大ヒットのネトフリ『One Piece』、アメリカで真剣佑は大ブレイク、そして意外や大人気のキャラと、トランス俳優にも注目
『ONE PIECE』の実写版が、ネットフリックスで、9月に世界のトップに踊り出る偉業を達成。
世界84ヶ国で一位をゲット。
これはネトフリの大ヒットシリーズである『ストレンジャーシングス』と『ウェンズデー』の記録を更新したもの。ひょー!
ネトフリのヒット記録を更新した『ONE PIECE』のアメリカでの評
実写版の『ONE PIECE』、わたしとしては想定以上に面白く、よく映像化したなー! と感心しました。
原作マンガの熱心なファンだったら、あれこれと「ここが違う」「大切なスジがはしょられている」といった思いもあるかもしれないので、すみません。
ただ原作をあまり知らないまま、観ても充分に面白いし、フィールグッド・ドラマですよね。
ロットントマトでは、批評家のフレッシュ採点が85%
視聴者のスコアは、96%
ニューヨーク・マガジンのアンジェリカ・ジェイド・バスティアンさんは「Netflixの『ワンピース』は、オリジナル作品のすばらしさを保とうとする姿勢を証明している。クルーは完璧な配役となっている」と、フレッシュトマト評価。
USAトゥデイのブライアン・トュルイットさんは「『パイレーツ・オブ・カリビアン』と『スコット・ピルグリム』をエネルギッシュに掛け合わせ、『ドクター・フー』風のキャンプをひとさじ加味」とコメントして高評価。
いっぽうニューヨークタイムズのマイク・ヘイルさんは、「Netflixの『カウボーイビバップ』以上に、Netflixの『ONE PIECE』は当たり障りのない一般的な作品に感じられる」と低評価。
マンガの実写版だからといってヒットするわけではない
もちろん『ONE PIECE』が、世界的に大ヒットとなっているマンガでり、アニメであって潜在ファン層がいたのは、間違いないこと。
では、ヒット作のマンガだからといって、ヒットするかといえば、そうでもないのです。
ネトフリの過去をふり返ってみると、アニメ実写化ドラマ、『カウボーイ・ビバップ』や『デス・ノート』はヒットしなかったケース。
『デス・ノート』なんて、大スターのウィリアム・デフォーが死神として出演、これ以上の配役は考えられないというほどのキャスティングですよ。
それでもアメリカで話題になることもなく、不発。
さらにアメリカでボロカスに叩かれたのが、ポケモンのライブアクション映画。アメリカ市場に合わせようとして、かえって失敗したケースでしょう。
いっぽう大成功したのが、『スーパーマリオブラザース』、今年のハリウッド映画で、興業第2位についた稼ぎ頭でした。
Googleユーザーでも87%が高評価。
こちらはアニメですが、よくまあ、あのゲームを映画にして、こんなに大ヒットしたよね、というケースですよね。
つまり売れているマンガを原作にして、実写版を作れば、ヒットするという甘いものでもなく、ゲームを映画にすれば売れるものでもなく、やはり映画は脚本なのだ、というのが私なりの感慨です。
ことにネトフリのようなストリーミング配信サービスでは、その作品が面白ければヒットするし、そうでなければ、ダメ。
たとえば韓国発の『イカゲーム』がヒットした時に、ほぼ世界の視聴者は、主演男優のイ・ジョンジェのことを知らなかったはず。
そしてスペインのドラマ『ペーパーハウス』でも、出ている俳優たちのことを、世界の視聴者は知らなかったはず。
もちろん本国では知られた俳優なのでしょうが、他の国では知られていない。
それでも脚本が面白ければヒットするのが、ストリーミング配信の面白さであって、決して世界的なスターが出ているわけでもない、でも脚本が面白ければ、大ブレイクする可能性があるわけです。
新田真剣佑がアメリカで人気すぎる
そして今回のヒットで、アメリカでネットを騒がしているのが、新田真剣佑(あらた まっけんゆう)のカッコよさ。
さすが千葉真一さんのご子息だけあって、幼少時から英才スポーツ教育してきたんでしょうね。
アクションシーンの動き、切れのよさ、脚の上がり方、すばらしすぎる!
彼は今後ハリウッドでひっぱりだこになること間違いなし!
