見出し画像

interview ERIC LENSE : GroundUP Music COOが語るマイケル・リーグの理想を叶えるためのレーベル運営

スナーキー・パピーのマイケル・リーグが運営するグラウンドアップ・ミュージックの音楽が素晴らしくて、それに魅了されて、ずっと好きだった僕がグラウンドアップ・ミュージックの公式コンピレーション『GROUNDUP MUSIC × CORE PORT』を日本のレーベルのコアポートと共に作りました。

GROUNDUP MUSIC × CORE PORT 選曲:柳樂光隆

4度のグラミー賞を受賞したスナーキー・パピーのマイケル・リーグが創設、アメリカだけでなく世界中の音楽シーンがその動向を注目するGroundUp Musicレーベル。ジャンルを越えてアーティスト間のハブとなり、新しいサウンドを産み出し続けるこのレーベルがコアポートとタッグを組み、レーベルとしても初のコンピレーションCDが日本のみ発売として実現。選曲は同レーベル・アーティストに数多く取材を続けている柳樂光隆氏(Jazz The New Chapter)が担当。

このコンピレーションをリリースするにあたって、何か記事でも作ろうかなと思った時に、普通の記事作ってもしょうがないので、なんかグラウンドアップ・ミュージックの面白さが伝わるやり方はないかなと考えていたら、中の人の話を聞くのはどうだろうとのアイデアが浮かびました。

マイケル・リーグ「バンドのメンバーの友達の中には、素晴らしいミュージシャンが沢山いて、みんなすごくハードな音楽活動をしているけど、注目を浴びることは難しいんだ。今、音楽産業はとても厳しいからね。だから、ファンベースが既にあるスナーキー・パピーの前座として演奏してもらったりして、まずは知ってもらう機会を作ることにした。そんな考え方の先にあるのがGroundUP Music。この考えのベースにあるのはコミュニティーを作りたいってこと。ジャンルを問わずミュージック・ラヴァーが好きになってくれるようなグレイト・ミュージックを奏でるミュージシャンが集っているコミュニティーをね。ジャズに限定せずに、オープンマインドな“ミュージック”のコミュニティーを作りたいんだ。レーベルはそんな音楽とリスナーをつなぐハイウェイみたいものだと考えている。」

そもそもグラウンドアップ・ミュージックはマイケル・リーグが上記のような理念を持って始めたすごく変わったレーベル。現在はレーベルのアーティストを中心に素晴らしいライブミュージシャンを集めたGroundUP Music Festivalを毎年、フロリダのマイアミで開催したりしています。

このレーベルの面白さや特殊さについて、もっと知りたいなと思い、コンピレーション・アルバムのリリースのプロモーションって言うていで、レーベルの中の人に取材のオファーをしてみました。もちろん(プロモーションなので)即OK。それでグラウンドアップが推薦してくれたのがエリック・レンズさん。

Eric Lenseさん自宅オフィス(Zoom Interviewスクショ)

マイケル・リーグみたいな人が面白いことをやろうとしたときに、その後ろでどんな人が彼をサポートしていて、アイデアを実現させているのか、みたいなことを知るチャンスだなと思って、お時間をいただいて、話を聞かせてもらうことにしました。

メジャーのレコード会社を経て、大手の著作権管理団体を渡り歩いて、今は副業のひとつとして、グラウンドアップ・ミュージックの最高執行責任者をやっているということ。このあたりの働き方の環境もアメリカの音楽業界を知るきっかけになりそうです。

というわけで、クリエイティブなアーティストたちを支えるレーベルの裏側の一端をぜひ、読んでみてください。

取材・執筆・編集:柳樂光隆 通訳:染谷和美 協力:コアポート 


■レコード会社法務部、著作権管理団体を経て、グラウンドアップ・ミュージックへ

――エリックさんはどういうきっかけでグラウンドアップ・ミュージックに関わることになったのでしょうか?

