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interview Michael League『So Many Me』:ドラムセットは世界各地の打楽器の認識からすると異質なものだ

スナーキー・パピーのマイケル・リーグが初のソロ作品をリリースした。

マイケル・リーグと言えば、自身が率いるスナーキー・パピーやボカンテのツアーのために世界中を飛び回り続けていて、その合間にもデヴィッド・クロスビーやベッカ・スティーブンスなどなどのレコーディングに参加したり、プロデュースを手掛けたりと、休みなく動き続けていて、時間がない人という印象があった。

それにマイケルはスナーキー・パピーでも、ボカンテでも、たくさんのミュージシャンに囲まれながら、その場で生まれるハプニングを楽しんでいるライブ・ミュージックの人だというイメージもあった。いろんな人が集まって一緒に演奏することを楽しんでいる人だと思っていた。

そんなマイケルがソロを出すとは思わなかったし、自分ひとりで全ての楽器を演奏して多重録音でアルバムを作るのは想像外だった。

そして、そのサウンドも想定外だった。アルバムを聴いてすぐにわかるのはリズムの音色や質感の異質さ。ただ、楽曲自体はどの曲も心地よく聴けるポップ・ソングだ。クレジットを見れば、演奏だけでなく、作詞作曲も全てマイケル本人。演奏に関しては多くの人にはあまり馴染みのないであろう中東や北アフリカの打楽器がずらっと並んでいる。

例えば、この動画で使われているトルコの打楽器Davul。こういう中東の楽器が使われているのにこんなサウンドになるのかとも思うし、こんな楽器が使われているからこそこの音像が作れたんだなとも思う。

実はかなり攻めたアルバムなのだ。というわけでここではそういった楽器のことから使い方なども含めて、マイケルに解説してもらった。取材はZoomでマイケルは自宅スタジオで様々な楽器を手にしながら話してくれている。

最終的に、このアルバムを詳しく掘れば、近年のマイケル・リーグやスナーキー・パピーをより深く理解できることになることも記事の最後まで読んでもらえればわかるのではないだろうか。

取材・構成・編集:柳樂光隆 通訳:染谷和美 協力:コアポート
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■ソロ・アルバムを作ること

――そもそもソロアルバムを作ろうと思ったのはいつからですか?

2015年くらいには考えていたんだけど、歌詞が全く進んでいなくて、実際に手を付け始めたのはパンデミックになってから。たまたま訪れていた友達の家から身動きが取れなくなってしまった。それを機に3月くらいに書き始めて、4月の終わりにようやく書き終えて、レコーディングをしたのが5月だね。

――2015年ってスナーキー・パピーも軌道に乗っていて、かなり忙しい時期だと思うんです。そんな時期にこういう歌ものを1人で作ろうと思ったのには、なにかきっかけってありますか?

もともと僕が最も好きな音楽はポップ・ミュージックだったから。たくさん聴いてきたし、若い頃はバンドを組んで演奏もしていた。でも、ジャズの世界に進んでからは僕のルーツでもあるポップミュージックの世界を再訪する機会が無くなっていた。でも、ここへきて、デヴィッド・クロスビーとの仕事(※デヴィッド・クロスビーが参加したスナーキー・パピー『Family Dinner Volume Two』の録音が2015年)があったりして、もともと好きだった音楽に触れる機会が出てきて、それがきっかけになったと思う。

――昔から好きだったポップ・アーティストって誰ですか?。

最も影響を受けたのはピーター・ガブリエル。あとは、あまり知られていないかもしれないけど、イギリスのバンドでXTCかな。他には、ティアーズ・フォー・フィアーズホール&オーツエリオット・スミスポーティスヘッドフィオナ・アップル。あとはローラ・マヴーラノウワージュネーヴ・アルタディビョークサウンド・ガーデンクリス・コーネル。そんな感じでいろいろ好きだよ。

(※マイケル・リーグのプロジェクトのボカンテはピーター・ガブリエルのレーベルReal Worldからリリースされている)

■モロッコとトルコの打楽器に夢中

――このアルバム『So Many Me』ではあなたがすべての楽器を1人で演奏しています。そのアイデアはどこから来たものですか?

必ずしも最初から考えていたことではなかったかな。4年くらいかけて、トルコモロッコの民族音楽で使われる楽器、主にパーカッションを勉強したり、練習していたんだけど、その中で、自分が学んでいるパーカッションを組み合わせれば、ドラムセット的なサウンドを自分ひとりで演奏できるんじゃないかって思うようになった。そうしたら、パーカッション以外の楽器も自分で担当することも不可能じゃないなってイメージがだんだん膨らんできたんだ。最初のイメージとしてはドラムセットではなくて、ユニークなパーカッションをポップな世界に持ち込むってことだったとも言えるね。

――モロッコとかトルコの名前が出ましたが、2019年のスナーキー・パピー『Immigrance』や、2018年のボカンテの『What Heat』にもモロッコのグナワのリズムや、モロッコや中東で使われる楽器ウードも入っていました。モロッコやトルコの音楽にハマったきっかけって何かありますか?

