同人漫画なら、勝手に転載してもいい?ー知財高裁判決+著作権 プチまとめ
こんにちは。名古屋の弁護士、鈴木恵美です。
私が担当している大学での、知的財産権ゼミが、徐々に対面講義を併用できるようになりました。大学4年生のゼミなので、社会に羽ばたく過程として、大学生活で培った法的素養、用語、知識や理解を、自分のものにして、使える状態にして、送りだしてあげたいと、ついつい熱血指導してしまいます。後期になって初めてゼミ生に直接会うことができた喜びも相俟ってか、気候は涼しくなってきたというのに、ゼミでの私の暑苦しさは増すばかりです(ゼミ生は、私が鬼のように厳しくて怖いといっているようです。この場を借りて謝りたいと思います!)。
鬼繋がりではありませんが、『鬼滅の刃』では、鬼殺隊の剣士になる試験に向かう前の訓練時(岩を切ろうと鍛錬しているシーン)、錆兎が、炭治郎に、「お前は知識としてそれを覚えただけだ。お前の身体は何も分かっていない。お前の血肉に叩き込め。」「骨の髄まで叩き込め。」ということばを伝える場面があり、ゼミ生には、まさにこの言葉を贈りたいと思っているのです。
知識を得ても、実感したり、それを活用したりするのは難しい。知識を得る段階で億劫だったり、躓いたりするのに、使えるようになるまでの道のりは果てしなく感じられます。知識→使えるの過程を、知識を得ようとするスタート地点のきっかけを、少しでもサポートできるような新作ゲームを考えたい。ゲームは、自分ごとになるし、実戦で傷を受ける前に練習できるからです。
いろんなアイデアはあるのですが、まさに知識を使う、カタチにするのは容易ではなく、まずはシンプルな新作ゲームを、なるべく早く生みだせたらと奮闘しています。
現在、
コピコピライト
という新作の著作権©️ゲームを開発中です!
著作権の基礎の基礎が分かる
誰でも気軽に手に取ってみやすい新作の著作権©️ゲーム〝コピコピライト″を創りたいという想いは、最近のこの判決で、より強くなりました。
(開発中のゲームについては、最後に少し紹介させてください!)
令和2年10月6日、二次創作に関する知的財産高等裁判所(知財高裁)の判決が出て、話題を呼んでいます。
どんな判決かというと、
同人漫画(二次創作)なら、どんな風に使ってもいいの?(だって、同人自体が違法に創られているのだから)という疑問に、裁判所が答えたと解釈できる内容が入っていたからです。(判決は、以下のリンクに全文があります。)
裁判所の答えは?
元ネタの許可なく作成した同人漫画だからといって、他者が、勝手に使っていいわけではありません!というものです。
では、少し詳しく、今回の判決をみていきましょう。
裁判の登場人物は?
登場人物は、
一審原告X(作家)
一審被告A(webサイト運営)
一審被告A代表取締役B・元代表取締役C・元代表取締役Cの妻D(Cが死亡したため相続)
です。
どんな訴えが起こされたの?
1. Xが、Aに、Xの同人漫画を無断掲載した点について、損害賠償を請求していました。Xによれば、約2億円の損害がある!とのことでしたが、その一部である1000万円を請求しています。(訴える際、裁判所に手数料を払いますが、請求額が高くなるとその手数料も増えるので、試しにまず損害の一部について訴えるという方法を取っているのだと予想されます。)
2. Xが、Bたちに、 コンプライアンスの体制の整備違反(会社法429条:役員の第三者に対する損賠責任)があるとして、①同様の損害賠償請求(連帯責任)を求めています。
事案の内容は?
Xは、元ネタのあるキャラクター(名前・顔貌・体型設定)を用いて、エロBL漫画(本件漫画)を作成していました。
Aたちは、本件漫画を無断で、無償公開し、そのサイトで収益を上げていました。
訴えられたAらの反論は、
Xは元ネタの著作権を侵害している(本件漫画は違法な二次創作である)!
それなのにXが、Aらに損害賠償請求するのは権利の濫用だ!
というものです。
裁判所の判断は?
Xが原作者の著作権を侵害しているということの主張立証が不十分である。
仮に著作権侵害の可能性があっても、X独自の創作的部分が本件漫画にあるなら、権利の濫用にはならない。
として、Xが勝訴。Xの請求が(一部)認められました。(約219万円の支払が命じられた一審判決が維持されました。)
この判決に出てきた著作権の話を解説
許される二次創作とダメな二次創作がある?