2017年にマイケル・リーグからミュージック・パブリッシングの手伝いをしてほしいと声をかけられた。マイケルはスナーキー・パピー含めてアーティストとしても忙しいので、自分が抱えているアーティストやグループのメンバー個々に関してはレーベルとしての契約はしているけど、パブリッシングとしての契約はできていない人が多かった。僕はパブリッシングに関する経験が豊かだったから、最初は単純にコンサルタントとして招かれた。そこからマイケルとの付き合いを重ねていったら「レーベルの方も任せられないかな」って相談を受けて、2018年からはレーベルのオペレーションも任されるようになって、今の肩書はCOO(Chief Operating Office。最高執行責任者)。グラウンドアップ・ミュージックのレーベルのヘッドとパブリッシングのヘッドでもあるという立場だね。本格的にすべてを担当するようになったのは2019年からだったかな。

(※ミュージック・パブリッシング:主に著作権使用料の徴収などの著作権管理のこと。音楽作品の著作者から譲渡されたその作品の管理および利用者への売り込みやタイアップ(CM、映画、動画など)の取得などのプロモーションを行う。その音楽作品から得た著作権使用料から契約に応じた比率分を印税として著作者に分配する。)

――そもそもマイケルと知り合ったきっかけは?

実はかなり昔からの知り合いで、マイケルは僕が参加していたバンドのベース奏者だったんだ(笑 その頃からミュージシャンとしてのマイケルのスペシャルな才能は感じていた。たしか2010年ごろだったと思う。その頃から何かしらの形でこの人との関係は続くんだろうなって予感はあったよね。

――あなたの後ろにギターがたくさん並んでますけど、つまりあなたはギタリストってことですね?

ここにはマイケルのベースもあるよ。「しばらく貸すよ」って言ってくれたから、いつ返すのかわからないけど、とりあえず今はここにある(笑 僕はギターもベースもドラムもやるんだ。たぶん音楽業界の人間の多くは最初はプレイヤーだったけど、うまくいかなくて、音楽ビジネスの方に軸足を移していくって感じだと思うんだよね。僕もその一人(笑 でも、僕は今のポジションにとても満足しているよ。

マイケル・リーグから借りてるベースだそうです

――それはアメリカっぽい話かもしれませんね。日本ではそんなに元ミュージシャンは多くないかも。

それは面白いね。それがアメリカの独自性なのかなぁ。本当は音楽をやりたい、でも、自分ではやりきれない、だから音楽の傍にいたいって人が業界にたくさんいると思う。僕自身がバンドを二つくらい経験して、それを経て、今はフルタイムの仕事を得た。しょっちゅうツアーに出なくても済むし、自分が作った音楽だけで食べていく心配もしなくて済むから、いいなって思うよ。実際にパブリッシングの仕事をやり始めてから、自分の曲作りの実力って一緒に働いているマイケルをはじめプロのミュージシャンたちほどじゃないなってつくづく痛感されたしね。

――でも、音楽家を目指していたからこそ、ミュージシャンたちをより理解できるのかもしれませんね。ところで、グラウンドアップ・ミュージックの前にはどういう仕事をしていたのかについて聞いてもいいですか?

実は今は二足の草鞋なんだ。日本におけるJASRACのアメリカ版みたいな著作権管理団体のSESACのNYオフィスを担当していて、肩書きとしてはチーフだね。2016年からだからもう勤務して6年なんだけど、そっちが昼にやっているメインの仕事。それが終わってから、グラウンドアップの仕事を夜にやるんだ。そもそもSESACで働いていた経験を買われて、マイケルから声がかかったわけ。SESACの前の2013年から2016年までは競合相手のASCAPで働いていた。その前はワーナー・ミュージックで、リーガル・デパートメント(法務部)にいた。そこではロイヤー(弁護士)としてではなく、自分自身はそういう資格はないけど、契約書の素案を作ったり、アーティストに限らず雇用に関する契約や音楽出版に関することとか、そういう様々な交渉事を担当していた。そういったキャリアを見込んでマイケルが声をかけてくれたのは間違いないと思う。マイケルはスナーキー・パピーとしてはそういったことをやってくれる人がいたんだけど、自分が抱えているアーティストそれぞれについてはいなかったから、それを僕に任せたいってことだね。マイケルが求めることができるスキルに関しては僕がこれまでに培ってくることができたと思ってる。ここまでアーティストひとりひとりに対してベストな環境を提供しようとしているレーベルは他になかなかないので、そこはグラウンドアップ・ミュージックの特殊性だと思うよ。

■グラウンドアップ・ミュージックの理念

――アーティスト・ファーストみたいなことはレーベルだけじゃなくて、フェスの運営などでもマイケルもよく言っていることで、グラウンドアップ・ミュージックの理念みたいなものだと思います。では、具体的にはどのあたりが特徴なんでしょうか?

