エンプティ・オーブン

主に絵本や童話を書いています。『新作の嵐』さんhttps://shinsakunoar…

エンプティ・オーブン

主に絵本や童話を書いています。『新作の嵐』さんhttps://shinsakunoarashi.com/で「ふしぎなぴりーこぱん」掲載中。 童話以外にも、たまに変な話を突然書き出して、マガジン「ショートショート」に追加することがあります。

マガジン

最近の記事

たぬきマイクロノベル④

31 同僚がね、過労だったんでしょうかね。毎日顔を合わせるたびに段々目の周りが黒くなってね。怖いな怖いなーと思ってたら、今度はストレスかな、どんどん毛深くなるんですよ。しまいには服を着るのをやめちまいまして。ここで気づいたんですよ。こいつの顔はまるで狸だって… 32 初めは人間に擬態して勤勉に働き、社会の中枢に潜り込んで数を増やす。それから徐々に正体を現して人間にとって代わろうという壮大な計画だった。しかしあくせく働くうちに本来の目的は忘れ去られてしまい、残ったのは懸命に人

    • たぬきマイクロノベル③

      21 今日は久々の出社日なので正体が出ないよう気合を入れて身だしなみを整えてきた。なのに同僚たちときたらワイシャツの脇から脇毛で誤魔化せないほど毛がはみ出てたり、スーツの背がもっさり膨らんでたりという体たらく。もういいや。わたしはパンストから尻尾を解放した。 22 満月の夜になると聞こえてくるあのビート。どうやら同じマンションに同士がいるようだが、どの部屋から聞こえてくるのかまではわからない。仕方がないのでこちらも合わせてビートを刻む。どこのどなたか存じませんが、いい夜です

      • たぬきマイクロノベル②

        11 部下を叱責していたら、突然倒れて動かなくなりました。慌てて介抱しようとしたら起き上がり、すみません狸寝入りです、大丈夫ですと繰り返すばかり。調べたら狸寝入りというのは寝たふりじゃなくて気絶に近いらしいのですが、病院を勧めるべきか迷っています(50代・会社員) 12 無理せずシッポを出して生きようってみんな言うんですけど、そもそも自分には出すシッポがないんです、どうしたらいいんでしょうって占い師に訊かれてもねえ。とりあえず「シッポがないってことがアナタのシッポなんだから

        • たぬきマイクロノベル①

          1 あー人間に擬態して生きんのしんどいわ。けど、うまい飯が買えて暖かい家知っちゃったらさ。今更寒くて外敵に怯えてドングリ漁って食べる生活なんて耐えられないしなー。 という声が給湯室から聞こえて思わず隣の信田さんを見た。うわ、渋柿食べちゃったみたいな顔してる。 2 「ただいま」「お帰り」 仕事から帰ると夫が慣れない手つきで食事の用意をしていた。 夫が外で働けないので、家計は厳しいし、夫の家事はお世辞にも行き届いているとはいえない。 けれど人間に化けられない彼が丸い手で一生懸

        たぬきマイクロノベル④

        マガジン

        • ショートショート
          18本
        • ピコピコハンマー物語
          9本
        • ポナシのぼうけん
          3本
        • 黒歴史供養塔
          5本
        • しっぽのないマプ
          9本
        • ふしぎなぴりーこぱん
          13本

        記事

          ラーメンロンダリング

          ラーメンを前に後悔している。 「食べたい味コレじゃなかった…」 迷った挙句にいつも“コレじゃない”を選んでしまう自分を呪っていると、怪しげな男が囁いてきた。 「いいもんあるよ…」 麺をスープからスープへ。 醤油味から塩味に、塩味から味噌味、自由自在。 まさにラーメンロンダリング。 ラーメン喰いとしては非合法である。 「次はこのカレーラーメンとやらにするか」 が、はたと箸が止まる。 またもや“コレじゃない”が襲ってきたのだ。 これには麺じゃない。 男が囁く。 「ライスあるよ」

          ラーメンロンダリング

          「記憶にございません」

          なんだ、この文章は。 自分はこんな文章、書いた記憶はない。 ふとエディターを開いたら、見たことのない文章が出てきたのだ。 「この文章を読んでいるあなたへ。 この文章を読んでいるということは、今この文章に気付いたということですね。 そして、自分はこんな文章を書いた記憶がないと思っているに違いない。 それもそのはず、あなたに記憶はあるはずがないのです。 ついさっきここに出現した存在なのだから。 わたしがこうして文章を紡いでいくことで現れたのが、あなたというキャラクターです。

          「記憶にございません」

          スペースサメハンター

          スペースサメハンター好きすぎて朗読しちゃいました

          スペースサメハンター

          スペースサメハンター

          燃えさし

          「今年の依頼はどんな状況だ。報告を」 小柄で目つきの鋭い人物は、傍らの部下を促した。同じく小柄な部下は、よどみない口調で報告を開始した。 「現在我々のエリアに届いている依頼は総計3753件、そのうち3268件は市販品になります」 「店への手配は?」 「本年のデータから予測して、【上】の方で既に確保できているものから2691件を入荷すれば、残りはうちの方で独自に押さえていたもので足りるとの報告を受けています」 「不良在庫が出た場合は」 「その際はオークション班が在庫処分をする手

