、ここにいたら自分が壊れてしまうとずっと思っていた。早く1人になりたかった。

就職して一人暮らしを始め、最初は良かった。本当の自分を隠して、人に好かれる私でいれば全部うまくいくと思っていた。母から離れて自由になって、うまくやれる、幸せになれると思っていた。母や家族がおかしいだけで、きっと会社の人も新しく出来た友だちも私の味方になってくれる!

でもだんだん、それまで以上に生きづらくなっていった。

私は本当の自分を隠すことに慣れ過ぎてしまい会話に一貫性がなく、きっと相手に不信感ばかり与えたと思う。本当は好きではないものを好きだと言ったり、知らないのに知ってるふりをしていた。

自分の本心を隠す癖は、数年かけて私の本心を本当にわからなくさせた。他人に本心を隠すだけでなく、自分自身でも自分の気持ちがわからなくなっていった。

結果的に私はその後10年以上、自分をないがしろに生きた。わけがわからないまま、顔では笑って心の中は常に不安でいっぱい、全てに怯えて泣きべそかきながら、それを人には隠して一人ぼっちで生きていた。本来の私は、どんどん遠くへ行って見えなくなっていった。

「本来の私」が一番大切だったのに、私は何か他のものになることばかりを目指していたんだ。

「私が何をするか」より、「私は何になるか」しか見ていなかった。何か他のものにならなければならないと思っていた。

25歳位から職場で倒れた38歳位までは、今思えば特に暗黒時代だ。

仕事もコロコロ変わり、恋人もコロコロ変わり、趣味もコロコロ変わり、私という人間もコロコロ変わった。

この頃の私は、今の私とは全く違う私だった。毎日つらかった。でもつらいという気持ちに蓋をして、平気なふりをした。

わからなかったからだ。知らなかったからだ。

生きるって何か?家族って何か?友達って何か?自分って何か?

私は、心から安心した経験もなかったし、自分がどんな人間なのかの糸口さえ探す機会もなく、自分の力を試すために安全に失敗する練習もしたことがなかった。未来への希望もなく、知識も勇気も信頼できる仲間もいないのに、たった一人で生きていこうとしていたのだ。

私には人生のお手本もなかった。何がなんだかわからずに、でも自分は何もわかっていないと言うことからも目をそらし、いろんなものを見て見ぬふりして、自分の軸がない状態で何とかバレずにやっていくことに必死だった。ただただ、二度と傷つけられたくない、という思いにしがみついていただけだった。

自分を自分でコントロールすることなんて出来なくなっていった。だから酷いこともたくさんした。たくさんの人を傷つけたと思う。人とうまく関係が構築できず、自己嫌悪の毎日だった。いろんなことから逃げてばかりいた。自分の心が壊れないように保つので精一杯だった。

わかってるのに、出来ない。やりたいのに、出来ない。そんなことばっかり。わからないことだらけ。でも誰にも聞けない、相談できない。相談してもわかってもらえずにまた傷ついて落ち込む日々。

今思い出しても、つらい苦しい時期だった。本当の自分がわからないまま生活するということは、いつおかしくなって、自分で自分をどうにかしてしまっていても、不思議ではないくらい危ういことだったんだと今は思う。

だけど、なぜかはわからないが、私は本当の意味で死にたいとは一度も思わなかった。命は自分のものだとは思っていなかったから、どんなにつらくても、自分で終わらせることだけは頭に思い浮かばなかったのかも知れない。私の暗黒時代で良かったことは、生き残れたこと。それだけだ。あの時の私、何とか生き延びてくれてありがとう。













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