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森本あんり『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)

何かの書評をきっかけに、「反知性主義」という言葉が気になったので、森本あんり『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)を読んでみた。
裏表紙の紹介文を引用する。「アメリカでは、なぜ反インテリの風潮が強いのか。なぜキリスト教が異様に盛んなのか。なぜビジネスマンが自己啓発に熱心なのか。なぜ政治が極端な道徳主義に走るのか。そのすべての謎を解く鍵は、アメリカで変質したキリスト教が生みだした「反知性主義」にあった。いま世界でもっとも危険なイデオロギーの意外な正体を、歴史的視点から鮮やかに描く」
反知性主義、という言葉を今まで意識したことはなかったが、例えば、ダーウィンの進化論を認めない人が一定数いるとか、アーミッシュとか、世界最大の経済大国なのに、どうも考え方に合理性のない面があるよねアメリカ、とぼんやり感じていた。
この感じ方は反知性主義とはなんとなくずれているかもしれないが、この本の中で論じられている反知性主義とは、「知性そのものではなくそれに付随する『何か』への反対で、社会の不健全さよりもむしろ健全さを示す指標だったのである」(p.4)。
メイフラワー号に乗って新天地にやってきたピューリタンたちに始まるアメリカのキリスト教史。牧師たちを養成するために創立され、宗教を究めるよりむしろリベラルアーツの教育の場として発展していったハーヴァード、イェールを始めとする名門私立大学。カトリックのような神学教育を修了しなくても、信仰心の発露により布教する人々。宗教的な確信に根ざしたラディカルな平等観。大覚醒と呼ばれる、周期的な信仰復興(リバイバル)。リバイバルの権化とも言うべき熱狂的な布教者たち(チャールズ・フィニー、ドワイト・ムーディ、ビリー・サンデーの布教活動について、この本で初めて知ったがとても興味深かった。ひたすら人々の回心を促す諸活動)。
アメリカのキリスト教と、ヨーロッパのキリスト教は確かに何か違う気がする。勿論アジアのキリスト教、アフリカのキリスト教も違うだろうし、これだけの多民族国家、キリスト教徒だけで構成されている訳ではないが、歴代のアメリカ大統領でカトリックだったのはアイルランド系のジョン・F・ケネディだけ(ちなみにバイデン候補もアイルランド系でカトリックだ)で、あとはみなプロテスタント、人口比率的にも人口の5割近くがプロテスタントだ。憲法で政教分離をうたっているが、実質的にこんなにキリスト教(それもプロテスタント)が通奏低音のように流れている国家は他にないかもしれない。
というか、「政教分離は世俗化の一過程ではなく、むしろ宗教的な熱心さの表明なのである。連邦成立時に採用された厳格な政教分離政策は、宗教の軽視でも排除でもない。むしろそれは、各人が自由に自分の思うままの宗教を実践できるようにするためのシステムである。この自由は、国家が特定の教会や教派を公のものと定めている間は、けっして得ることができない。だから、国家そのものを非宗教化することによって、各人の信仰を最大限に発揮し実践することができる自由な空間を創出したのである」(pp118-119)と読んで、目鱗。心のままに宗教に没頭するためにシステム化された国家だったのか、アメリカ。
本の中に散りばめられたさまざまなキーワードが、アメリカの独自性を際立たせる。ダニエル・ブーン、ジョニー・アップルシード、ポール・バニヤンといった、アメリカ人以外に馴染みのない人々。リパブリック讃歌。ありとあらゆる事象が、どうもプロテスタント信仰とつながっているらしい。プロテスタントの中にも色々な宗派があり、これはアメリカではなくカナダだけれど、『赤毛のアン』シリーズの中で、主人公たちは長老派(プレスビテリアン)的社会で暮らしていて、メソジストとかに批判的な立場をとっている登場人物が散見されたが、それも含め、社会がプロテスタントの信仰の中で成り立っている感じ。
まぁあんまり考えすぎるのもなんだけど(書いていると牽強付会的になっていく気がする)、日本で暮らしているのとはかなり違う秩序の上にある社会だね、と改めて思わされた読書であった。それとともに、子ども時代に一時暮らしていたアメリカの様々な経験が記憶の奥底からわーっと逆流してきて、それはそれで面白いことであった。

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読書、ヴァイオリン、オーケストラ、ビーズ、マラソン、ウルトラマラソン、観劇、美術館、ガレット・デ・ロワ、顔ハメ、ちょっとだけ乗り鉄。
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