僕もこの業界で働いてきたけど、ここまでのレーベルは他にないってくらいに一つ一つの作品に対して、ひとりひとりのアーティストに対して献身的にやっていると思う。最も大きいのはアルバム複数契約を一切しないということ。レコードごとに契約を結んで、かつ「このレコードで回収できなかった分を次のレコードで回収する」っていうクロス・コラテラルって手法があるんだけど、それも一切やらないことになっていて、一枚一枚で対応する。それによってアーティストにはお金のこととか一切関係なく、自由に創作に専念できる環境を提供しているということ。アーティストにとってはレコードごとにそれぞれのストーリーがあるし、そのストーリーを実現するために必要なツールがあれば、それをすべて提供するのがレーベルの役割だと考えてやっている。そのためには複数契約で縛るってことをしないことが必要。もちろんアルバムを作る上では製造からマーケティングなどの様々なコストがかかるわけだけど、アーティストにはそれは関係ない、アーティストの仕事はアートを作ること、その後ろにあるメカニクスの部分はレーベルがやるべき役割という完全な分業ができているところが特徴だと思う。

それにアーティストとの連絡も密で、1か月に2回は話をして、キャンペーンの進行具合だったり、SNSをどんな感じでやってるかとか、これからパンデミック後にツアーが戻ってくるにあたってツアーの企画をどうするかとか、いろんな話をしている。そういう風に様々なアーティストに手厚く対応した結果として、ベッカ・スティーヴンスみたいにア―ティストのほうから「この先も長くお願いしたいからマルチ契約にしたい」って言ってくれたこともあった。こっちからではなく、アーティストがマルチの契約を望むような状況を作ることができているのは独自性だと思うよ。

――たしかにアーティストにとってはいい話なんですけど、マルチでの契約をしないってことはレーベルの運営・経営って面から考えると望ましくない条件ですよね?

もしマルチ契約ができていたら、今よりも全然稼げていると思うよ(笑) でも、そもそもレーベルのために金を作るんじゃなくて、アーティストのためにレーベルを運営するってのがマイケル・リーグが当初から考えていたヴィジョンであって、エートスだから。ビジネスとしてこれを大きくしていくってことではなくて、自分たちの周りの、マイケル・リーグを中心としたコミュニティ的なものに対して、与えられるものはできるだけ与えていく、っていう考え方。つまり典型的なレーベルの在り方とは違うものなんだよね、そもそもが。

もしこのアルバムで稼ぎきれなかったら次のアルバムで取り返すみたいなことができていたらビジネスとしてはすごく楽だとは思うけども、我々はそれをしなかった。でも、それをしなかったのに、他のレーベルを選ぶこともできるオプションを持っているアーティストが、まずは僕らのところに来てくれる状況があるのはうれしいし、自分としてはありがたい。嘘のない関係が気付けているんだなって思うよ。自分たちにとって、アーティストにとって、グラウンドアップ・ミュージックがホームだって感覚があって、何かあったらここに戻ってこれるって、そういう場所になれているのかなと思う。

――なるほど。ちなみにその1作ごとの契約って部分以外でもアーティストに寄り添った条件があるのかなと想像しますが、話せる範囲で聞かせてもらうことはできますか?

