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あまんきみこ『車のいろは空のいろ ゆめでもいい』(毎日読書メモ(477))

あまんきみこ『車のいろは空のいろ』シリーズについては、1年半くらい前にポプラ社がnote内で特設ページを設けていたのをきっかけに再読し、思い出したことなどをつらつらと書いた。
車のいろは空のいろ白いぼうし 車のいろは空のいろ星のタクシー 車のいろは空のいろ
最近の新聞記事で、『白いぼうし』『春のお客さん』『星のタクシー』に続く新刊として『新装版 車のいろは空のいろ ゆめでもいい』(ポプラ社)が刊行された、と知ったので、早速読んでみた。印象的だった北田卓史さんの挿画、北田さんは既に亡くなっているので、新装版になるにあたって、シリーズ全部、黒井健さんの絵に。人間や動物の絵はちょっと北田さんに寄せた感じで、黒井さんの今までのイメージとちょっと違ったが、背景の淡い色鉛筆の絵が美しい。
そもそもまだあまんさんの新作が読めるのか!、という驚き。収録された7つの作品のうち4編が書き下ろし、あとは1987年、2002年、2007年に発表されたもの。あまんさんは1931年生まれ。90を過ぎても、こうして新作を世に送り出してくれる魂の強靭さを称えたい。

「きょうの空より青いシャツ」林の脇でタクシーを止めたたぬきの男の子、松井さんにはたぬきにしか見えないが、本人は空より青いシャツとズボンを着て、お日さまより金ぴかのバッジを付けた男の子に化けおおせていると思っている。タクシーを降りるときにいちょうの葉のお金で支払い、一旦林の中に消えていったのに、駆け戻ってきて、ごめんなさい、ぼくは男の子に化けていたたぬきだったの、と謝りに来る。
「子ぎつねじゃないよ」夜中に通りがかった公園で遊んでいる子どもたち。ブランコから落ちた子どもを助けに、子どもたちの中に入っていた松井さんは、ブランコで遊びたい、と願いをかけたら人間の姿に化けた子ねこたちが、どうやったら元の姿に戻れるかわからず途方に暮れていることを知り、一緒に、おまじないを解く呪文を考える。
「ゆめでもいい ゆめでなくてもいい」赤ちゃんを抱っこしてタクシーに乗っていたお客さんは、赤ちゃんが生まれる前に夫を亡くした母親だった。タクシーごと自分の夢の中に入っていって、成長した娘と、海沿いを一緒に歩く。
「きこえるよ、マル」たぬきの子どもがまりを追いかけて道を突っ切ったのに気をとられ、路側の溝にはまってしまった松井さんを、人間の女の子に化けたたぬきのちよちゃんが、お父さんお母さんを呼んで助けてくれる。
「ジロウをおいかけて...…」真夜中の道で、弟のジロウを追いかけている、というタロウくんを乗せて、ジロウの足跡を追う松井さん。やっと見つけたジロウは犬だった。タロウはジロウとひとしきり遊び、他の犬たちと走り去ったジロウを置いて、一人またタクシーに乗る。僕の名前はゴロウだよ、と名乗った松井さんが、タロウを下ろそうとしたら車のなかにタロウはいない。慌てて車から降りてみると、年配の男性が僕がタロウです、と名乗る。戦時中、犬を飼っていることを非難されるようになって、連れていかれてしまったジロウと、松井さんのおかげで再会することができた、と感謝する、タロウさん。車のいろは空のいろでときどき出てくる、時空を超えて戦争の痛みを振り返るシリーズ。読むと涙。
「とにかくよかった」青い毛糸のマフラーを巻いたくまのぬいぐるみが雪の中に埋もれている。拾い上げて、目につくところに座らせてあげたけれど、何回その前をタクシーで通ってもずっとぬいぐるみはそこに座ったまま。と思ったら、タクシーを拾ってくれたお母さんと子どもがいて、子どもがそのぬいぐるみを見つけられてよかった、と喜んでいる。ぬいぐるみに呼びかけた名前を聞いて、それは自分が子どもの頃大事にしていたくまのぬいぐるみと同じ名前だ、と思い出す松井さん。今、道で乗せたお母さんと子どもは、昔の母と自分自身だったのか?
「春、春、春だよ」カメラを持った新聞記者を万作山のふもとまで乗せていく。春を見つけたという子どもの電話で、フキノトウを探しに林の中まで行ったら、キツネの子どもたちが輪になって、雪をはらってフキノトウを地表に出しているところだった。キツネたちの春を呼ぶ歌が可愛い。そして、フキノトウの笑顔をたくさん写すことができた、と嬉しそうな、金茶色のジャケットの新聞記者も実は人間ではなかったのかな?

ファンタジー、というには、現実と幻想世界のあわいが不明確で、松井さんは超常現象を自然に受け止めているけれど、それはつまり境目なんてないってことか。境目のはっきりしないもやもやを、松井さんの包容力で暖かく包む。
現実のタクシー運転手も、実はこのくらいの体験はしているのかもしれない、と思わさせられてくる。また松井さんに会えてよかった。

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