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第二次世界大戦時にドイツが英領ジブラルタルを占領していれば?[第2回目]

~ 映画や書籍で考える歴史と時事 ~

前回の記事にて、対ソ戦の早期終結がジブラルタル攻略作戦の発動となる可能性について言及した。実際、そのような計画は存在していたので、以下にウィキペディアの記事を掲載しておく。


ヒトラーの強い要求により、OKWはジブラルタル獲得への修正案を考え出した。それはドイツのソ連への侵攻が一旦完了した時に実行される予定であった。フェーリックス=ハインリヒ(Unternehmen Felix-Heinrich)と名付けられた作戦はフランツ・ハルダー上級大将に1941年3月10日に提出された。そこではうまくいけば7月15日までに侵攻軍がキエフとスモレンスクの間の境界に達し次第、部隊は10月15日に始まると考えられていたジブラルタル作戦の準備のために引き返すと提案されていた。フェーリックス=ハインリヒは概ね原案に沿っており同数の軍であったが、新たな支援部隊が加わっていた。


現実の歴史ではユーゴスラビア情勢によりソ連侵攻の時期が遅れ、冬将軍やロジスティック等の問題でモスクワ攻略が頓挫し、ジブラルタル占領の話どころではなくなってしまった。しかし、ドイツがソ連との戦争を回避していた場合や、あるいは対ソ戦の戦況が現実の歴史よりも良好な状況であれば、ジブラルタルはどうなっていたのであろうか。

ドイツは攻略するに足るであろう戦力(2個軍団)で作戦を発動する計画なので、遅かれ早かれジブラルタルは占領されていた可能性が高かったと思われる。


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ジブラルタル占領計画の概要図


ただし、ここでひとつ忘れてはならないのが、作戦経路(移動経路)として避けられない中立国スペインの動向である。

ドイツ軍の国内通過を許可すれば、これは実質上枢軸国側での参戦となり、イギリスを敵に回すことになる。中立を破棄して、食糧(小麦)の輸入元である国、あるいは世界に名だたる海軍大国を敵に回すのが得策といえるのだろうか。

他方で、国内通過を許可しない…と頑なに拒否を続けても、ドイツ側もそれは予想の範囲内で、結局は強引に進駐してくるであろう。それを軍事的に防ぐだけの力はスペインにはない。

ドイツがスペインの中立を侵犯した場合、スペイン側は正規戦闘では敗北する可能性が高いとはいえ、ゲリラ戦でドイツ軍の補給路に妨害工作をおこなうことができる。また、イギリスにはそれを援助する計画が存在していた。

ロジステックに負担を抱えてのジブラルタル攻略の場合、作戦の長期化が予想され、しかもイギリス側が攻略部隊の戦力を分散させるべく、牽制のためにイベリア半島のどこかに部隊を上陸させるかもしれない。

それに忘れてはならないのが、スペインは1939年まで内戦状態にあったがゆえに、スペイン人は戦争状態には慣れており、同時に戦闘経験があるということだ。彼らがゲリラと化して補給路を襲撃するのは容易い。


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スペイン内戦


かつてナポレオンの軍隊はイベリア半島でのゲリラ戦に随分と手間取ることになった。スペインは山岳国のランキングとしては欧州第2位であり、ゲリラ戦に適した地理的特性を有している。そして、イベリア半島のゲリラを支援していたのはイギリスである。歴史は繰り返すことになるであろう。


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半島戦争(1808-1814)でのゲリラ戦


フランシス・フランコのリアリズム的性格を考えれば、ドイツが国内通過許可を要請した際における対応は、その時点での情勢により次の二通りに分類されると思われる。


■ ケースその1:イギリス本土が健全な場合
フランコはドイツの要請に対して「いろいろな理由での先延ばし」を図り、実質上の拒否を目論むと思われる。他方でドイツ側はスペイン国内の親独派を支援してクーデターを仕掛け、成功の暁には親独派による要請受諾をもってスペイン進駐を図るであろう。仮にクーデターが失敗した場合は「保護占領」等の理由を持ちだして進駐し、じ後はジブラルタル攻略にとりかかる段取りが予想される。

■ ケースその2:イギリス本土がドイツに占領されていた場合
フランコはドイツの要請を受諾するものと思われる。ただし、通過許可を与えるのみで、軍事同盟を正式に締結することはせず(形式的には英国に宣戦布告しない)、支援もドイツ側の心証を悪くしない最低限のレベルに抑え、また、ジブラルタルの攻略には自軍を参加させず、英軍に対する交戦は可能な限り回避する。これはカナダあたりに亡命しているイギリス政府が、アメリカとともに本格的反撃に転じるであろう長期的視野に立った「保険」であり、米英の大軍が欧州に上陸してきた暁には、すみやかに関係を修復するための布石である。ただし、このような姑息な手法はドイツも見抜いているであろうから、どこかの時点で枢軸側への加盟を強制されるか、あるいは進駐独軍によってフランコ政権は排除されるかもしれない(→ 続き


参考までに、以下に二つの書籍を紹介しておきます。

● WWⅡ当時のスペインの中立について解説した書籍


● ジブラルタル攻略をめぐる英独日の情報活動を描いた小説


〇 映画や書籍で考える歴史と時事


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