もちろんあるよ。アーティストに対してそれぞれ守秘義務があるので話は一般論になるけど、まず間違いなく言えるのは、我々の取り分は他のレーベルと比べてかなりパーセンテージが低いということ。そうだな、おおよそ25%前後ってところかな。これはかなり低いんだよね。もちろん前渡金リクープ後の話だけど。そして我々が投資する分、例えばマーケティングの費用やPRの経費は我々が負う。そうやって自腹を切ったら、その後の配信や購入で補いきれないケースも出てくるかもしれない、けれどもその場合は我々の善意を示すことになると考えているんだ。

いくつかのケース、例えばスナーキー・パピーはもちろんのこと、デイヴィッド・クロスビーミッシェル・ウィリスベッカ・スティーヴンス等々、我々が抱えているアーティストの多くは、キャリアの次のステージでまだこれから大きな花を咲かせると僕は信じているので、そういう彼らに対する投資は、たいていの場合我々にプラスの結果をもたらしてくれる。

ーーなるほど。

僕の一番の仕事は、インフラ面と財政面のあらゆるパズルのピースを収まるところに収めて、最終的に我々に損失が出ないようにすること。それが僕の仕事だ。その一環として、アーティストとの契約内容のみならず、僕がレーベルに持ち込む様々な可能性というのもあり、例えば新たな出版社や配給先を見つけてくるとか…コアポートなどとパートナーになれたことは我々にとって本当に幸運なことで、おかげで日本により良い形で足跡を残すことが確実になった。僕が我々のアーティストのために常にベストなパートナーを探しているのは、最終的にはそれがアーティストに、そしてレーベルにもより多くの金銭をもたらすから。なので、僕の仕事として大きいのは、社外との最善の取引を模索すること。それによって、我々が社内でアーティストとリリース毎に結んだ契約が最大の結果を生むことに繋がっていくから。

僕らは成長していく過程にあるアーティストを抱えているので、とにかく今はマーケティングとか、SNSの展開とか、SpotifyやAppleMusic、パンドラなどのストリーミングが伸びてくれたことで、僕らみたいなレーベルが抱えているアーティストを育てる上ではすごく有利に働いてくれている状況がある。だから、いい感じで伸ばすことができているよ。

■デヴィッド・クロスビー、ベッカ・スティーヴンス、マイケル・リーグ

――さっき名前が出ましたが、デヴィッド・クロスビーとの契約についても聞かせてください。2016年の『Lighthouse』の1作だけでしたが、はっきり言って、グラウンドアップ・ミュージックにとっては桁違いの大物で、他のアーティストとは違うスケールですよね。この契約はどんな意味を持っていると思いますか?

デヴィッド・クロスビーに関してはいつもと勝手が違うところはあった。あれだけのアイコンでありレジェンドだからね。そんな人のアルバムを一枚でもリリースさせてもらえるということは僕らのレーベルとしてはすごく光栄なことだった。大きな一つの変化だったなと。彼ほどの知名度と実績を持つアーティストを我々はそこに至るまで抱えたことがなかったので、彼に相応しい対応をするというのが非常に重要だった。まあ、あくまで我々側の対応と結果についてしか話できないけど、あのレコードを出せたのは本当に光栄かつ幸運だった。

今、デイヴィッド・クロスビーはスナーキー・パピーとマネージメントが一緒なので、その関係についても僕らはとても喜んでいるんだ。くり返すけど、あの1枚を出せたのは最高のチャンスだった。その後、彼はBMGと複数枚のレコード契約を結んで、グラウンドアップ・ミュージックを離れたんだけど、僕らはそれを彼にとっていいことだと心から喜んでいる。そもそもマイケル・リーグがデイヴィッドのバンドの音楽監督という形で関わっているから、デイヴィッドのキャリアと我々のレーベルの間には今もかなり重なる部分があるからね。マイケルが率いるバンドではベッカ・スティーヴンスも活動しているし、同じく僕らのアーティストであるミシェル・ウィリスもいる。そういう意味ではデイヴィッドは今も我々ファミリーには欠かせないメンバーで、彼の音楽は…アメリカの音楽は間違いなく、デイヴィッド・クロスビー抜きでは語れないから。そこに僕らが、ほんの少しでも関われたということだけでも光栄なことだよ、間違いなく。


――次はベッカ・スティーヴンスです。彼女は以前から実力もそれなりの知名度もあったけど、グラウンドアップ・ミュージックと契約してから一気に飛躍したと思いますし、すごく自由に活動していて、音楽的にも豊かになった。僕はずっと彼女の活動を追ってきたけど、グラウンドアップ・ミュージックが彼女の飛躍をサポートしたと言ってもいい。その結果がグラミー賞のノミネートだと思います。彼女についても聞かせてもらえますか?

