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あいつを待つのには完璧な日


今日は首尾よく家からするりと出られた、よかった。
天気は小春日和。長居しても体が冷えることもなさそうだ。
向かいの家の門の下を潜って庭へ。
冬らしからぬ穏やかで包み込むような陽射しが石畳を暖めてくれているので、そこへ寝そべる。
完璧な日だ。あいつを待つのには。

特徴のあるダミ声が聞こえて目を覚ます。
明るく茶色い丸い顔が、おれを覗きこんでいた。
こいつがどこからやってきているのか、おれは知らない。
いつもふらりとやってきては、そのダミ声で喚きながら周囲をうろつく。メスを探しているわけじゃないらしいが、理由は知らない。
そう、おれはこいつのことを何も知らない。
知っているのはそのふてぶてしい体格と、これ見よがしにぶら下がっているおれがもう持ってないもの、そしてまとっている「自由」のにおい。

鼻を突き合わせて挨拶をする。
そのあとやつは、すこし離れた場所に陣取り昼寝をする。
おれもそのまま昼寝をする。

しばらく経つと、やつは立ち上がる。
またどこかへ行くのだ。おれの知らないどこかへ。

このまま着いていったとしたら、こいつとどこまでもいけるだろうか。

おれは、やつのにおいに惹かれている。

「ジジちゃん!」
ああ、おかあさんが呼んでいる。
あったかいおれのおかあさん。
いつもおれに腕枕して寝てくれる。
やさしいおれのおかあさん。
おれの姿が見えないと、一晩じゅう起きて待ってくれている。
そうだ、そうだった。
あのとき。ほんとの親に置いてかれた時。このうちの前でずっと待ってたおれを、家に入れてくれたとき、決めたんだった。このひとからは絶対にはなれないと。

じゃあな。
茶トラのあいつに、心の中で声をかける。
おれはいつでもここにいるからな、待ってるよ。


#古賀コン3


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