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ゆく河の流れは、絶えずして。


案外、近くにあるのに気付いていないことって多いものだ、と思う。

今日も用事があって、車を走らせる。
暑くなりそうな日差し、景色は眩しくカラフルで、しっぽをぶんぶん振る犬のように、落ち着かない気持ちよ。

欲張りなのです、たぶん。
せっかくの世界の変化を見逃したくない(せめて、自分の触れる小さなこの世界の)、心に留めておきたい、言葉にして置いておきたい、そんな気持ちとうれしさとで。


道に沿って、ずっと川が流れている。

キラキラと日差しを受けて光りながら、流れていく。
いくつかの流れが合わさったり、分かれたり、曲がりくねったり。
青いような、薄い緑のような、底の石が見えるほど浅く透明にゆるゆる流れるところもあれば、白いしぶきをあげて速く流れるところもある。


通り慣れた道なのに、どうして今日はこんなに川の表情がくっきりと感じられるんだろう…と不思議に思っていた。

季節だ。
これは、今まさにこのときだけの景色だ。
そう気付いて、ひとり小さく感動する。

春の晴れた空、鮮やかさを増す植物たち……
そして、木々の新緑!
枝の先にチョボチョボと出始めたばかりの、みずみずしい黄緑の小さな葉っぱ。

このほんの短い、ほんとうに始まったばかりの新緑の季節だけの。
涼しげに景色を透かして小さく揺れる木々。
あっというまに葉はわさわさと増えて密になって、緑で埋め尽くされちゃうから。
そうなると、川沿いの道から、川は見えなくなってしまうんだ。

なるほど、だからか、と新しい発見をしたようで、うれしくなる。



海を目の前にして、寄せては返し、寄せては返し、が延々と続くのを見ていると、なんとも言えない不思議な感覚になるのは、やはりそういうことだったのか……と今になってなんとなく腑に落ちた。


海のもらたす憂鬱の核心は、寄せ返す波が同質の時間を無限に引きのばしてゆくことの恐怖に由来している。

小津夜景「いつかたこぶねになる日」より



川を見ているとなぜか軽やかな気持ちになるのは、逆にそういうことか。

流れの速さや進み方は違えど、常に流れている。
どの流れもとどまらず、同じ方向に向かっている。

もちろん、海を眺めているのも好きだと思う。
でも、身近なところに流れる川、この存在の価値に改めて気付いた今日…。


以上、これはすべて、運転しながら考えをめぐらせていた、私の頭の中の記録です。



ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

ああ川の流れのように
おだやかに この身をまかせていたい



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