ベッカ・スティーヴンスは本当に成長したと思う。彼女の成長を見ているとグラウンドアップ・ミュージックがいようがいまいが彼女は大きなことを成し遂げることが出来た人だと思うよ。でも、現時点では彼女は僕らを信じて、カタログを預けてくれていること、更にこれからのことも一緒に考えてくれている。それはすごくありがたいことだと思っている。

彼女と最初に一緒にやったのは『Regina』なんだけど、その後のソロ、来年の頭に出すことになっている彼女の夫のネイサンとのアルバムとか、マイケル・リーグ、ジゼーラ・ジョアン、ルイス・ケイトー、ジャスティン・スタントンとのプロジェクトのミラーズとか、これからこういうのをやるよってアイデアをどんどん出してくる人。それも毎日のように、その日の在り方が変わるだけじゃなくて、次にやりたいこともどんどん変わってくる人。多くのレーベルはそういった彼女の在り方に難しさを感じると思うけど、僕らはそれをチャンスとみなしている。そして、ベッカに最も良い形で役立てるよう、こちらも常に気を張っていなければいけない。なにしろ彼女はああいう…ユニコーンだからね。僕は彼女をそう呼んでいるんだ。ああいう人は百万人に一人しかいない(笑)。この業界にベッカのような人は他に何人もいない。だから僕も常に、彼女が次に何を言い出すか緊張感を持って対応している。彼女から出てくるものに素晴らしさが不足していることは決して無いからね。

――そのサポートがベッカの成功に貢献したんだと僕は思います。ベッカだけじゃなくて、マイケル・リーグに関しても、かなりチャレンジングなフェスをやったり、スペインに移住して、ヨーロッパの人たちと変わったことをやってみたり、彼のアイデアを形にするのも、レーベルとしてサポートするのも、すごく難しいですよね。

これは本当に難しい。究極的に難しいね(笑) ある時に、急にトルコに行ってドラムのレッスン受けてくるって言っていなくなったり、ソロアルバムを作ったって言うから聴いてみたらそれまでやっていたのと全然違う音楽だったり、そんなことが毎日のように起こるから。でも、そんなマイケル・リーグを信じているから僕だけじゃなくて、僕らのチームはここにいると思うんだよね。マイケルはいつもクレイジーなことを言い出すんだけど、僕らもそれに対してひるまなくなってる。なぜならそれは絶対にうまくいくアイデアだって、僕ら全員がわかったから。そして、それは何かの形になるから。もしかしたらお金にはならないかもしれないけど、アートとして美しいヴィジョンがそこで形になる。それを僕らもわかっているので、ついていける。マイケル自身が何事にも恐れず、アーティスティックな理想を追い求める人なので、それに僕らもついていくって形だね。

僕も音楽業界で働いてきて、アート以前にお金を追いかける人はたくさん見てきた。でも、マイケルみたいなやり方でアートを追求する人はこれまでに見たことがなかった。考えてみれば、世の中の人の記憶に残るのはアートであり、作品。それがあれば自ずと他のものはついてくるって考えに僕らのチームはなっているんだと思う。僕らもアートを追求するという姿勢にたいしてはひるんでいないんだよね。

――信じているから覚悟を決めていると。グラウンドアップ・ミュージックの音楽はスナーキー・パピーのファン・ベースがあるからプロモーションはしやすい部分はあると思うんだけど、一方でまだまったく知名度のない若いアーティストをリスナーに届けるのは簡単ではないとも思います。それに最近、ベッカやマイケルがやっているような中東や北アフリカの要素が入った特殊な音楽は内容は素晴らしくても、北米のマーケットにそのままポンっと投げても届くかどうかはわからないとも思います。僕も評論の立場から、それらを日本にどう届けるべきか、すごく考えます。レーベルとして、その辺はどう考えていますか?

