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花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出文庫)

単行本が刊行されたころから話題になっていた花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』、予想以上に早く文庫化されたので、買って読んだ。最近あんまり本を買ってないのだが、本を買うのはやはり楽しい。

今は家の近くに図書館があるので、出来るだけ図書館を利用するようにしているのだが、自分のお金で買って、繰り返し読んだ本への愛着は独特のものがある。大きな本棚(複数)から既に本があふれている状態で(実家にも自分の本がまだ山ほどある)、そろそろ終活も見据えて、自分の持ち物を増やさないようにしなくては、と思っていても、やはり買ってしまう本は買ってしまうし、買って持ち帰る鞄の中身を眺める幸福感は、やはり図書館の本とは全然違う。

でも、本の話を人とするのは難しい。本とか読書とか、人によって、付き合い方受けとめ方が全然違い、読む本のジャンルだって全然違う。小説を読むのは時間の無駄だ、と思っている人とか、逆に実用書が店頭にずらっと並んでいると踵を返したくなる人とか、研究書と論文読んでいたら他にものを読む時間なんてない人とかもいるだろう。わたしは読書には目的なんてない、と思っているけれど、目的がないと本を読まない人もいるだろう。好きな作家がいても、「どの本が一番好き?」と尋ねられると答えられない。そういう質問は本が好きな人はしないような気もする。これも好きだしあれも好きだ。苦手な本もあるし、読もうとしても読み終えられない本もある。作者の言いたいことがわからない本もあるし、自分の感じ方は作者の意図とは違うんじゃないかな、と思っていることもある。一方、作者は一旦書き上げて本の形にしてしまったら、そこで役目を終えて、それをどう読むかは読み手の勝手だ、という考え方もある。

そんな中、人はどうやって、初めて会う人に、本を勧めることが出来るんだろう、というのはとても興味深いことであった。花田さんの本を手に取るのはとても楽しみで、ワクワクとページを繰った。

わたしもそれなりにサブカルは好きだと思っていたけれど、でも、彼女が長く勤めていたヴィレッジ・ヴァンガードの尖り方は、自分の趣味とはかなりずれていたので、彼女はどういう本を勧めていくんだろう、という過程が気になった(実際、存在は知っていても読んでない本、名前さえ知らない作者も結構いた)。また、出会い系サイトって何? というのもわかっていなくて、見ず知らずの人と会って怖いこととかないの?、というところとかも気になった(わたしはノンフィクション、と思って読んだが、実際は私小説にカテゴライズされるらしいので、ここに書かれたことがすべて真実とは限らないし、書かれていないことも色々あるのだろう)。勿論、ヤりたくて登録している人とかもいるようだが、彼女が会った人たちの多くが、そのサイトの健全な発展を願って、自浄力を高めようとしているようだった。ふうむ。

出会いのきっかけとして、本を勧める/勧められるというキーワードが、重きを置かれている場合とそうでもない場合があり、実際、花田さんも、勧めてはみても読んでくれてないんじゃないかな、という手ごたえを感じた出会いとかもあったようだ。逆に、本を勧めて貰うことに過度に期待がある人もいて、その人の要望に基づき、幾つかのタイトルを挙げていくと、それはもう読みました、これももう知ってます、という反応が来てしまう、という体験もしている。読書を取っかかりに人と話をするのは楽しそうだが、本当にかみ合った対話をするのはきっと困難なことなんだろうな、と思った。

売りたい本と売れる本が乖離すると、本屋をやっているのは辛いだろうな、と思う。彼女はこの本の体験を経て、別の本屋に転職し、更に幾つかの本屋を経験している。いい面だけを見るとおしゃれで面白そうだが、実際にイメージ通りの本屋を作ってそれが相応の売り上げを出すのはかなり大変なことで、わたし自身も幾つかの大好きな本屋の変貌を見てきたので、本が大好きな人が、自分の好きな本を勧めながら、経営を成り立たせていけることの難しさを思わずにいられない。それでも興味深い店づくりをしている様子をウェブサイト等で見ると、羨ましく、応援したくなる。本屋が大好きな人がいつまでも絶滅せず、幸せでいられる世界が続きますように。

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