社会学部とは

みなさんこんにちは。
大学進学・就職活動をする中で、自分の専門について考えることがあると思います。そんな中で「社会学部って何してるんだろう…?」と思ったそこの貴方に向けて。この記事では、実際に社会学部がどのようなことをしているのか、社会学部に入学した経験のある筆者の視点から述べていきます。


社会学部とは

 かっこよく一言でいうと社会学部とは
「社会における物事の望ましさを疑う学部」です。

 噛み砕いて説明をすると、社会において「望ましい」「当たり前」とされていることについて、本当にそれが良い事なの?と疑問を投げかける学部です。

具体的に何をしているのか

 なかなか抽象的なので、具体的に。
 早速ですが1つ事例を考えてみましょう。国のバリアフリー政策に関してです。社会学部の視点で政策を捉えると、次のような疑問を考えることができます。

 「一般的に自治体は、街中の障害物をなくすバリアフリー政策を通じて高齢者が物理的に動きやすい空間を提供するのに、なぜ団体Aでは、あえて障害を作る「バリアアリー政策」を通じて高齢者が自ら動く必要のある空間を提供するのか。」

 この疑問を見た時に、みなさんはどう感じるでしょうか。

 「バリアフリー政策」は一般的に、誰にとっても良いもの。特に高齢者にとっては非常に良いもの、という認識を持つと思います。たしかに、街の段差をなくすことで高齢者の歩きやすさや動きやすさにつながると考えられますよね。
 しかし本当に「バリアフリー政策」は、すべての高齢者にとって絶対的に良いものなのでしょうか。例えば団体Aでは、動ける高齢者に自分から動いてもらうことを良しとしています。高齢者自身に、ご飯の配膳を自分でしてもらったり、買い物に行ってもらったり、近くの集会場で交流したり。動ける高齢者は、むしろ多少の障害物があることによって、心身共に健康を維持することができるかもしれません。また、物理的に歩きにくい空間があることは、交流の場となることもあります。ベンチや道路脇の花壇などで一休みしているときに、ひょんな声掛けから交流が生まれるかもしれません。

 このように、社会にとって「当たり前」「望ましい」とされる事柄について、改めて見直す機会をくれる学問が社会学です。ただ現存のものを否定するわけではなく、見えていないものを可視化してあげる。そんな「啓発」の側面を持つ学問でもあります。

 この考え方を軸としたうえで、その対象となる学問領域が非常に広い。というか、もはや認識できるすべての事象が研究対象になり得るのです。だからこそ社会学部が何をしているのか、学部生自身でも言えないという状況が生じます。国際政治分野から子育て、さらに歴史まで、この軸のもとたくさんの再検討がなされているのです。

 ここまで述べてきた中で、社会学部ひいては社会学の重要性、そして面白さは多少伝わったでしょうか。次は学生視点にフォーカスしていきます。

社会学部に所属する意義

 個人的に、広く学んでから専攻を選択できる点に意義があると考えます。
 社会学部の場合、大学入学後にはじめは広く浅くいろいろな分野を修めることができます。その後、自分の興味がある学問に対して飛び込んでいける点が特徴です。進学振り分け制度と似ていますね。1つ違う点を挙げるなら、それは社会学部の場合どんな勉強、興味も無駄にならない点です。
 先の事例で分かるように、社会学部生は社会の持つ共通認識を改めることが求められます。そのためには、物事に対してより多くの視点を持つことが不可欠です。何もない場所からそのような考え方を生み出すことは難しいので、特に若い学年のうちは、インプットの場を学部が提供してくれるのです。年を経て、引き出しが多ければ多いほど、様々なアイデアを発想することができるようになります。
 そのため「好奇心をもっていろいろな分野のことを知りたい」そして「得た知識を役立てたい」と考える学生にとって、社会学部はオアシスだと考えます。

社会学部で得られること

 社会学部で得られる能力は他の学部同様、論理的思考力言語化能力です。
 社会の「望ましい」を疑うことは、対象の持つ価値観と社会の持つ価値観との「ずれ」を見つけることで初めて可能になります。そしてその価値観のずれが大きければ大きいほど、非常に良い疑問であるといわれます。
 どこまでが同じもので、どこからが異なり、なぜそのような違いが生じているのか。言葉の定義、対象の範囲、調査方法などによってさまざまな答えがあり、これもまた明確な正解がありません。あくまで論文でも「私の調査したうえでは」という但し書きがつく答えを提示することになります。そのような状況で相手に自分の意見を伝えるには、初心に立ち返り論理的思考力とその根拠、そしてそのイメージを丁寧に言語化する能力が求められます。

