パリから始まったクラウドファンディングへの想いについて
2017年9月19日、それはパリのマレ地区を歩いているときのことでした。昼下がりの時間帯、突然降りだした雨の中で、ふと目にした情景に心が奪われたのです。
私は、持参していた折り畳み傘を開いたのですが、周囲を歩いているフランス人は、誰一人として傘を開く気配はありません。それどころか傘を持ってさえいないのです。「欧米人は傘をささない」という話は、耳にしたことがあったのですが、実際に目のあたりにして、改めて日本との文化の違いを感じた瞬間でした。
降りしきる雨の中、レインコートのフードやスゥエットパーカーのフードをかぶりながら足早に歩く人達。そんな人並みの中で、一人の紳士に目が止まったのです。仕立ての良さそうなスーツに身を包んだその紳士は、なすすべもなく雨に打たれていました。
私はその姿を見て、ふとある考えが頭に浮かびました。「もし、仕事で着れるようなエレガントなスタイルであっても、もっと機能的な服があったらこの人を笑顔にできるかも・・・」それが全ての始まりでした。
申し遅れました。ファッションデザイナーの江森と申します。過去のnoteを読んでいただいた方もいらっしゃるかもしれませんが、改めて御挨拶させていただきます。アパレル業界で30年以上メンズのデザインを手掛けてきました。
私は、今回初めてクラウドファンディングを行うことを考えているのですが、「なぜクラファンなのか?」について、今の正直な気持ちを書いてみたいと思います。
大量生産への関わりからオーダーへ
アパレル業界は現在、様々な問題を抱えています。私は、「メイドインジャパンの危機」「大量生産大量廃棄」「アパレル店舗の大量閉店」などの問題について、自らが経験したことを過去のnoteで書いてきました。
自分自身が長い間、アパレル業界に身を置いてきて、当事者として関わってきたシステム。売り上げの拡大のために必要以上に商品を生産して、セールで売りさばいていく。最初から残すことを前提としたプロダクトアウト型やSPA型などの大量生産・大量消費のあり方に限界さえも感じていました。
そんな私の考えを変えるきっかけになったのが、オーダービジネスとの出会いでした。11年前にオーダーに携わったころは、まだまだ一部富裕層のためのニッチな市場でしかありませんでしたが、現在は飛躍的に市場規模を拡大しています。
既製服とオーダー、両方の経験をしているから言えることなのですが、オーダーの良さは、全てが受注生産であるということです。既製服のように商品を作ってから買う人を探すのではなく、一人ひとりから注文を受けてから生産を行うことになります。
受注生産であれば、作られた服は必ず誰かの手に渡ることになります。もちろん既製服のようにすぐ手に入れることは出来ませんし、リスクヘッジだという意見があるのも承知しています。しかし、現在の問題に対するサステナブルなあり方の、一つの答えであることは間違いないと個人的には思っています。
一人の生活者の視点
オーダービジネスに携わって一番に感じたことは、「実際に服を着る人の視点」の大事さです。デザイナーとして、アパレルメーカーや小売りなどでプロダクトアウトやSPAなどの経験しかなかった私にとって、直接お客さんとコミニュケーションをとっていくやり方は新鮮でした。
注文をする一人ひとりがデザインやサイズ感だけでなく、ボタンや裏地までも店頭のスタッフと相談しながら決めていく。その姿が楽しそうに見えたのです。悩みながらも自分だけの一着を作っていく。そして出来上がりを待つ。何でもすぐ手に入れることができるコンビニエンスな時代に、自分の手に入れる長い過程も楽しみの一つではないかと感じられたのです。
そうやって仕上がった服は、既製服とは違っていました。それぞれの服に個人個人の意思があり、顔が違って見えたのです。お客さんが選んだ服を見るのは、とても楽しみなことです。「こんな裏地を合わせるんだ」「こんなボタンを選ぶんだ」と、今までの自分の発想にはなかったアイディアがとても新鮮に覚えたのです。
オーダーを通して学んだことは、これからは作り手側の思い込みだけでなく、服を実際に着てくれる人の視点がもっと大事になるのではないかということでした。
働く人の服への考え
オーダーの良さばかりを述べてきましたが、私は既製服が好きです。まだまだやれることがたくさんあると感じていますし、既製服の中にこそ、着てくれる人の視点をもっと入れることが大事ではないかと思っています。
特に感じるのが、「働く人の視点」です。流行のファッションや、夢を与えるファッションは数あれど、働く人たちが満足できる服が、世の中にどれほどあるのでしょうか?仕事をするときに着る服は、一日において一番長いのにもかかわらず、本当に快適で日常を楽しくしてくれる服が、ないのではないかと思ったのです。
今までのようなプロダクトアウトなデザインではなく、着る人の幸せにつながるような服をデザインすることを考えてなくては。と感じたのです。
作り手である前に、自分自身も消費者の一人であること。日常の中で、自分が感じた疑問や「こうであったらいいのに」という心の動きをとらえること。そうした自分の思いを感じる人が他にもいるのではないかと考えることが大切ではないかと思うようになりました。
現在、働く人の環境は大きく変化しつつあります。今後さらに変わっていくであろう働く人たちの日常をもっと快適にもっと美しく変えていきたいと思っています。ただ、なんとなく仕事をするために服を着るのではなく、着ることで、日常が彩られ楽しくできるようにするために。
なぜクラファンなのか?