2015年11月9日にトルコのイスタンブールで行ったライブがすごく楽しかったんだ。その時はTarik AslanがリーダーのDefjanってパーカッション・アンサンブルをゲストに招いたんだけど、彼らが最高だった。特にパーカッションにも魅了されたので、ツアーが終わって帰った後に、再びトルコに行って、2週間くらい滞在してパーカッションのレッスンを受けたんだ。その時に学んだのがDafって楽器。
それをきっかけにもう何度もプライベートでトルコに足を運んでいて、2017年には2か月半くらいトルコに住んでいたこともある。何が楽しいって太鼓もそうだけど、学生の身分に戻ったことも重要で、教わるってことの楽しさに浸っていたんだ。そこからDaf 以外にも、Oud、エジプトのDohollaRiqの演奏も教えてもらって、僕自身がそれらを演奏できるようになったって経緯もあるね。

――モロッコに関してはどうですか?

音楽としては前から好きで、始めた行ったのは3、4年前。その後、2018年にスナーキー・パピーグナワ・フェスティバル(Gnaoua Music Festival)に出演することができて、演奏もとても楽しかった。

(※以下のスナーキー・パピーの公式ライブ音源『June 21, 2018 Essaouira, MOROCCO』では上記のグナワ・フェスでの音源が購入できる。スナーキー・パピーの名曲「Lingus」のグナワ・アレンジなど、最高な音源満載)

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(※スナーキー・パピーは2019年のGroundUP Fesにグナワのグループを出演させて、フェスの最後にはコラボしていた。撮影:柳樂)

それでモロッコの音楽に関しても誰かに教わりたいと思って、Maalem Hamid El Kasri(グナワの巨匠。ジェイコブ・コリア―『Djesse』にも参加している)に教わるようになった。これによって僕の人生がすっかり変わってしまった。モロッコは想像以上に素晴らしい場所で、人も暖かくて、街も美しくてカラフルで、食事もおいしいし、最高だったんだ。もちろん音楽も素晴らしくて、街で人が演奏しているのを見ているだけで楽しい気持ちになる。コロナ禍は移動ができなくなってるから、オンラインでレッスンを受けて、今も学び続けているよ。時間がある時の僕はステューデント・モードになっているんだよね。

■世界中のパーカッションを組み合わせて作ったポップ・ミュージックのためのリズム

――あなたの周りには小川慶太ジェイミー・ハダッド含め、世界屈指のパーカッション奏者がいて、彼らは世界中の打楽器を所有しているし、なんでも演奏できる。取り入れたいリズムがあったら彼らに頼めばできるわけです。それでもベーシストのあなたが敢えて自ら現地に学びに行って、自分でパーカッションをやるっていうのはすごく興味深いなって思います。

これはすごくチャレンジングなことでもあって、まず僕はパーカッション奏者ではないからね。もうひとつは普段は大勢に囲まれてみんなで一緒に音楽をやっているから。音楽的には少し性質が違うとはいえ、すべての責任を自分ひとりで担うってこともすごくやりがいがあることだった。

――『Immigrance』の時にドラマー3人の演奏をエディットしてひとつの曲に入れるようなことをやっていましたよね。今回、パーカッションを重ねて、ドラムセット的なサウンドを作ったのはそういう近年やってるポストプロダクションの延長なのかなと思ったんですが、どうですか?

ドラムセット一台っていうのは北米のポップ・ミュージックの中では当たり前に思えるかもしれないけど、世界各地での打楽器の認識からするとかなり異質なものなんだよね。僕はパーカッションってコミュニティのためのイベントだと思っていて、みんなが集まって一緒に演奏をするとそこで何かが起きるってことがパーカッションの性質だと思っている。北米のドラムのルーツを辿ると、その中にはアフリカがあると思うんだけど、アフリカでのパーカッションは複数の人たちが楽器を叩いて音を鳴らすイベントだったのが、アメリカに渡ってきて変化した結果、複数人の役割を1人で全部担うドラマーって形になった。

僕はパーカッションはもともとそうだったようにコミュニティを結びつける役割だと思っているんだ。このアルバムにおけるコミュニティって話になると僕一人ってことになっちゃうんだけど(笑)、それでも多くの人が鳴らすようなサウンドをひとりで一つずつ鳴らして、それを後から結び付けているって意味では、トラディショナルなパーカッションと同じようなことをやっていると思っている。テクスチャー的な意味においてもね。ドラムセットを鳴らすよりは、ポップ・ミュージックの世界ではあまり使われないようなやり方でパーカッションを鳴らすってことに惹かれて、最終的にこういう方法になったんだよね。

――ここではいろんな太鼓を使っています。その中には同じような形状をしているけど、サイズや素材が違うから音色や音域が異なっている太鼓を使い分けたりしながら、それをDAW上で組み合わせて、すごく繊細にリズムを作っています。その部分を少し解説してもらえますか?