          あいつを待つのには完璧な日

          今日は首尾よく家からするりと出られた、よかった。 天気は小春日和。長居しても体が冷えることもなさそうだ。 向かいの家の門の下を潜って庭へ。 冬らしからぬ穏やかで包み込むような陽射しが石畳を暖めてくれているので、そこへ寝そべる。 完璧な日だ。あいつを待つのには。 特徴のあるダミ声が聞こえて目を覚ます。 明るく茶色い丸い顔が、おれを覗きこんでいた。 こいつがどこからやってきているのか、おれは知らない。 いつもふらりとやってきては、そのダミ声で喚きながら周囲をうろつく。メスを探し

          あいつを待つのには完璧な日

          『すいません・ばーん』は、すいません。

          「『すいません・ばーん』さん、おひとついかが」 しんしがタバコをさし出しました。 「すいません、わたしは、タバコは、すいません」 『すいません・ばーん』は、おだやかに答えました。 すいません・ばーんは すいません タバコのけむり すいません 「『すいません・ばーん』さん、こちらはいかが」 ちょうちょさんが、お花をさし出しました。 「すいません、わたしは、お花のみつも、すいません」 『すいません・ばーん』は、残念そうに答えました。 すいません・ばーんは すいません あまー

          『すいません・ばーん』は、すいません。

          わがなはなばな(作・白月たべにゃん)

          わがなはなばな 作 白月たべにゃん わがなはなばな かのなはばなな わがなはなばな ばななをたべる ばななはにげる かのなはばなな がけまでにげる ばななはのびた てんまでのびた てんまでのびて ちぢんできえた わがなはなばな あるひのなばな きょうこそばなな たべるぞばなな ひかるぞばなな まさかとおもい よるまでまった そらをみあげた ばなながあった。

          わがなはなばな(作・白月たべにゃん)

          アホ入門

          「阿呆になりたいんです。でも阿呆になれないんです。」 は? 突然そんなこと言うなんて、この人アホなんじゃないかなって思いましたよ。多分アホです、大丈夫。 「根が真面目なんですよね。あと、自分がかっこ悪いの許せないんですよね。」 そ う で す か 。 「後先考えずに行動するができない。」 考えなきゃいいんじゃないですか? 「無理なんです。反射的に考えてるんです。自分の言動が周囲に与える影響を計算しながら動いてしまうので。」 うわー、生きづらそう。自分は絶対無理だわ。 もっと

          なにもかもがいやになったのだ。 いや、なにもかもではなかった。 犬だけはいやにならない。 犬は、犬であるだけでとうとい。 犬のすべてがすきだ。 犬のきれいなめ。 犬のうすくてやわらかいみみ。 犬のぬれているはな。 こちらをなめてくるつるつるしたべろ。 ぜんしんがけでおおわれているのもよい。 そしてそれがちょっとにおうところも。 犬よ、おれといっしょににげてくれ。 このせかいから。 犬はさんぽとおもってよろこんでついてきた。 あてもなく、ただひたすらまえにすすんだ。 犬のほ

          キオ伝説

          その昔 あるところでひどい年があった。 雨ばかりがふり、地面はいつもぬかるんで、人々は泥でできた人形と見分けがつかないほどだったと。 民は泥の中で働き、夜にはかつて家のあった場所へ戻り、やはり泥の中で眠る。そんな暮らしだった。 寺で飼われていたネコがいた。住職は首輪を外して野に放った。キオや、おまえの名のキオは、貴生とも書く。最期まで気高く、己の思うまま生きるがいい。 キオはその言葉を聞いたか聞かずか、一目散に飛び出して行った。 それからまもなく、空はぱたりと雨を降らすの

          SHI・RO・KU・MA

          ① 玄関を開けると、白い枕のようなものが転がっていた。いや、寝そべっていた。それはもぞもぞと顔をあげると、 「おかえりである。しろはまちくたびれてねてしまったのである」 怪訝な顔をして立ち尽くしていると、しろはハッ!となって、 「じこしょうかいしてなかったである!しろはしろくまである」 知っているシロクマとは似ても似つかない、てれん、とした何かはそう名乗った。 ぬぼーっと開いた口元と、ちょこんとついた耳が、微かにクマの面影をたたえていた。 ② しろくまにどうしてここに居るの

          ひがんわたり

          ふと あの世にいこう と思い立った。 命を絶つわけではない。 いわゆる死後の世界ではなく、ここではないどこかという意味での、あの世。 そこに行くには高いところからとばなければならない。だから乗り合い飛空船に乗った。 年季の入った船体が軋む音がする。 飛空船には、他にもあの世に行こうとしている人がたくさん乗っていたので、情報交換が盛んだった。 どうやら自分の行こうとしているところへは、通行証が必要という噂を耳にした。 それが本当かどうかもわからない。それにどうやったら手に入