私は長い間にわたってアパレル業界で仕事してきました。でも、当事者として関わってきたファッションビジネスのあり方に徐々に疑問を感じるようになっていました。
今、アパレル業界は様々な問題を抱えています。しかし、私は自分を育ててくれたアパレル業界やファッションビジネスが大好きです。ネガティブな部分だけをとらえ批判するのではなく、自らが何かを変える必要があると思ったのです。
もっと誰かに必要とされ幸せにする服を生み出していく必要があるのではないかと思っています。自己満足のデザインではなく、着る人の日常を彩り、そして愛着を持って長く着たいと思ってもらえる服を作ることが、私なりのサステナブルのあり方ではないかと。
誰が着るかわからない服を大量に作りだすのではなく、既製服であったとしても、着てくれる人の顔が見える服を作っていきたい。そんな思いが今回、クラウドファンディングを行うきっかけとなったのです。
クラウドファンディングへの想い
今回、Makuakeでクラウドファンディングを行う目的は、
『働く男性の着る日常を面白くしたい』
冒頭のパリでのシーンをきっかけに開発したメンズのセットアップをリターンとして用意させて頂きます。
エレガントでありながら急な雨にも対応できる機能性や、リュックを背負ったりしても肩が疲れにくい内部の特殊構造、スニーカーをはいても違和感なく着れるシルエットなど、今までにはない新しいスタイルのセットアップとしてデザインしました。
オーダースーツからカジュアルまで携わってきた私だからこそができる、従来のビジネスウェアやカジュアルウェアでもない、新しい働く男性のための服。通勤、デスクワーク、出張、休日など様々な日常シーンを快適に美しくスマートに変えていけると信じて、デザインしています。
テーラードなフォーマル的な要素とスポーティーで機能的なディテール使いをミックスしたことで、縫製して頂ける工場さんを見つけるのに苦労したのですが、快く引き受けて頂いた日本の工場さんが、やっと見つかり製品化することができました。
クラウドファンディングへの私なりの考えは下記になります。
①服を作る人と着る人が幸せになる世界への一歩
②ブランドとユーザーの関係性について
③ブランド名がない理由
④試着について
①服を作る人と着る人が幸せになる世界への一歩
今回のクラファンをきっかけにして、私がtwitterやnoteでも理念として掲げている。『服を作る人と着る人が幸せになる世界』の実現に向けてのスタートにしていきたいと思っています。
長年アパレルメーカーと工場は、「仕事を依頼する側」と「下請けで仕事をもらう側」の主従関係が続いてきました。服が高く売れていたときは良かったのですが、値段の低価格化によって下請けとして工場が受け取る工賃も著しく低下し経営が成りたたなくなっています。
今回のプロジェクトではそういったこれまでの関係でなく「どちらが上でも下でもない、一緒にモノづくりをして喜び合える仲間」としての新しい関係を作りたいと思っています。
最初は小さい輪かもしれませんが、これから志を一緒にするたくさんの人達と交流して大きな輪にしていきたいとも考えています。
②ブランドとユーザーとの関係性について
これまで、ファッションブランドとユーザーとの関係性は、服を売った時点で終わっていました。大きなブランドであれば、消費サイクルの一つとして仕方がない部分もあったのかもしれませんが、私は、違う関係性を作っていきたいと考えています。
今まで、twitterやnoteを通して、服を着る意味や服が人生に与える影響などについて発信してきました。もしクラウドファンディングを通じて共感し、ご支援頂けたとするならば、服を売って終わりでなく、そこからスタートする関係性をつくっていきたいと思っています。
着こなしや考え方について、服を着てくれた人の日常が豊かに彩られていくようなお手伝いをしていければと考えています。デザイナーとユーザーという関係に留まらず、一緒にブランドをつくっていく共創者でありたいと考えています。
③ブランド名がない理由
ブランドとは、発信者の世界観であり、ブランド名は、ブランドを好きな人たちにとって共通の価値感になる大事なものだと理解しています。
しかし、多くのブランドが乱立する中、既存の価値感のものが、また一つ増えることにどんな意味があるのだろうと個人的に疑問を感じていました。だから今回はあえて、ブランド名をつけていません。
ブランド名がないかわりにセットアップのモデル名を、冒頭に書いたアイディアの発祥地、パリのマレ地区からとって「マレ」としています。
たくさんの服が余るなかで、過剰ではなく全てをシンプルにしていきたいと思っています。服は、着てくれる人のためにあります。服を着ることでその人の人生が豊かに、日常が楽しくなることこそが作り手にとって一番うれしいこと。
よって、このセットアップを購入いただく方たちと一緒にブランドを作っていくことができればと考えています。
④試着について
一人でも多くの人に触れてもらい、体験をしてもらいたいと思っています。そのため試着に関して東京や関東地区などは、TwitterにDMなど頂ければ直接お会いさせて頂くことを考えています。何よりも、まず着て感じてもらうことが大事だと思っているので。
一人のスタートから
最後に
長々と書き綴ってきてしまいましたが、とはいえ実質は、一人からのスタートになります。やれることにも限界があり、まだまだ理想には程遠いかもしれません。しかし、協力してくれる人たちがいる限り、前へ進んでいきたいと思っています。
そして一人でも多くの人を笑顔にしたいと思っています。作る人も着る人も。
ぜひ、Makuakeでの12月26日クラファンスタート後は、皆様のお力を貸して頂けると幸いです。
世界で働く人の「着る日常を面白くする」ために!
ありがとうございました。
興味を持っていただけたら、ぜひ試着してみて下さい。見るだけでも構いませんので、一度触れてみて下さい。着るだけでも構いませんので、一度体感してみて下さい。
試着御希望の方、私のマクアケプロジェクトページのメッセージに事前に連絡頂けると幸いです。
また、プロダクトについての御質問や試着会についてなど、どんな些細なことでも構いませんので、遠慮なくプロジェクトページなどで御問い合わせ下さい。
どうぞよろしくお願い致します!
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