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朝井リョウ『何様』(毎日読書メモ(446))

朝井リョウ『何様』(新潮社、のち新潮文庫)を読んだ。タイトルからもイメージできるように、直木賞受賞作『何様』(新潮社、新潮文庫)のスピンオフ的な作品だが、単独の短編集としても普通に読める。わたしは『何者』を読んでから長い年月がたっていて、『何者』との関連をあんまり意識しないで読んで、読了後、作者インタビューや書評サイトを見て、この作品のこのキャラは『何者』の中のこの人だった、というのを復習。ふむふむ。
『何様』の中の6つの短編それ自体は、直接つながりを持っておらず、時系列もばらばらなので、独立した6つの作品として読めるし、『何者』の主人公だった拓人自身は登場しない。

別々の物語だが、どの物語も如才なく生きてきた主人公が、その如才なさに疲れを感じている、そのほころびを描いた作品のように読めた。
「水曜日の南階段はきれい」は、拓人のルームメイトの光太郎の大学入学前のストーリーで、高校でバンド仲間と、受験勉強の合間に行うゲリラライブと、受験勉強の途中で話をするようになった女子との対話などは、自分自身の高校時代を思い出させる、ノスタルジックな物語だった。
「それでは二人組を作ってください」は、『何者』に出てくる理香と隆良の出会いのきっかけとなったエピソード。この本の中では女子が主人公となった物語のひりひり感が強く、読んでいて、自分にもあるそういう部分を作者に追及されているような息苦しい気持ちになった。
「逆算」も、女子が主人公で、何をしていても逆算してしまう、という、呪いのような物語。『何者』のサワ先輩が重要な立ち位置で登場し、それが救いとなる。
「きみだけの絶対」は、拓人の劇団仲間のギンジのその後を、親族の目からいかにも他人事として描く。価値観の相違、という、ある意味当然なことを、ギンジの甥の高校生サッカー少年が、彼女との対話を通じて強く実感する。
「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」は、『何様』の登場人物からちょっと離れたところにある関係者が絡む物語だが、マナー講師として自立する、生まれてこの方いい子だった女子の鬱屈は、こんな形でしか開放出来ないのだろうか、という痛々しさで読んでいて泣けてくる物語。
「何様」はずばり、『何者』のテーマだった就活を、選ぶ側から描く物語。拓人とともに面接を受けていた克弘が、人事部所属となり、1年目から面接の現場に立つこととなり思うこと、先輩たちの思い、そして就活とは別の人生の岐路。 

理想の人生なんてないのかな、と思う。就職は人生の目的ではない。結婚も目的でないし、出産も目的ではない。出世か、権力を掌握することか、それを目的にする人もいるだろうが、それを得たと確信できる瞬間はあるのか、そしてそんな瞬間があるとして、そのときその人は幸福なのか。
行き先のない人生は不安だが、レールに乗っかって生きていくのが幸せとも思えない。試行錯誤が幸福かどうかもわからない。何も考えていなければそれも幸せではないようだし。
そうした、人生のさまざまなステージにおける不安を、朝井リョウは、自分に身近な世代をスタートとして描き出している。作家としての熟練とともに、もっと幅広い世代の人間の不安と幸福を、リアルに描いていく人になるんだろうな、と思って読んだ。


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