本件漫画と、元ネタとの共通点は、このような状況でした。
(裁判所webサイト 知財高裁令和2年10月6日判決別表より)
著作権侵害だ!というためには、
①著作物を、勝手に、②使ったということが必要です。
①については、こちらで解説しています。
本件漫画は、元ネタの著作権を侵害している?
「著作物」の真似はしていない(①の問題)
著作物=創作的+表現
なので、アイデア(≠表現)を真似しても、著作物を勝手に使ったことにはなりません。
キャラクターというと、キャラクターの絵や人形を思い浮かべやすいところもありますが、判決では、キャラクター=抽象的個性、特徴を指している言葉です。このような意味でのキャラクターは、真似してもアイデアに留まるので、著作権の問題にはならないのです。
キャラクターとは、「漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができない」と、判例(ポパイネクタイ事件)は述べています。
先ほどの表の共通点が、キャラクターの設定に留まるのであれば、著作権侵害はないということになります。
京都アニメーション事件は、被疑者が、自身の作品を盗まれたことを動機だという報道がなされています。これについて捜査機関は、学園もの、という設定が似ているだけであるとの見解を示していたようです(京都アニメーションは、書類選考で落選し、被疑者の作品にそもそも触れていないと述べているそうです)。〔参考:日経新聞令和2年7月18日記事〕
アイデア(キャラクター)を使ったのか表現を使ったのかの判断方法?
そうすると、似ているのが、アイデアか表現か、ということがとても重要だということになりますが、それってどうやって区別できるの?と不安になります。
裁判所が著作権侵害を判断する際、比較に用いている方法の一つは、濾過テストというものです。今回の事例でいうと、上の表のように、元ネタと本件漫画とで共通している要素を取り上げ、そこに創作的表現があるかをチェックするというものです。〔参考:この方法が使われた判例(江差追分事件)〕
とても有名な作品を元ネタにすると、表現ではなく、アイデアが共通しているだけで、似ている!と思えることは少なくありませんが、それは著作権法が禁じていることではないのです。
著作権の侵害になる「使い方」をしていない?(②の問題)
著作権の侵害!といえるためには、著作(権)者が独占している権利を、勝手に使ったといえる必要があります。
著作物(創作的な表現)を使って二次創作している(元ネタと共通している)場合、それが侵害であるといえるためには、①の問題だけでなく、②の点もクリアする必要があるのです。
ところで、著作権って何ですか?
と聞かれて、即座に正確に答えられる人は、あまり多くないのではないでしょうか。実は、著作権という権利が存在するというよりは、著作物の使い方ごとに権利があり、その権利の束が著作権なのです。これについては、こちらで解説しています。
たとえば、全く同じじゃん!パクリだ!というのは、著作権のうち、複製権の侵害ということになります。
(複製権)
著作権法 第21条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
では、「複製」するとは? 何か、というと…
十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。(著作権法2条1項15号)
「有形的に再製」とは、元ネタと表現形式が同じものを作成することをいいます。たとえば、元ネタが漫画→二次創作漫画は、表現形式が同じですが、元ネタが小説→二次創作漫画は、表現形式が異なり、有形的再製ではありません。小説の主人公をイラスト化しても、複製にはならないのです。
次に、アレンジされてるけど、元ネタいじってるってわかるじゃん!というのは、著作権のうちの翻案権と関わる可能性があります。
(翻訳権、翻案権等)
著作権法 第27条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
「翻案」って?…については、著作権法には書かれていません。裁判所は、このように述べていて、言語の著作物以外にも、この基準が当てはまると考えられています。
言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。〔判例(江差追分事件)〕
太字部分は、私が施したものです。ここが特にポイントなので、注目してください。たとえば、小説のタイトルは、著作物ではない(ことが多い)ため、アイデアの依拠(基づいている)でしかなく、翻案権を勝手に使っている!ということにはならないのです。元ネタが、登場人物の容姿を詳しく描写していない場合に、それを具体化した場合、アイデアの利用はしていても、表現の利用はしていないケースが多いと思います。
