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加藤シゲアキ『オルタネート』(毎日読書メモ(471))

一昨年の本屋大賞6位だった加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)、ようやく読んだ。高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が一世を風靡している社会、高校に籍がある学生だけが登録できて、自分の嗜好を詳しく登録すればするだけ、自分と相性のよさそうな相手を、オルタネートの中の人(AI)がお勧めしてくれる。知らない人でも、フロウを送って(友達申請?)、受けてもらえれば友達になれる。
東京にある、小学校~大学まであるキリスト教系一貫校の円明学園高校を主たる舞台として、何人かの主要登場人物たちの葛藤と成長を描く。

登場人物表はいったのかな? そんなに複雑な人間関係でもないし、説明されることでネタバレされちゃうのは逆に勿体ないような。

(と言いつつネタバレ的なストーリー紹介)
最初に、園芸部のダイキが出てきたので、ダイキが主役かな、と思ったらなんか違う。ダイキの友人で、調理部の部長のいるるが物語の中心で、彼女は含むところがあってあえてオルタネートはしていない。調理部は結構体育会体質。部の活動も忙しいが、蓉は、高校生料理コンテスト「ワンポーション」(ネットで中継され注目度が高い)にも出場している。
物語は蓉のワンポーションへの挑戦とライバル校の男子学生との恋を一つの軸、外部から円明学園高校に入学した凪津なづの、オルタネート傾倒とゆらぎが二つ目の軸、小学校時代大阪にいて、今は円明学園に通っている豊とバンドを組みたくて、大阪からやってきた尚志なおしが、侵入した円明学園でパイプオルガンを弾く深羽みうと交流するようになる物語を第三の軸として、それぞれが色々な形で接点を持ちながらそれぞれの道を模索する青春小説(ってまとめるとざっくりしすぎか)。
オルタネートへの妄信と、逆に不信感。ワンポーションの料理テーマの難しさとそれを具現する高校生たちのスーパーパワー、それをディスる大人の審査員。審査員、保護者、先生など大人たちも出てくるが、物語はひたすら高校生たちの思いに寄り添う。両親との関係が本人の嗜好に影を落とし、反発したり乗り越えようとしたりすることが、成長の一歩となっていることをきっちり描いている、わかりやすさが多くの読者に支持されたのかな。本屋大賞だけでなく直木賞の候補にもなり、高校生直木賞や吉川英治文学新人賞を受賞。

仮託するキャラクターは特にいなかったが、読んでいて、凪津の、マッチングアプリが自分に運命の人を運んできてくれる、という希望が痛く胸に刺さった。蓉の、あえてオルタネートはやらない、という気持ちも逆説的にまた身に迫るし、高校を中退したらオルタネートからも強制退会となり、豊とつながる道を奪われてしまって、衝動的に夜行バスで大阪から東京に来た尚志のやむにやまれぬ思いが、実は作者が一番描きたかったことなのかな、と思ったり。
最初に目立ったダイキはその後すーっと引くが、通奏低音のように、他のキャラクター達を陰から支える存在となり、そのキャラクター設定も面白いな、と思った。

料理のイメージ化の素材として、ウルグアイの詩人フアナ・デ・イバルブル(検索したらフアナ・デ・イバルボウロウという表記も)の「イチジクの木」という詩が紹介されていて、印象的。
「イチジクの木がいちばん美しい/果樹園のすべての木々のなかで」と語りかけるわたしのイチジクの木に向ける思いが美しい。
そこから、イチジクをはじめとした果物の寿司を創作する高校生を創作する作者のイメージ力に拍手。

悲しい出来事も起こるが、全体として明るい光にみち、のびやかな気持ちで読める小説だった。この作品をきっかけに読書が好きになるひとが沢山いるといいな、と思う。

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