なんたって今どきアジアンな俳優に求められるのは、アクションができるかどうか。アクションができて、英語がネイティブで喋れたら、もう鬼に金棒!
真剣佑ファンのミームもたくさん出ていて、こんなのもあり。
「筋書きがいいから、ワンピースを見ている。
筋書き=真剣佑」
おい(笑)
このヒットで、英語がネイティブでできるのであれば、マーヴェル映画かDC映画に出るようになるんじゃないでしょうか!
じつはアメリカは、日本以上に経歴主義なのです。
日本であれば「手垢のついていない」「手つかずの」新人が欲しい、という傾向があるじゃないですか。新鮮さを良しとする。
旬の食材を、なるべく手をかけずに、そのまま刺身で味わう日本文化の表れ、日本の美学というのでしょうか。
いっぽうアメリカでは、焼いたり、煮たりしてナンボの文化ですから、キャリア形成が大事。
過去に出た作品、それがヒットしたかどうかが、キャスティングの大きな判断材料になるのです。
なので、いったんヒット作に出ると、次からオーディションをゲットしやすくなるし、どんどんビッグになれるもの。
この先が楽しみですね!
実写版で、カッコよくなっているキャスティングも絶妙
実写版だとキャスティングがものすごく重要になりますが、実写版で驚いたのが、全体的に登場人物がカッコよくなっていること。
原作はマンガであるだけに、現実離れしたルックスであることが多く、そこがマンガならではという面白さだったはず。
それをどう実写に落とし込むか、難問だったと思うのですが、あれ、サンジも、シャンクも、ガープもフツーにカッコいいんだが!?
マンガから想定していたルックスよりも良くて、そしてちゃんと現実にはまって見えるのが、驚き。
想定していたよりもカッコいい!
ナミは正直なところ、もっとアジア系ミックスの女優でいいんじゃないかと思っていましたが、実写版を見たらぴったりで、良いキャスティングだと感じました。
製作に原作者が加わっていることの重要さ
今回、作者の尾田栄一郎センセイが製作指揮に加わったことも、とても大事なこと。
じつはアメリカの映画やテレビ製作の現場で、なにより大事なのが、意志決定者に誰がいるかということなのです。
いちばん重要なのはショーランナーといわれる製作指揮者で、ショーランナーが頭に描くビジョン(長期的展望、全体像)に基づいて、物語の世界観、キャラクター設定、ストーリー展開などが決められていきます。
たとえば『ゲーム・オブ・スローンズ』は巨大で、何シーズンも続く作品ですが、ショーランナーはデヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスというコンビ。
そして複数の監督が個々のエピソードを撮影しているわけです。
ドラマではひとりの監督がやっていたら間に合わないから、各エピソードを撮る監督は複数いて、進行しているんですね。
そしてショーランナーが世界観を作り、その世界での謎解きを把握しているわけです。
役者のダイバーシティはだいぶ進んできていますが、じつは多様性が開かれていないのが、製作の決定権を持つトップの人事。
たとえば日本のアニメ原作や日本舞台のドラマでも、日本人が制作側に加わることができないから、ナゾの芸者、ナゾの着物、ナゾのヤクザ、ナゾの料亭と、とんでもない日本が頻繁に出現するわけですね。
日本の高級レストランが出るときは、だいたいヤクザが経営していて、ナゾの芸者がサーバーしているって設定になるよね。
映画の世界だと、もはやヤクザと芸者人口が、日本の人口の50%くらいを占める感じですよね(苦笑)
今回のライブ・アクションでは、原作どおりにネーミングが日本的だったり、おにぎりが登場したりしながら、キャスティングはいろんな人種が混じっていて、独自のファンタジー世界を造り上げていると感じます。
原作にリスペクトがあるのが、よくわかる。
実写版『ONE PIECE』においては、原作ファンのマット・オーウェンズと、スティーブン・マエダがショーランナーを務め、作者の尾田栄一郎センセイ(面白いことに、英語でのインタビューでも、センセイと呼ばれていて、日本のマンガ家がセンセイと呼ばれるのが、アメリカのオタクにとっては高ポイントになっている)が監修したのが、成功のカギでしょう。
イニャキ・ゴドイが絶妙の配役