今回の判決を振り返ってみよう(まとめ)
著作権の基礎知識を少し解説させていただき、今回の判決をもう一度みてみましょう。判決によると…
★ 元ネタの基本的設定(アイデア)に関わる部分しか共通(類似)していない場合は、二次創作は、元ネタの著作権侵害にならない。
★ 今回の事件は、被告たちの主張立証が不十分だとされた(元ネタのどの特定のシーンと似ているのかの特定が十分にはされていなかった)。←ポパイネクタイ事件(上記)では、類似しているかどうかを判断するためには、元ネタのどれと似てるのか特定しましょうとされています。
★ 仮に、元ネタのどのシーンと似ているか特定されたらどうなるの?という疑問については、今回の裁判で被告らが問題にした本件漫画の元ネタ類似部分は基本設定に留まっているから(被告らは、特定の表現が類似しているものがあるという証拠を出していないから)、著作権侵害があるとすると、主人公等の容姿や服装なと基本的設定に関わる部分(複製権侵害)に限られる。
★ 二次創作が、元ネタの許諾をとっていないものだとしても、著作権侵害があるとは限らない(アイデアしか共通していないケースがある)。もし、元ネタの著作者との関係で、違法な二次創作であったとしても、二次創作者のオリジナル性(創作的な表現)が足されている二次創作を、第三者が勝手に使えば、二次創作者の著作権の侵害になる。
プラスα
元ネタに依拠した(基づいた)二次創作が、著作権侵害かどうかを考えるとき、特に連載ものの元ネタの際には、具体的などの表現とどのように類似しているか特定が必要だという話や、元ネタの著作者と二次創作者との関係については、キャンディキャンディ事件(最高裁判所平成13年10月25日判決。裁判所の裁判例情報には未搭載。)も参考になります。(二次創作物が、コマ絵、表紙絵、原画、それぞれの場合に、元ネタの創作的表現が使われているのかをどう考えるのか?等について参考になります。)
著作権教育熱再び
手触りのある著作権法のエッセンスを伝えたいという想いで、大学の講義、ゼミや企業自治体での研修などを担当させていただいていますが、その想いを語らせていただく機会に恵まれました。創作の世界に関わっていらっしゃる方々だけでなく、コロナ禍を経て、著作権の問題、その教育に悩まれている方も多いと伺いますし、実際、私が相談を受けることも増えました。この対談を読んでいただき、何かのお役に立てたら嬉しいです。
これからの著作権教育 〜 なぜつくり手は著作権を学ぶべきなのか
雑誌:広告note(博報堂) 海老澤美幸弁護士との対談です。
開発中の新作著作権©ゲーム コピコピライト
あなたの知ってる著作権©️(コピーライト)は、ホントの著作権?!
偽六法ゲーム、著作権版ダウトみたいな感じともいえるゲームを考えています。
正しい著作権知識を披露してもよし、よくわからなければそれっぽい著作権をでっちあげてプレゼンしよう。披露された著作権っぽいものに対して「著作物カード」と「権利チップ」を使って品評します。みんなから「これは著作権だ」と思われたら勝てちゃう?!コピーライトっぽいものをコピーするゲームです。
今回の判決も、驚かれた人が多いようでしたが、著作権法を学んでいた人からみると、教科書どおり、これまでの考え方どおりの判断だという感想を持つ人が多いと思います。著作権法のイメージは、きっと人それぞれ。知ることで、創作を生み出したり楽しんだりする世界観が広がることを願って、私はこれからも著作権に関わるお仕事や活動をしていきたいなと改めて思っています。
ゼミでは、この判決を受けて、札幌市の広報、オシカル事件をどう考えることができるかを題材に、自治体の職員さん向けプレゼンを、ゼミ生のみんなに検討して貰っています。私からのオーダーは、あれダメこれダメというものにとどまらず、明るい著作権法を届けてほしいというものです。
コピコピライトは、カードゲームにする予定なのですが、肝心なカードの絵や写真を創る素養がありません・・・(私の第一弾創作ゲームの手書き画像は、私のnoteにしばしば登場しており、そのクオリティは明らかです・・)。手に取るだけで上がる、トレカのようなイラストや写真を、このカードゲームに実装したい!!!!どなたか、一緒にゲーム創りたい!という方がいてくださったら、嬉しいです!
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著作権ゲームのデザイン、ルール原案、意匠、すべてを、あまりクリエイティブでない私が担当しています。 noteの手描きイラスト画像も自作ですが、いつかデザイン面など、プロの方にお願いできたらいいな、と考えています。 応援いただけたら嬉しいです!