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第二次世界大戦時にドイツが英領ジブラルタルを占領していれば?[第1回目]
~ 映画や書籍で考える歴史と時事 ~
大西洋と地中海の狭間に位置する英領ジブラルタルは、軍事戦略や地政学的に非常に重要な場所である。
イギリスにとってはインドからスエズ運河を経て本国に至る経済・運輸のシーレーン上に位置する要衝であるばかりでなく、敵対勢力の艦艇の往来を制限もしくは妨害することで、地中海等における海軍戦力比を自国に有利な形で形成できる関門的存在でもあるのだ。
第二次世界大戦におけるドイツの首脳部はジブラルタルの重要性を認識しており、攻撃・占領のためにプランを立案していた。
フェリックス作戦あるいはイサベラ作戦という名の複数の作戦が準備されていたものの、陸路から攻めるためには地形的にスペインを経由せざるおえず、そして当時のスペインは中立国であった。
ジブラルタル占領計画の概要図
国家元首のフランシス・フランコは、かつての内戦で多大な援助をドイツから受け、また、政治体制がドイツと共通する反共全体主義であり、そのため同国に対しては友好的な姿勢での中立であった。
フランシス・フランコ
ドイツはスペインに対して枢軸国での参戦を要請するものの、フランコには簡単にイエスと言えない事情が存在していた。大きく分類すれば事情は二つに分類される。
第一は、内戦の痛手から立ち直っていないということである。国力後退からの復旧はもちろんのこと、人心荒廃も甚だしく、軍事的決着がついていた当時でさえ、人民戦線の残党が不穏な動きを見せていた。
足元がぐらついているときに、イギリスとの戦争どころではないだろう。
第二の事情は、仮に枢軸国側で参戦した場合、イギリスの反撃によりカナリア諸島等が占領されるかもしれないという危惧であった。ドイツの海軍力では(ましてやスペインの海軍力では)イギリスの海軍力には太刀打ちできないであろうから、仮にカナリア諸島が占領された場合、それを奪還するのは極めて困難…というよりも事実上不可能になる。
つけ加えるならば、当時のスペインは小麦をイギリスから、石油をアメリカから輸入しており、中立を放棄すればイギリスからの小麦はストップし、アメリカ(当時は中立)からの輸入も、英海軍の海上封鎖により流入は遮断となる。
では、参戦の代償としてドイツは代替分の食料と石油を援助してくれるのかといえば、これに関する確約なり言質なりはドイツ側からはなかった。
そうなってくるとフランコとしては先行きの見えない参戦よりも、中立を維持して様子見とするのが良識的な判断となってくる。
フランコはヒトラーとの会談(アンダイエ会談)において、参戦の言質をとられることを執拗に避け、伝えられるところによれば、後にヒトラーは激怒し「あのイエズス会の豚野郎が!!」「私はあの男と再び別の会合を経験するくらいなら自らの歯を四本引き抜いたほうがましだ!」と毒を吐いたという。
アンダイエ会談
現実の歴史ではスペインは中立の立場に留まり、ドイツがスペイン経由で大軍をジブラルタルに送り込む事態はついに発生しなかったものの、対ソ戦が早期に終結していれば、返す刀でジブラルタル攻略作戦が発動していた可能性はありえる(→ 続き)
なお、参考までに、以下に二つの書籍を紹介しておきます。
● 当時のスペインの中立について解説した書籍
● ジブラルタル攻略をめぐる英独日の情報活動を描いた小説
〇 映画や書籍で考える歴史と時事
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