あれほどぶっとんだキャラのキャスティングも意外やとてもはまっていて、ことにうまいキャスティングだと感じたのは、主人公のモンキー・D・ルフィ役のイニャキ・ゴドイ。
メキシコ出身の彼は、まさにルフィを現実化したかのよう。
そしてイニャキ・ゴドイが主役を獲得したのがなぜ重要かというと、アメリカのドラマでも、あまりメキシコ系の役者が主役を張るというのはないことなんですね。
たとえばガエル・ガルシア・ベルナルとか、『スターウォーズ』でおなじみのディエゴ・ルナとか、メキシコ出身の人気俳優にしても、大まかスペイン人の容貌ですよね。
メキシコ人といわれると、そうなんだ、と思うけれど、スペインやイタリアといわれても、そうなんだ、という感じ。
また『マンダロリアン』や『ラスト・オブ・アス』で大ブレイクしているペドロ・パスカルもチリ出身(現在はアメリカ国籍)で、「ラティーノ」「ヒスパニック」系といわれますが、ふつうにヨーロッパ系アメリカ人の顔立ちに見えます。
ところがイニャキは、まったく違う。
はっきりと「ピープル・オブ・カラー」(有色人種)というルックスです。
たしかに中南米にいそうな容貌で、かといって人種がハッキリわからないところがまたファンタジー設定にふさわしく、しかも愛嬌が抜群であって、好感度が高いタイプ。
こういう子が主役を張るんだ! という新鮮な驚きがありました。
原作者からも太鼓判を押されたとのことですが、さもありなん。
徹底的にポジティブなルフィを演じるにふさわしい、稀有なキャラクターの持ち主だと思います。
コビ—役のモーガン・デイヴィスにも注目
またもうひとり面白い配役としては、コビ—役のモーガン・デイヴィス。
実写版では、非常に大きな役柄になっています。
モーガンはオーストラリア出身の21歳。子役から活躍しているのですが、じつはトランスジェンダー俳優なのです。
女子として生まれて、子役の時は少女の役を演じているのですが、13歳にしてトランスジェンダーと自認、家族もそれをサポートし、モーガンはトランスジェンダーの権利について活動するアクティビストでもあります。
今回、演じているコビ—は、たしかに21歳という実年齢よりも若い少年に見えますよね。
かわいらしく、繊細そうな感じが役柄にぴったりで、マンガよりも美形になっています。
ここは年齢より若く見えるトランス俳優を配したのが、功を奏しているのでは。
ちなみにハリウッドでは、トランスジェンダーの俳優も、少しずつ増えています。
たとえば女優だったエレン・ペイジが2020年にトランスジェンダーとしてカムアウトして、現在はエリオット・ペイジとなっているのは、知られているところ。
こうしたトランス俳優たちは、He や Sheという三人称代名詞を使わず、Theyを代名詞として単数に使うのも一般的になっています。
意外やアメリカで大人気を得たのは、あのキャラ
さらにいえば、アメリカでは、「バギー」が高評価でした。
Buggy nailed it!(バギーはばっちり成功)
と賞賛され、めちゃ人気の高いキャラなんですよ。
たしかにマンガ原作では、本当に異形のピエロですが、ちゃんとそれがリアライゼーションされているし、しかもイケメン寄り。
狡猾で、ずるくて、ナルシストで、残酷で、でもどこか憎めない愛嬌があるバギーが作られていて、たしかにこの後のシーズンでも観たい!
原作のマンガでは、マンガならではで、へんてこりんなルックスが変わった登場人物たちが出てくるわけですが、それをいかに現実化するかは、かなりの難問だったでしょうが、ベリーグッジョブ!
あっという間にシーズン1が終わってしまったので、早くシーズン2に突入してもらいたいものです。
はたしてチョッパーがどうなるかが、話題の的のよう。
『マンダロリアン』のグローグーのように、パペットで演じても、かわいかったらキャラクター商品が売れるし、人気が出そうですね。
日本のアニメが大人気なのは間違いなしだけど、ドラマは?
今回の実写版の成功は、日本のマンガのプロットの面白さ X 世界で通じるセットプロダクションとキャスティングの妙かとは思います。
世界的にいえば、日本のアニメはみんな大好き。
これは間違いなし。
実際にストーリーテリングが面白い!
……ただし。
アメリカでは、日本のドラマはちっとも人気ないのです。
えええ、なんで?
というところを、また続きで書きますね!
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