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毎日読書メモ(179)『私の中の男の子』(山崎ナオコーラ)

まだ11月で、今年の総括をするにはちょっと早いけれど、今年のわたしのエポックメーキングだった出来事のひとつは山崎ナオコーラの再発見であった、と言える。『肉体のジェンダーを笑うな』(2020年発表)に驚愕し、『鞠子はすてきな役立たず』(2019年)でダメ押しをされた感じ(発表順は逆だが)。作者プロフィールに「性別非公表」と書いてあり、ジェンダーへの違和感が上記2作にもあらわれているが、2010-2011年に「Figaro japon」で連載され、2012年に単行本になった『私の中の男の子』(講談社)の中に、その萌芽を見た。

冒頭引用

雪村には十九歳まで性別がなかった。第二次性徴はあったし、体は膨らんだし、性交の経験もしたが、とくに性別はなかった。十九歳で作家デビューしたときに、初めて性別ができた。

作家として順調に作品を発表し、担当編集者紺野に、「雪村が死んだあと、オレが『全集』出す」と言わせしめるほど、惚れこまれる。しかし、著作販促の過程で、女子っぽい売り方をされることに気持ちが大きく抵抗する。エゴサーチしてしまって、容姿についてディスられ、更には性的にからかわれる感じに激しくショックを受ける。シュッとした感じの紺野にかわりに著者近影写真に写ってほしい、と頼んだりする。自分が過食嘔吐している、と認識しながら過食嘔吐する。男になりたい、というのではないが、髪を切り、スーツを来て人前に出るようにする。成人式も卒業式も振袖や着物は着ないでスーツで参加する。仲良くなった同級生と付き合ったり、でも自分は紺野が好きだ、と思って彼氏と別れて紺野とデートして告白しようとしてそらされる。一貫性なく、性的自認とかについては考えず、ただただ、自分の立ち位置について迷う。身体にメスも入れる。見た目と販促に惑って、著作のクオリティが下がって紺野に非難されたりもする。そして、何を書いても活動しても、紺野の意見を聞かずにいられない状況が嫌になり、自発的に紺野と決別する。この小説の中で雪村は絶えず自己分析をして、それがすべて的確だ。そして創作活動も順調で、創作のはけ口として、体を動かすことも覚える。そしてネパールに行ってヒマラヤをトレッキングする(おや、『肉体のジェンダーを笑うな』所収の「キラキラPMS」につながっている!)。ヒマラヤの情景が美しい。そして、身体を動かす習慣の延長として新しい生活を手に入れたところで物語は終わる。

これは小説だから、作者自身と重ねるべきではないだろうが、他者に自分がどうあるべきかを押し付けられたくない、というスタンスが、醸成されていった過程が見えた気がした。

カバー袖の<著者>を見よ! たぶん紺野ではないよね。誰? 

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