たぬきマイクロノベル③

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今日は久々の出社日なので正体が出ないよう気合を入れて身だしなみを整えてきた。なのに同僚たちときたらワイシャツの脇から脇毛で誤魔化せないほど毛がはみ出てたり、スーツの背がもっさり膨らんでたりという体たらく。もういいや。わたしはパンストから尻尾を解放した。

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満月の夜になると聞こえてくるあのビート。どうやら同じマンションに同士がいるようだが、どの部屋から聞こえてくるのかまではわからない。仕方がないのでこちらも合わせてビートを刻む。どこのどなたか存じませんが、いい夜ですね。

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Imagine all the people having cute tail〜♪

そう、替え歌だよ。

でもさ、本当にみんなに尻尾がついてたらいいのになあ。
いちいち顔色うかがわなくても、尻尾を見れば相手の気持ちがわかるんだもん。
それにさ、なにより可愛いじゃない。

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絶対に覗いてはいけません、と言われたので妻の部屋を覗いた。
そこには生まれたままの姿でブラジリアン太鼓を熱演する妻がいた。
恐ろしい形相で妻が叫ぶ。

「　見　た　な　」

その後、一晩中太鼓のセッションに付き合わされたのであった。

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ーねえママ、なんでわたしをこんな顔に擬態させたの！
ーそうは言っても顔は選べないのよ。その顔に合うように擬態するしかないんじゃない？
ーそんなこと言ったって。こんな美少女顔に合う中身、持ち合わせてないんですけど！
ー変身した姿が美形になるのは、それは遺伝だわ、ごめん。

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ガチャでSSレアに当たったような感じで美少女に擬態させられてしまったわたしには、周囲が押し付けてくる可愛らしい女の子のイメージが鬱陶しくてたまらない。ヤケクソで木に登って柿を貪った翌日、告白された。ギャップ萌えか。顔が良ければ何でもいいのかよ、馬鹿馬鹿しい。

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見た目が可愛くても中身も可愛いとは限らない。特にわたしのはただの擬態だし。なのにヒトは見た目で勝手なイメージを作る。それに抗うため、今日は揚げパン3個をガツガツと平らげた。なのに砂糖まみれの顔も無邪気で可愛いだと？明日は鼻からスパゲティでも食べてやろうか。

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本当の君が好きだと告白したら、見た目が良ければ中身は何でもいいんでしょう、と怒られた。
違うんだ、君の正体は知っているんだ。言えないけれど。
本当は君の可愛らしい丸い耳に、フサフサのしっぽに触れたいんだ。
これも外見で選んでいることになるから、やっぱり君は怒るかな。

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擬態して長年経つと人になれるらしい、という都市伝説を聞いてちょっと頑張ってみようかな、と思ったけれど、ちゃんと人になれたらこの背伸びしてる感じがずっとになるのか、それとも消えるのかが気になって、イマイチ身が入らない。

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冬の時期はどうしても食べすぎてしまう習性があるので、春までに体重が激増して姿が激変する。夏になるにつれてまたスリムに戻るので「本当に同じ人？」と聞かれて思わずギクリとしてしまう。