【創作小説】コクるときは 刻々と近づく⑫ー最終回ー
今までのお話は、こちらのマガジンに収録されています。⬇
(わらってよ〜 君のために〜 わらってよ〜 ボクのために〜)
綺羅と怜は、2人で、YouTubeのミックスリストを聴いていた。最近の2人の好きな曲を持ち寄っていた。2人とも、由奈が心配だ。
怜が問う。
「綺羅、翔くんと付き合う気? 」
綺羅が、応える。
「ううん、あたしは由奈が、気になるんしゃ〜」
2人とも、学年始めの由奈の姿を思い出していた。
由奈は、目立たないよう、目立たないよう、としているのはすぐに分かった。
けれど、家庭科の調理実習でマドレーヌを焼いたとき、由奈はやたらと目立ってしまった。
やたらと 手際がよいのだ。よすぎるのだ。
ぱぱぱ、と 材料をまぜ、溶き卵を入れ、砂糖、バニラエッセンスを加えたと思うと型に手慣れた手つきで流し込み、豪快にオーブンに放り込んだと思うと教科書も見ず、時間や温度をセットしたかと思うとあっという間にマドレーヌを焼いてしまった。
(こいつはデキる! )
クラスの誰もが思った。
綺羅は、思わず興味を持って由奈に話しかけた。
由奈の手つきは、普段大人しく見せているような、消極的な人間じゃない。もっと、豪快でおおらかな感じだった。
それが、何故 普段、皆の後ろに構え、表に出ようとしないのか……?
綺羅は、それが知りたかった。
綺羅と、怜と3人で、仲良くなったあとも、由奈を元気づける姿勢になった。
中学女子の友情は、じゅんすいで、あたたかくて、きよらな感じだった。
3人3様で、励まし合うのだが、この時期の友情って、素で「友情」なのでは……?
綺羅と怜は、ファストフード販売店「ふすとキッチン」に由奈を呼び出した。
「由奈……、私たちは 知ってるのよ」
「? 」
「ずっと昔、いじめっ子だったんしょ? 」
「えっ!? どうしてそれを!? (身構える)」
「由奈……(綺羅、怜同時)」
「ほえ!? 」
綺羅、怜は、顔を見合わし 意を決したように、
「由奈……、もう" 懺悔(ざんげ)" のように生きるのやめな」
そこへ、3人の後ろから声がする。
「僕も 気にしてないよ? 」
(はっ!? )
と、3人は振り向く。
翔くんが、背筋を正して立っていた。
相変わらず剣道男子、カッコいい。
「窓の外から、3人が見えたから。僕たち3人も加わっていい? 」
見ると後ろに放送部の音響機械ミキサーの空くんと、アナウンス係 昌磨くんも立っている。
(へ?……)
由奈たちは、目を白黒させるが、空くんも話し出した。
「あの毎朝の積み上げられたお菓子、由奈ちゃんだったの? とても、やさしい味だった」
昌磨くんもうなづき、
「うん、売ってるものよりふんわりした感じで、僕も楽しみだったよ? ありがとう」
「運動部にも、差し入れてるんでしょ? 怜ちゃんのいる陸上部」
「いっつも、由奈ちゃん控えめでさ、なんでかと思えば」
「翔を、小さい頃いじめてたんだって? 」
「きゃーーーー!! 」
由奈は、この世の終わりのような悲鳴をあげて、突っ伏した。
「けど、僕は気にしてないんだよ? 」
翔くんは、続ける。
「むしろ、そのおかげで、僕は強くなろうと剣道を始めて、なよなよした自分を正そうとしたんだ。弱そうにして、人をいらいらさせる自分を変えようとして」
由奈は、翔くんを見つめる。
「その頃の由奈ちゃんは、あれで筋が通っていたんだよ? 間違ったことをする奴は、放っとけなくて" 成敗(せいばい)" していた。由奈ちゃん、憶えてる? それなりに、理由があったんだ」
由奈は、目をぱちくり。 (憶えてなかった……)。
翔くんは、口をきる。
「僕はね、その頃の由奈ちゃんを尊敬してたんだ。周りの間違い、欠点をちゃんと指摘する、大人びた子だった。けれど、いまの由奈ちゃんは……」
「……そう、逃げている」
由奈はうつむいて言った。
そして、レモンスカッシュをひとくち飲んだ。さわやかな味がする。
「ものを決めること、判断すること、正しさを決めることも怖い。それが、人を傷つけるようで……」
と目を伏せる。
「……でも、僕は由奈ちゃんのおかげで変わったんだよ? 良い方へ」
翔くんは、コクった。それは、恋愛感情をコクったのではない、かつての由奈への想いをコクったのだ。自分を変えた感謝の想いを……。
「でさ、今度、俺たち学年終わっちゃうじゃん? 」
3人ぷらす3人。また、川べりの道を歩いていた。
「この6人で、グループ作っちゃわない? 翔は、綺羅ちゃんに興味があるけど、僕たち残りの2人も彼女が欲しくてさー」
と、空くん。
「由奈ちゃん、怜ちゃんも可愛いし……」
と、昌磨くん。
「のこりの1年、中学に通っている間でも、皆で、グループ作っちゃおう! 」
綺羅は、警戒気味に由奈の後ろに隠れるが、
怜は、乗り気で、
「いいねー! 」
と、威勢の良い返事をする。
由奈は、心のなかで、
(そうなのか、昔の私はそうだったのか……、人の間違い、欠点を指摘する……筋の通ったことは、一応してたんだ。けど、もう人をビシバシ叩くのはやめよう……)と、反芻していた。
空を見上げると……
朱く染まる夕空に飛ぶ、フタホシテントウが、輪を描き、嬉しそうにも見えて この6人を見守るように飛んでいった……。
「コクるときは 刻々と近づく」
おわり
読んでくださった方々有難うございます♥
©2023.11.5.山田えみこ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?