僕らはよく“キャロット&スティック”って言葉を使うんだけど、ニンジンにあたるのがスナーキー・パピーで、みんなが知ってるアーティスト。みんなが知っている人気アーティストだからみんながすぐにチェックしてくれる。スティックにあたるのが言い方は悪いけど、その他のまだ知名度の高くないもの。僕らはその両方を扱うことになる。

僕らがやっていることのひとつはスティックにあたるような“やっている本人とその周りしか知らないようなアーティスト”が出て来たとしても、それをコミュニティの中に取り込むこと。要するにすでに知られているバンドの中にその人が入ってやっている、すでに知られているアーティストがその人のプロジェクトに参加していると言う形で、この人が関わっているんだったら聴いてみる価値があるかもって感じで持って行くのが僕らのコミュニティ・センスっていう感じ。それが大きいと思う。

マイケル自身の考え方の中に教育が占める役割は大きくて、それが目指す場所にある。マイケルはどんどんみんなに伝えていきたい、教えていきたいって気持ちを持っていて、そのマイケルについていくスナーキー・パピーのファン・ベースも全然受け身じゃなくて、積極的にどんどん自分たちでも探して聴いていこうって人たちが多い。だから、マイケル自身が「こういうのやりました」「今、こういうのが面白いよ」って言えば、みんなが積極的に興味を示してくれる。そういうファンを抱えているコミュニティがあるわけだから、僕らの仕事はすごく楽でもあるともいえるんだよね(笑)この人が認めているんだったらってひとつの太鼓判みたいなものをマイケルたちが押していってくれている。

そして、出てくる作品が必ずいい作品だっていうのも大きいよね。実際にはそのレベルに達していないものだったら僕らとしても苦労してしまうけれども、作品が必ずいいものであるということも僕らにとっては仕事を楽にしてくれている。


――例えば、マイケルがスペインに移住したものあり、彼の音楽もヨーロッパの環境にも繋がるものになってきていると思います。そして、ベッカもそういう音楽をリリースしたし、ミラーズというプロジェクトにもポルトガルのジゼーラ・ジョアンが入っていたりもする。そうやってグラウンドアップ・ミュージックは北米以外の地域の色もかなり強くなってきていると思います。それはグラウンドアップ・ミュージックのプロモーションやマーケティングにも関わってくる気がします。ヨーロッパ以外でもアジアにも目を向けていると思います。グローバルにプロモーションするためにどんなことを考えているのか聞かせてもらえますか?

まずはそもそもグローバルな視野でやっているレーベルだってことが前提になるんだけど、ジャズのマーケットに関して言うと、グラウンドアップ・ミュージックはヨーロッパとアジアでの人気がものすごく高い。それに関しては各地にディストリビューターを持って、それぞれの国や地域ごとに個々に対応していくことが必要だと思っている。その部分では日本に関してはコアポートとやれているのは非常にありがたいと思っている。主要国のひとつでもある日本ではそういうことを上手くやれている例がある。これと同じことをマイケルが住んでいるスペイン、ドイツ、UK、フランス、こういったヨーロッパ主要国でもやっていくことは考えている。それを間に人を挟まずに直接やっていきたい。海外ディストリビューションってどこかにポンっと丸投げしてしまうのではなくて、国ごとに、キャンペーンごとに、具体的な案を持って対応していくべきだから。データやマトリクスを踏まえて、ドイツではこうやるけど、日本でこうやるって感じで、ひとつひとつにエンゲージしてやっていきたいと考えているところだね。

――最後にエリックさんがグラウンドアップ・ミュージックのCOOとして、今、考えている目標ややりたいことがあったら、聞かせてください。

僕の目標は今、グラウンドアップで抱えているミュージシャンのひとりひとりがスナーキー・パピーと同じくらいの認知度を得るってこと。それだけの露出を与えるってこと。そして、みんながスナーキー・パピーと同じくらいグラミー賞を取ってくれたりしたら僕の夢は叶ったことになるね。

※記事が面白かったら投げ銭もしくはサポートをお願いします。
あなたの支援が原稿料や通訳費になります。
⇩    ⇩    ⇩    ⇩    ⇩

ここから先は

0字

¥ 150

面白かったら投げ銭をいただけるとうれしいです。