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毎日読書メモ(118)『麦本三歩の好きなもの』(住野よる)

君の膵臓をたべたい』『また、同じ夢を見ていた』と読んできて、とらえどころがないと感じてきた住野よる、今度は『麦本三歩 むぎもとさんぽの好きなもの』(幻冬舎、現在は幻冬舎文庫)を読んでみた。

大学で司書資格を取って、大学図書館の職員となって3年目位、一人暮らし、彼氏なしの麦本三歩の日々の暮らし。仕事で凡ミスをしては先輩たちに叱咤され、焦ると何を喋っても噛みまくる。ちょっと気を抜くと、転倒する。頼りなくて、見ていると手出し口出ししたくなるような、麦本三歩の日々の暮らし。でも、すべての章が「麦本三歩は〇〇が好き」というタイトルになっていて、麦本三歩が日々の暮らしの中で見つける幸福をお裾分けしてくれている。

たまたま、『アフリカ出身サコ学長、日本を語る』を読んだ直後だったから、日本人が、自分の価値観を人にもあてはめて、自分の価値観に達していない相手に対して不満を表明しがちである、という傾向への問題提起に意識的だったこともあり、麦本三歩のあり方は、有用なものだけが善であるかのような風潮へのアンチテーゼとして読めた。

日々の暮らしの中で、自分の無力さとか、使えない感とかがじわじわと身に寄せてきて、泣きたいような気持になることがあるが、一方で、小確幸を見つけて微笑んだり、美味しいものを食べたり、美しい風景に心奪われたりする自分もいる。他人の尺度で自分を測ることは自分の幸福にはつながらない、ということを、このささやかな小説は教えてくれる。三歩は天然だから、とラベルを貼られ、失敗してもセリフが噛んでも笑い飛ばされて終わる、それを受容しているのは、人生ずるしているようなもの、と、先輩との対話の中で出てきて三歩も腑に落ちていたが、わたしもここでストンと腑に落ちる。一見他愛なさそうなこの小説は、自分の尺度を持つことの大切さをじわじわと伝えているではないか。


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