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毎日読書メモ(97)『また、同じ夢を見ていた』(住野よる)

住野よる『また、同じ夢を見ていた』(双葉社→双葉文庫)を読んだ。ベストセラー『君の膵臓をたべたい』に続く、著者の第2作。

(約6年前に読んだ、『君の膵臓をたべたい』の感想はこちら

主人公は、頭はいいけれど、空気は読まない小学生の女の子。小柳という苗字は先生や同級生との会話の中で出てくるが、名前は出てこない。あえて名乗ろうとしていない彼女の名前を、何故、放課後出会う「友達」たちは知っていたのか。

クラスの中に友達のいない彼女。先生のことは大好きだが、先生から言われる言葉の中で、クラスメイト達を擁護するような表現や、彼女自身についての考察は、「的外れ」と一刀のもとに切り捨ててしまう彼女は、頭の良さを自負するあまり、つまらない嫌がらせをする同級生たちを馬鹿認定して一顧だにしない。学校に友達なんていなくても困らない。

学校から帰るころ、家の前で待っている「尻尾のちぎれたあの子」、あの子の怪我を直したくてピンポンを鳴らしたバタークリームケーキみたいなアパートに住んでいるアバズレさん、丘の上のすてきな木の家に独りで暮らしているおばあちゃん、壊れた鉄の門の中の四角い石の箱みたいな建物の屋上でリストカットしていた女子高生の南さん、アバズレさんも南さんも、彼女が便宜的にそう呼んでいただけで、実際の名前は存在しない。友達たちが自分を無条件に受け入れてくれること、彼女が憧れるような創造性と知性に、彼女は身を委ねる。

知に働いて角を立ててばかりいる少女に、友達たちは色んな話をしてくれる、そして、皆、「また、同じ夢をみていた」と口にする。両親と衝突したとき、クラスメイトのいじめで学校に来られなくなった、隣の席の桐生くんを励まそうとして、逆に委縮させてしまったとき、友達が、道筋のヒントを教えてくれる。答えは自分で見つけるように。

友達たちが教えてくれたことが腑に落ちるようになってきて、彼女は新しいステージへ進む。すべてが夢の中で進むように、時空はたわみ、実世界で何が起こったかは語られない。語られないけれど、彼女は自立し、友達たちがそう望んでくれたように、幸福だと思える人生を歩むことであろう。切なくて、もどかしいけれど、幸福がどういうものであるか、深く考えて理解したのだから。

現代の幸福論。


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