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異世界か現実か。小川洋子さんの世界のこと。

今朝は冷え込みました。
この秋初めて、外は霧で真っ白に。
山も消えた。


今週は月曜日が休日だったので、一週間がとても早く感じます。

週末はいつも、なにかしら貸し借りのため図書館に行きます。
2週間前に借りた本は短編集だったので、一話ずつ、大事に読みました。



1カ月ほど前、書店で目に入ってしまったんです。
小川洋子さんの本。

表紙にヒグチユウコさんの絵。
金色の文字。

繊細で、ファンタジーの世界への入り口を感じさせるような、ヒグチさんのタッチやモチーフ、色使い。
小川洋子さんの世界観とぴったり合っているな、と思う。

そっとカバーをめくると、丁寧に作られたピンク色の紙の表紙。
(気になる単行本は、カバーの中身をこっそり見てしまう。図書館の本では見えなくなるのが残念。)



『掌に眠る舞台』

演じること、観ること、観られること。ステージの彼方と此方で生まれる特別な関係性を描き出す、極上の短編集。


舞台にまつわる8話の短編小説が収められています。

登場人物たちはみな、きっと光を浴びるような舞台に立つことはないけれど、自分だけの小さな特別な世界=舞台をもっています。

それを象徴するかのように、登場人物たちには名前がないのに気付きました。
少女、縫い子さん、室長、花柄さん、…それから一人称ばかり。

そのせいか、言葉では表現されていても、私には表情が思い浮かばない。
のっぺらぼうのような、不思議な感覚なのです。


読み始めると、小川洋子さんの独特な世界にすぐに引きずり込まれてしまいます。
いや、すぐにではないな、徐々に徐々に砂浜から海に入っていくように、気付いたら底にいるような。


甘く柔らかいようでいて、ひんやりとした透明な空気感。
青とも紫ともいえない寒色の世界のイメージ。


どこか過去のnoteでも触れたような気がします。

読むときに異世界に入り込んでしまう感覚、一人夜に読んでいると怖くてうしろを振り返ってしまうあの感じ、村上春樹さんの小説と同じものをもっている、と以前は思っていました。

でも、やっぱり全然違う。

村上さんの小説では、壁や井戸、地下など異世界との境界のようなものがある。

でも、小川さんの小説には境がなく、気付けば迷い混んでいる。


あれ、これが私のいる世界?
どう考えても正常じゃない、狂気すら感じるのに、なぜか皆自然なことのように、淡々と静かに日々を過ごしている。

あれ、おかしい、と感じている私がおかしいのか…。

しかし次第に境目が曖昧になり…。

登場人物といっしょに息をひそめて舞台を覗き込んだり、何かを待ったりしているような不思議な感覚になっていく。


不安にかられてくる、なのに、どこまでも美しく、惹かれてしまう。

物語も、文章自体も。


好きな作家は?
と聞かれて、小川洋子さん、と答えていたときもありました。
でも、正直わからない。

その美しくて恐ろしい世界に入り込むのが怖いときもある。
でも今回のように、新刊を目にしてしまうと、つい引き寄せられるように手にとってしまうのです。


この2週間いっぱい、私の本棚で美しい存在感を放っていた本、惜しいような気持ちで明日図書館に返してきます。

また次、同じようにこの世界を待っている方がいるので。



仕事終わりの夜、明日も朝早いのに、読書感想なんて手をつけるんじゃなかった。笑

おやすみなさい。




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