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第二次世界大戦時にドイツが英領ジブラルタルを占領していれば?[第5回目]

~ 映画や書籍で考える歴史と時事 ~

前回の記事では、ドイツの英本土侵攻が困難であること及びチャーチルの対応について述べた。

今回の内容は、前回記事の最後に述べた「別の道」についてであるが、結論を先にいえば「ソ連参戦」である。

この時点において独ソ戦が発生していなければ、チャーチルはソ連による対独先制攻撃…背後からの一撃を意図して外交交渉(及び謀略工作)を繰り広げていたであろう。赤い巨人がイギリス側で参戦すれば、ドイツは対英戦力のかなりの割合を対ソ戦に抽出せざるえなくなる。

しかしチャーチルの都合通りにソ連がイギリス側で参戦する可能性はあるのだろうか。

ソ連としては独英の戦争状態が一日でも長引けば長引くほど、自分たちに欧州大国からの刃が向くことはないので、中立的な立場で事態の動向を眺めている方が得策とはいえないだろうか。

イギリスが対独戦で大戦果をあげて、ドイツの敗北色が強くなるような事態になれば、ソ連としてはドイツとの戦争に勝利を確信できるだろうから、この時点でならば参戦の確率は高くなる。しかし、陸軍国(ドイツ)と海軍国(イギリス)の互いが行き詰まりの戦況であるならば、ソ連としては参戦のメリットがない。

イギリスがソ連に働きかけるように、ドイツ側も独ソ軍事同盟の外交交渉を活発化させるのではなかろうか。そのための有効な切り札は「中東地域の英国植民地の分割占領」であろう。ジブラルタルがドイツ側の手に陥落していれば、この切り札は裏付けのあるものになっていた可能性が十分にありえる。

他方でイギリス側がソ連に提示できるものはあるのだろうか。

イギリスが自国の権益を犠牲にする覚悟がなければ、自分たちの手元にはない「東欧諸国をソ連の影響圏とする是認」といったところだろうか。これは現実の歴史でチャーチルとスターリンが取引した案件である。


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チャーチルとスターリン


英独の行き詰まり戦況に変化がない限り、おそらくスターリンは、二国からの熱烈なラブコール合戦を長引かせ、提示条件のインフレを加熱させ、戦況がどちらかに大きく傾いた段階で、負け組の国に宣戦布告するであろう。現実の歴史で満州に攻め込んだように。

現実的に考えられる「戦況の変化」は、アメリカの対独戦線宣戦布告であり、英米軍が欧州本土に大軍を上陸させて、反撃の足場の確保に成功したときであろう。この状況になれば、戦争が終結する前にドイツに攻め込む算段をソ連は始めるであろう。


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現実世界のノルマンディー上陸作戦


逆にいえばアメリカが参戦すれば、国力という観点のみならず、地理的な板挟みという観点でもドイツは苦しい立場へと転落することになる。ジブラルタルは英米に奪回され、これまでのメリットも失うことになるだろう。
(→ 続き


〇 参考書籍

● 独ソ戦以前のソ連側の対独戦研究に触れてある書籍


〇 映画や書籍で考える歴史と時事


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