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初めての恋人との子を流産した話⑦

2021年 7月3日  いつもの待ち合わせ場所。  「結ごめんお待たせ、大丈夫?ちょっと先に薬局寄ってもいい?昨日飲みすぎて胃が痛くて」  「…。」  なにも言う気が起きなかった。なに、それ。最初の一言がそれ?飲みすぎてって何…。  ゆっくり話が出来る場所に移る。そこで初めて私は口を開いた。明らかに何も話さない、様子のおかしい私に彼もやっと空気を察したようだった。冷静に、彼が悪いわけじゃないことなんて分かっているでしょう、冷静に。 「昨日、午前中仕事だったのは聞いてた

    • 初めての恋人との子を流産した話⑥

      2021年 7月2日 深夜1時前だっただろうか。トイレに行くと、念の為つけていた生理用ナプキンに血がついていた。少量の出血ならよくあること?必死に調べる。「流産 出血」「妊娠継続 出血量」「妊娠初期 出血」。この出血量は、これは、流産の兆候に当てはまった。  彼に連絡する。「出血してて、流産したかも」 つい数時間前に決めた覚悟も無意味なものだったのだろうか。そもそも母にも「気を大きく持たないで」と言われてたじゃないか、「切迫流産の場合でも、妊娠継続している確率のほうが高い」な

      • 初めての恋人との子を流産した話⑤

        母が去り、沈黙。彼にエコー写真を見せる。でも、手放しに喜んでくれる状況じゃないのなんて、分かっている。ひとまず、子供を産み、育てるために必要なお金、二人が生活するお金、給料、貯金、ありとあらゆる計算をした。二人していくら数字と向き合っても、到底、現実は変わらない。 わかってる、わかってる、みんなが考えてるのは 「じゃあ結果的に無理ってことでしょ」 私は言い捨ててその場を離れようとした。彼はあとからついてきて、いつかのように優しく手を握った。絶望、涙も出なかった。幸

        • 初めての恋人との子を流産した話④

          2021年5月  仕事に適応できない日々が続きながらも、休みの日は彼に会い、支えられながらなんとか続けていた。彼も春から晴れて社会人となり、会える頻度は減ってもお互いに仕事終わりに時間を作ったり、関係は良好だった。この頃私は、都内の店舗にヘルプで借り出されることが増えた。接客数が多く忙しい店舗のため、勉強にもなるだろうということだった。ただ、これは失敗だった。主な仕事が一緒でも、少しずつ違う接客手順や商品、仕様、ルールに適応できるほど臨機応変な人間ではなかったし、そもそもこの

        初めての恋人との子を流産した話⑦

          初めての恋人との子を流産した話③

          2020年 9月2日  お昼を一緒に食べようと、初めて会ったのと同じ場所で待ち合わせ。まだ会うのは4回目、初めて会ってから1ヶ月も経っていないのにもうすっかり馴染んでいた。  ごはんを食べ終え、海辺まで散歩しようということになった。自然と手を繋ぎ、「今日は泣かなかったね」なんて言われて昨日のことが申し訳なくなる。信号を待つ間、突然の告白だった。 「結さんのこと、好きなんですけど、付き合ってくれませんか?」 突然すぎて、なにも言えず頷いた。 「え?え、本当に?」と慌てる

          初めての恋人との子を流産した話③

          初めての恋人との子を流産した話②

          2020年 8月  Yさん、22歳、大学生。私が早生まれだから、学年は彼の方がひとつ下。でもほとんど同い年。写真の雰囲気はちょっと中性的で柔らかく優しそう。保育士になる予定、というプロフィールも納得だった。メッセージを続けて数週間、初めてアプリを通して電話をした。 緊張したのは一瞬。 「はじめまして、結さん」安心する声で、 「はじめまして、Yさん…と呼べばいいのかな、お名前、なんて言うんですか?」 ぎこちなかった会話が不思議と自然に続いていて、互いに明日が休みだと分かり、

          初めての恋人との子を流産した話②

          初めての恋人との子を流産した話①

          恋人はいたことがなかった、22歳。  中学生の頃、一度だけ両思いになったことがあった。私から好きになって、手紙で告白をして、手紙で返事を貰って。でも、それだけだった。 「ありがとう、おれも多分好きだと思う。友達のままでいいならそれでもいいし、付き合いたいとかそういうのだったら、おれもいいよ。」そんな曖昧だけど真剣に考えてくれたであろう返事を、読んだ瞬間は嬉しかった。確かに嬉しかったはずなのに、一瞬の後、突然相手のことを気持ち悪いと感じた。初めての感情で、何かの間違いかと思

          初めての恋人との子を流産した話①