 個人的に、社会学部は他の学部と比べてこれらの能力を獲得しやすい学部であると考えます。社会通念を疑うことは、自分と周囲、そして対象を切り離して考えるということです。「自分」「対象」「社会」と定義される範囲は一致したり、部分的に同じであったり、まったく重ならなかったり。これらを毎回の疑問できちんと整理する必要に迫られます。そうでなければ、「ずれ」を読者に伝えることができないからです。この工程を繰り返すことで、自分の考え方の癖や根幹の部分を明らかにできます。
 癖や思考回路を理解して自分でコントロールできるようになると、周りに自分の意見をどのように伝えることが効果的なのか、という技術の部分に目が向き始めます。これにより学生の論理的思考力と言語化能力が鍛えられていくのです。
 
 疑問に対して様々な仮説を立て、調査を行い、修正し、結論を導く。他学部と大きく変わるものではないかもしれませんが、自分で選んだ好きなことを通じてスキルを身に付けられるという点が、非常に魅力的だと感じます。

Tips.疑問づくりに関する注意点

 先に提示したような疑問づくりに関して、注意が二点あります。

一点目:批判的に捉えるとは

 このような疑問は政策を全面的に否定するものではないということを再度ご承知おきください。あくまでこの疑問を解くことで、今の国の政策は良さげだけど、必ずしも全員にとって良いとは言えないんじゃないの?という批判を行うことができるのみです。
 今回の事例であれば、「自治体のバリアフリー政策は身体的に動きにくい高齢者にとっては非常に有用な設備であるが、動ける高齢者にとってそれが最善とはいえないのではないか?」という批判を行うことができます。ここから結論の一例として、「現在のバリアフリー政策の対象から省かれている動ける高齢者に対する政策も増やしていこうよ」と提言することが可能です。

二点目:根拠と表現方法

 疑問は根拠をもって適切な表現で提示する必要があります。印をつけた状態で、先の疑問を再掲します。

<一般的に自治体は>、【街中の障害物をなくすバリアフリー政策を通じて】《高齢者が物理的に動きやすい空間を提供するのに》、
<なぜ団体Aでは>、【あえて障害を作る「バリアアリー政策」を通じて】《高齢者が自ら動く必要のある空間を提供するのか。》

 比較の文章を作るには、同じものを、同じように、同じ内容で比べることが求められます。ポイントは、主語や述語、内容など比較が分かりやすく表現できているか。またそもそも、各要素はきちんと証拠を提示することができるものなのか。きちんと精査しましょう。
 例えば今回の事例。「高齢者」とは果たしてどの年代の、どのような身体的特徴を持った人なのでしょうか。それによって、この疑問が成立するかどうかが大きく変化しますよね。
 また、国や自治体は、バリアフリー政策ではない形で動ける高齢者に対してもちろん支援をしていると思います。今回の疑問を論文にするのであれば、それらをきちんと調査して、「足りていないよね」と述べる必要があります。根拠のない批判ほど意味のないものはありません。

 言葉の定義もしておらず、証拠も提示していない。それゆえにこの疑問は非常に中身のないものになっています。認識のずれが大きくなるような良い疑問を作ることは非常に大変で、時間がかかるものなのです。
 だからこそ社会学部は剽窃の類に非常に厳格です。参考文献の提示はきちんと行いましょう。

おわりに

 この記事を読んで、「社会学部って楽しそう!」と感じてくれた方は、きっと社会学部を満喫できると思います。面倒だな…と思った方もきっといるでしょう。こんなこと考えている学生もいるんだな…と思ってくれると嬉しいです。また縁があったら是非考えてみて下さい。裾野も懐も広い、社会学部はそんな学部だと思います。

 最後まで読んで下さりありがとうございました。社会学部は私にとって非常に楽しい経験でしたし、是非皆さんにお勧めしたい学部でもあります。興味がある方はぜひ門戸を叩いてみて下さい!


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