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中島京子いろいろ(毎日読書メモ(285))

同世代の作家としてかなり気になる中島京子、すべてでもないが、かなり読んできたので、過去の読書メモから、発掘出来た感想文をまとめてアップしてみる。『やさしい猫』の感想はこちら
こうして振り返ってみても、中島京子の視点の自在さに圧倒される。平易で、すごく寄り添っている。
既にアップ済の感想文:夢見る帝国図書館彼女に関する十二章 

『均ちゃんの失踪』(講談社、のち講談社文庫):平安寿子の小説とかにもありそうな、超ダメンズと、その不在の間につながる女達、の物語。失踪しなくちゃいけない理由がはっきりしないよ。均ちゃんはダメダメですが、景子さん、空穂さん、薫さんはそれぞれにイヤな面もあらわにしつつ、自力で幸せになっていこうとしているところがなかなかいい。(2009年8月)

『長いお別れ』(文藝春秋、のち文春文庫):あーーこれはやられた。物語の最後で、長いお別れ、というキーワードがとうとう出てくると、別に意外性も何もないのに、ぐっと来る。進行する認知症。認知症の現れ方や進み方は人によって違うから、わたしが見て来たものと似ている部分と違う部分があるけれど、わたしが体験したものがもっともっと進むと、家族はこういう風になっていくのか、とか考えさせられる。幾つかのエピソードの中で、一瞬現れる登場人物が印象的。そしてこれはすんごい恋愛小説でもあったよ。中島京子、どの作品も前の作品に似てなくて、すごいよ。(2015年10月)

『眺望絶佳』(KADOKAWA、のち角川文庫):単行本にする際に書かれたスカイツリーからの手紙(前書き)に、東京タワーからの返事(後書き)がついて、ひとつひとつにつながりのない短編集がタワーの眺望、というまとまりを持つ。どれも印象的な物語。オチのある「おさななじみ」に驚き、「亀のギデアと土偶のふとっちょくん」の震災のシーンに泣く。「よろず化けます」と「倉庫の男」が好きでした。中島京子にはずれなし!(2013年1月)

『のろのろ歩け』(文藝春秋、のち文春文庫):北京、上海、台湾。近くて遠い国で自分を見つめる日本人女性たち。国としての大きなうねりの中で、のろのろ歩くことで、自分を忘れないようにする。(2012年12月)

『宇宙エンジン』(角川文庫):中島京子にしては直球勝負じゃないというか...ぐるっと遠回りしながら、真実に近づいていこうとする物語。「宇宙猿人ゴリ」を知らないため(作者と同年代なのに!)感情移入しにくかった? 非現実的な幼稚園の物語とか、人が記憶に残っていたり残っていなかったりする年代の記憶を、系統立てて再構築する難しさがこの小説のキモらしい。(2012年9月)

『東京観光』(集英社、のち集英社文庫):ひとつひとつに特につながりを持たせていない短編集。人間の心のずれ、とか、その辺をくみあげて、巧みに描いている。昔愛読した『鼻行類』の引用とか、知らない人が見てもわかるのかな、とくすっと笑いつつ読む。(2012年2月)

『花桃実桃』(中央公論新社、のち中公文庫):中島京子の本は1冊1冊、みんなアプローチが違って、どれも面白い。不思議な小路の奥のアパートはちょっと「コクリコ坂から」を思い起こさせてくれたりもした。地に足をつけて、店子たちの人生と向き合う。必要以上に関与せず、家賃を取り立てながら、ふと人と向き合う。しんどいような、楽しいような。ずっと殆ど会話がなかった父親と、三途の川をはさんで対話しているような感じもいいではないか。(2011年10月)

『小さいおうち』(文藝春秋、のち文春文庫):バージニア・リー・バートンの美しい絵本を思い出しつつ、読み進める。理想の美しい家、物語の中の建物そのものはずっと大切にされ、絵本とは違う進行(まぁ時間の流れ方も違うけど)。モダンで美しく、世間ずれしてない奥様の不思議な結婚生活と恋。現在から過去を振り返るタキの奉公生活。戦前戦中の今からは想像もつかない明るい情景。美しい物語を、タキの死後に完結させる親戚の若者。切ない、ちょっと昔の歴史小説。北村薫のベッキーさんものと通じる時代の時代小説。(2010年9月)

『FUTON』(講談社、のち講談社文庫):図書館で借りている間に中島さんが直木賞を取って、いきなり人気本になった『FUTON』、田山花袋の解釈と、現代の恋愛小説と老人小説が入り交じる。初めて花袋の『蒲団』を読んだ時にはまったく理解出来なかった。数年おいて読んだ時にはなるほど、と思った。そして今回は主人公の妻の視点で解釈しなおして納得。デイブのものの考え方とかもなんかリアル。(2010年7月)

『平成大家族』(集英社、のち集英社文庫):これはすごい! 一見恵まれた住宅事情だったのが、ちょっとしたきっかけでぎゅーっとした大家族空間に! 1章ずつ、それぞれの言い分について語られて、大家族を色んな角度から眺められるのが面白かった。みんなすごく不安定なのに、なんだか妙にハッピーエンド、じゃん? 楽しい読書でした。(2009年8月)

『ツアー1989』(集英社、のち集英社文庫)不思議な話でした。恋愛小説でもないし、ミステリーともちょっと違う。返還前の香港のざわざわした感じ? 1988年に一度行ったきりで、そのときの印象しかないですが、でも、観光客目線の話だな、と思う。星野博美のエッセイよりはわたしの方に近いというか。そして、これはインターネット世界を小説の前提に取り込んだ、メタ小説でもあるのだった。ふうむ。吉田超人はこの先どこへ行くのか。(2009年7月)

『イトウの恋』(講談社、のち講談社文庫):明治の手記と、現代を生きる人の話が織り交ぜられ、最初はすごく読みにくかったのだが、ベースとなる過去の手記(事実に基づいているのかな? 結構説得力あり)に、架空の恋を混ぜ、その謎の力に、なんとなく自分を見失って生きていたような現代の登場人物達が引き寄せられ、生き生きとしてきているのがいい感じ。最終章はちょっとありえなくなりすぎで、ここをもう少し抑えた方がリアルだったのかな、と思うけど、「恋」の感覚がよく出ていて面白かったよ。(2009年7月)

『さようなら、コタツ』(マガジンハウス、のち集英社文庫):部屋がテーマ、と前書きにあるが、そんなことは特に言わなくてもよかったのでは? 表題作でも、最後の「私は彼らのやさしい声を聞く」でお、妹の存在感がいい。相撲部屋の話「八十畳」が、切なくて、ちょっと印象的(他の作品と毛色がかなり違うが..)。はずれなしのよい短編集でした。(2009年6月)

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