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鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(毎日読書メモ(501))

前から気になっていた、鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(文藝春秋)を読んでみた。
読んではみた。しかし、中日ドラゴンズというチームについては殆ど何も知らない。名古屋ドームに行くのは、名古屋ウィメンズマラソンの時だけだ。星野仙一や落合博満が監督をやっていたことは知っているが、他の監督も、選手も、殆ど知らない。
読んで面白いのか?
と、思ったが、面白かった。Interestingの面白さ。

自分にとってのおさらい。
1987年 - 1991年 : 星野仙一 (第1次)
1992年 - 1995年 : 高木守道 (第1次)
1996年 - 2001年 : 星野仙一 (第2次)
2002年 - 2003年 : 山田久志
2004年 - 2011年 : 落合博満
2012年 - 2013年 : 高木守道 (第2次)

そして、落合が中日監督を務めた2004年から2011年について、各年の扉にその年の成績が記載されている(冒頭でネタバレ、って中日ファンにとっては当然の史実だけれど、中日に詳しくないわたしにとってはネタバレ的)。

2004年 リーグ1位、日本シリーズは西武に3勝4敗
2005年 リーグ2位
2006年 リーグ1位、日本シリーズは日本ハムに1勝4敗
2007年 リーグ2位、この年からセ・リーグで導入されたCSで日本シリーズへ、日本ハムに4勝1敗、53年ぶりの日本一
2008年 リーグ3位、CS敗退
2009年 リーグ2位、CS敗退
2010年 リーグ1位、日本シリーズはロッテに2勝4敗1分
2011年 リーグ1位、日本シリーズはソフトバンクに3勝4敗

いやはや、監督やった8年で、リーグ優勝4回、日本シリーズ進出5回、日本一1回である。もうちょっと弱っちいチームをうっすらと応援している身には、夢のような戦績である。

落合いわく、監督も選手も、契約書がすべてである。契約時に実行するとした戦績を上げるために最善の努力をするのが自分の仕事である。
観客を熱狂させるパフォーマンスは時として選手の身体を傷つけ、シーズン最後まで戦えなくなる危険をもたらす可能性があり、監督としての落合は、それを厳しくいましめた。勝つことに徹した戦略は、見た目が面白くないと言われることも多く、中日ファンにも不評だったりした。また、戦績がよい=スタッフと選手の翌年の年俸を上げることになり、結果として、財務状況が悪化しつつあった球団の首を絞めることになるという矛盾も発生した。
落合にたいする積年の不満と、中日新聞社の社長交代による、球団経営スタンスの変更の結果、落合は、リーグ優勝を狙う直前の2011年9月22日、シーズン限りの監督解任を宣告された。チームは結果的にそこから奮起し、ヤクルトからリーグ優勝をもぎ取り、日本シリーズは、最終戦まで戦い、結果的に敗北した。

印象的だったのは、「打撃は良くて三割、守りなら十割を目指せる」という言葉だった。この本の中で、色々な選手やスタッフの言動が紹介されているが、どの人も、落合監督と個人的ななれ合いや好き嫌いで付き合っていない。落合は言葉少なく、ただ、その人が目指すべきものを強く示唆し、それを達成した人は、確かにチームの中で重要な役割を担うこととなっていく。

作者鈴木忠平さんは日刊スポーツ新聞社の記者として、長年中日の試合や選手を取材してきて、その中で落合博満を、他の選手やスタッフの言動を記録し続けてきた。8年間にわたる落合采配下の中日ドラゴンズ、最初に結論はないので、この本の構成をするにあたって、自分自身の記録してきたものをひっくり返して、落合が目指してきたものは何であったかを考察したのだと思うが、まるで、結論が最初からあったかのように構成できていることに驚く。それだけ色々な人の話をしっかり聞いていたということもあるだろうし、何より、落合博満という人が、終始ぶれない態度で選手→監督として生きてきたのが、周辺を取材することからも浮き彫りになったのだと思う。

中日の選手に全く詳しくなく、各章で取り上げられた人(2004年川崎憲次郎、2005年森野将彦、2006年福留孝介、2007年宇野勝コーチ、岡本真也、2008年中田宗男スカウト、2009年吉見一起、2010年和田一浩、2011年小林正人、井手峻取締役、トニ・ブランコ、荒木雅博)ではっきりわかるのは福留くらい、という前提知識で読んでも、各章の登場人物の葛藤とか、落合の采配をどのようにとらえるか、とかが、はっきり見えた。

家族だけに心を開き(落合と言えばかならず言及されるであろう奥様についても、平らかに描写されていて好感が持てた)、他の人に対しては、「勝つ」ためにどうするか、自分でどう判断できるかだけを問いかけ、自分で説明不要と判断したことについては誰にも語らず、求められたことを実現するためにストイックに突き進んできて、結果として嫌われ、嫌われることも含め、自分の任務として8年間闘ってきた落合。

凄い人、って言っちゃうとあまりに陳腐だけれど、プロの世界で「勝つ」というのはこういうことなのか、と感じ入る。
記録より記憶に残るスポーツ選手が時々いて、確かに物語的にはその方が面白く、実際わたしのようにスポーツに詳しくない人でも名前を知っている人が沢山いるけれど、その対極にいる人なんだな、と強く納得。でもそれはそれで記憶に残ることとなっているではないか。

「勝つ」ことのすさまじさを、ありありと再現させている一冊。


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