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【読書感想文】重ねた歳を振り返りつつ、今を生きる「今日もごきげんよう」

ふらりと立ち寄った図書館で、松浦弥太郎さんのエッセイ本を見つけた。新刊コーナーに置いてあったこの本を、そっと手に取る。

久しぶりに読む。
しばらく彼から離れていた間に、私もいろんなことを経験して、ずいぶん変化してきたけど、松浦さんも今に至るまでの間にいろんなことを体験されて、いい感じに変化されてきたんだなぁ…と、しみじみ感じた。



実は昔、私の中で松浦弥太郎ブームがあった。

あれは20年くらい前だろうか。
当時、愛読していた雑誌ku:nel(クウネル)で、私は初めて松浦弥太郎さんのことを知った。(以下、敬愛を込めて「弥太郎さん」と呼ばせていただく)
初めてのご対面は「お気に入りのかご」のご紹介記事だったような気がする。さらに「マレースペースシューズ(murray space shoe)」の記事でガッツリ心をわしづかみされた。

その後、彼のエッセイを貪るように読んだ。
シンプルな生き方、日々の暮らしを大切にする姿勢、モノへの偏愛ぶり、どこから切り込んでも、読後はサッパリと爽やかに気分になり、背筋がスッと伸びる。イメージは「早朝に神社参拝」。読み終えた時、心の中が祓い清められて、すごく気持ちがいいのだ。そう、自分の中が「整う」感じ。

そんな弥太郎さんの文章に、私はどんどん心惹かれていく。
まるで一服の清涼剤を求めるがごとく、松浦さんが出す本を即買いするようになり、熱心なファンとなった。
私が「モノへの偏愛」にこだわりを持ち続けているのも、実は、弥太郎さんからの影響が大きい。

弥太郎さんを真似して「自分がいいと感じるもの」を買い求め、私も「実践者」となった。すると、弥太郎さんへの強烈な憧れはどんどん薄まっていき、次第に熱も冷めていく。いやも冷めたというより、違うものへと昇華していった感じだ。自分に無いものを渇望していた頃の強烈な熱は、自分の人生を新たに歩み直すためのエネルギーへと静かに変化していった。

こうして、たくさん買い集めていた彼のエッセイ本は、数年前に決行した本棚の断捨離の時に、知人にあげてしまった。それは、嫌いになったから決別した…という意味ではなく、ただ純真に「卒業した」というイメージの方がしっくりくる。
もう大丈夫。彼のエッセイを読まなくても、自分で自分を整えられるようになった。そんな気がした。つまり、その役目を終えて、自然と剥がれて離れていったのだ。

あれから、ずいぶんと年月が経ち、私も弥太郎さんも50代になった。

久しぶりに開いた本には、年月を経て熟成された弥太郎さんが静かにたたずんでいた。

相変わらず素敵な偏愛は持ちつつ、でも、そこには、過去には無かった「小さな変化」の跡がたくさんがあった。50年も生きていると、「体験したことから感じること」「経験から学んだこと」も、若い頃とは異なる味わいが出てくる。
そして、若い頃は人目や体裁を気にしていたことも、歳を重ねると、やはり「年の功」で、自分の中にあるトゲが削れて丸くなり、角が取れて、そのうち「どうでもいいや」と構えなくなり、素直に正直に自分をさらけ出せるようになっていく。

弥太郎さんは、この本の中で「夫婦喧嘩」のことを書いている。
以前なら絶対に見えてこなかった素の弥太郎さんが、ここに現れていた。
女性目線で読むと、奥様のお気持ちが痛いほどよくわかる。でも、これは男性が読んだら、弥太郎さんの気持ちに共感するのではないか。
どちらが正しいとか間違っているとかではなく、どちらも正直な気持ちであり、ありのままの自分であり、本音である。これをどう歩み寄らせて、互いにとって「いい塩梅」を見つけて折り合いをつけるか…。一見、松浦家の話のようで、実は、どの夫婦にも当てはまる「永遠のテーマ」なんだろうな…と思った。

そして、もう一つ。
弥太郎さんは40代の時に歯列矯正をしていたらしい。
実は私も、弥太郎さんと同じく40代に歯列矯正をしていた。
わぁ、一緒じゃん!と驚きつつも、なんだか嬉しかった。

そうそう、歳をとってからの矯正は、「口腔ケア」という観点からすごく重要だと思う。歯並びが良くなったことで、日々の歯磨きがしやすくなったし、虫歯や歯周病のリスクが大きく減った。歯が整うと、健康面でのメリットがすごく大きい。このまま老後まで、自分の歯で食べて生きたいと思う。


最後に、この本の「あとがき」の一節。心に沁みたので、書き残しておく。

ある日「何を書いたらいいのだろう」と、思い悩んだときがありました。
親しくさせていただいているM・Yさんに相談すると、「忘れたくないこと。ひたすらそれを書いてください」とアドバイスをしてくれました。
「人は皆いつか忘れてしまうもの。だからこそ書いて残しておく。大切な人に手紙を書くようにしてペンを持てばいい」
僕はこの一言に助けられて、今日も文章を書き続けています。

『今日もごきげんよう』松浦弥太郎 (マガジンハウス)より

「忘れたくないことを、ひたすら書く」
とても大切なことを、また教えてもらったわ。嬉しい。

ありがとう弥太郎さん。
久しぶりに会えたあなたから、またたくさんの宝物を分けてもらったよ。
初めての出会いから随分と経ち、私は歳をとってしまったけど、それはあなたも同じ。重ねた年数と体験を魂の糧にして、感性を磨き直して踏み出していきたい。

いい感じに歳をとっていきたいな。
ご機嫌よく、そして、自分らしく。


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