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花田菜々子『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』(毎日読書メモ(307))

前に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出文庫)を読んで、2年もたってしまった(感想ここ)。ちょうどその頃刊行された、花田菜々子『シングルファーザーの年下彼氏の子ども2人と格闘しまくって考えた「家族とは何なのか問題」のこと』(河出書房新社)をようやく読んだ。
前作同様、これもノンフィクションではなく、私小説なのだろう。ヴィレッジヴァンガード退職後、蔦屋家電のブックコンシェルジュを経て、「パン屋の本屋」を立ち上げ、お店の経営をしていた花田さんが、HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEの店長となった時期、小学生の息子2人を育てる男性と付き合うようになり、突如家族とか育児とか教育とかそういうことについてぐるぐる考えるようになった経緯が描かれていて、実録のように読めてしまうが、作中の花田さんの戸惑いやこだわりや歓びは、私小説化することで昇華されているのだろうな、と思う。
自分のそれまでの人生で経験してきたことから、家族を持つということについて積極的な興味を持てなくなっていた花田さんが、目の前にいる男性と、その息子たちと向き合うことで、自分は今何を尊重し、どう判断するかを冷静に検討している。今日は昨日の続き、という感じではなく、途中の段がすぽっと抜けた階段の、すごく高い場所に突然来てしまって、次の道を考えているような状況。
子どもにおもねらず、でも勿論嫌われたくはない。不用意な発言で心を閉ざされないように、彼らの気持ちのどういう部分を尊重し、どこの部分には一歩踏み入り、どこの部分では引くか。生まれ落ちた瞬間から一緒にいて、子どもが育つと同時に親も成長する(しているかは個人差があるにせよ)、そういう生き方をしてきたら、考えてもみなかった戸惑いの連続である。
自分が他者の価値観を押し付けられなくないのと同じくらい、他者に自分の価値観を押し付けたくない。その線引きがきっぱりとしていて、この本の背骨みたいになっている。一方で、まだまだ学ぶべきもののある子どもに、道筋をつけるのも大人の役目なのではないか。でもそれってどこまで関与すべきことなのか。既に大人になっている人の気持ちの在り方を見ていて、また自分自身の経験をかんがみ、悩む花田さん。
並行して、在庫4000点位の小ぢんまりした本屋から、フロア面積150坪もある大きな書店に移り、責任者として「女性向けの本屋」のコンセプト作りから始める書店員ライフについても書かれている。「女性」というざっくりしたくくりで、どのような店づくりをすればいいのか? フェミニズムだけでは受け入れられない。ふんわり可愛い感じだけでも変だし、そういうコンセプトを排除するのもおかしい。嗜好とか方向性の多様さについて考え、店づくりをしていくのもまた、血はつながらないが、大きな関係性を持つ人と向き合うのと似た部分がある、と書かれているように思えた。
文中に出てきた本のリストが巻末に載せられており、それとは別に「子どもとの関係性や家族問題について考えるための13冊」というブックリストもあり、緩やかなブックガイドにもなっている一冊。前作同様、わたしの知らない本がとても多くて、とても興味深い。たぶんこれから何冊か読むであろう。
いつか、花田さんと会って、わたしがこれから読むべき(というと強制的な響きだな、「読むといい」?)本を紹介してもらいたいなぁなどと夢想する。
HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEは残念ながら閉店してしまった。またどこかで本屋さんとして活躍する花田さんの姿を見たい。

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