いろんな太鼓を使って演奏して、それをプロトゥールスで重ねて作ったんだよね。その中でもベーシックに使っていたのがモロッコのBendir

バンディール

あとDohollaSumbatiDarbukaはSumbatiと同じような形のドラムで、サイズが異なっている。Sumbatiがもっとも小さいサイズだから音が小さめだけど、高い音を鳴らせる。サイズが大きくなると音も大きくなって低音が出るようになる。その大きなサイズをベースドラムと同じような役割で使っている。スネア的な役割にもなるものもあるね。

サンバティ

それから南米のBobmo Legueroもベースドラム的に使った。これは「Sentinel Species」「Best of All Time」で使ってる。Bobmo Legueroは超超低音が出る。それにフレームを叩けば、スネアドラムのリムみたいな音も出せる。

ボンボレグエロ

そして、Riq。これはアラブのタンバリンみたいな楽器。これのシンバル部分はハイハットかな。

リック

そうやって一つずつ積み重ねて、リズムを作っていったらドラムセットのようになったとも言えるね。

太鼓の音は基本的に低音と高音の組み合わせだから、その組み合わせのバリエーションで考えたんだ。「Best of All Time」のようにBobmo Legueroを使うところもあれば、「Right Where I Fall」のように低音にDohollaを使ったところもある。それぞれの曲に合うフレイヴァ―に合わせて、どれを使うか考えてる。

ハイハット的な役割ではRiqだけじゃなくて、モロッコのカスタネットのKrakeb(Qarqaba)を使っている曲もあるって感じ。
「Since You’ve Been By」で解説すると、この曲にはDohollaSumbatiが両方入っていて、この2つで同じリズムを叩いている。2つを組み合わせることによって音の広がりが出るし、Dohollaが入ることでサウンドがディープになるんだ。他にもMoroccan Darbukaとモロッコの太鼓のTarijaも入っていて、ハイハット的な感じでRiqも加わっている。それぞれのドラムだけ取り出して聴くと、全くポップって感じがしなくて、鳴ってる楽器の固有のサウンドゆえにフォークロアって感じなんだけど、それらが組み合わさって、そこに他の楽器が乗ると、最終的な仕上がりはポップになるんだよね。

――たしかに。様々なテクスチャーの打楽器を組み合わせたことで立体感も出てましすね。

うん、新たなディメンションが開けたようなサウンドになったと思う。

――これは以前、ケンドリック・スコットが語っていたことなんですけど、「ドラムの歴史を辿れば、シンバル、スネア、バスドラ、小太鼓、大太鼓みたいにそれぞれに担当の弾き手がいて、それぞれをバラバラに弾いていたんだ。それをニューオリンズでジャズを始めた人たちが、これらをまとめてしまえば一人の人間が全部演奏できるんじゃないかと考えて、それがドラムセットになっていった。スネアとかバスドラはヨーロッパが発祥で、タムはネイティブアメリカンの音楽から来ていたり、シンバルはトルコや中国だったり、そういった異なる文化背景から来た楽器が一つに集まって、混じり合って、融合したのがドラムセット」だと。その上で組み合わせも自由でまだ完成していない楽器だと言ってた人もいました。このアルバムを聴いて、その話を思い出したんですよね。アラブや北アフリカや南米とか様々な地域の楽器をDAW上で組み合わせて、新しいドラムセットみたいなものをヴァーチャルに作ったとも言えるかもしれないなと。

実際、僕がやった組み合わせは間違いなく前例はないからそうかもね。でも、パーカションという言葉の意味合い自体がすごく広いものだから、今までに無さそうな組み合わせって簡単にできちゃうんだよ(笑)。自分にとってパーカションの世界はまだ何も書かれていないキャンバスみたいなものってイメージがあって、そこに何を持ってきて載せようが自分の勝手だって感覚もある。

ただ、問題もあって、それはすべてを同時に叩くことが難しいこと。すべてハンドドラムだから、一個使ったら両手がふさがるんだよね。1人では不可能だから、大勢集めて叩いてもらうか、自分で多重録音してやるしかないよね。今回、僕が作ったのはポップ・ミュージックだったから、ポップ・ミュージックで使われるドラム・サウンドの基準を最低限充たしてればいいかなってのがコンセプトとしては考えてたかな。

■伝えたいことと、その伝え方、そして、面白い音にすること

――パーカションだけでもすごく繊細に使っているんですけど、その上に乗るギターやベースやシンセもすごくて、ギターだけでも6種類で、エレクトリック・シタールとか、フレットレス・バリトン・エレクトリック・ギター、他にもウードとか、いろいろ使い分けてますよね。

音に関してやれること、可能性は限りなくあるからね。でも、多くの人はノーマルなことしかやらない。それはやりやすいからだったり、前例があるから間違いないと思ってたり、その無難な選択は今回はやりたくなかった。今回はリスクをしょって、もしうまくいかなくても、その過ちも踏まえて、新しいことができたらいいなって。でも、実際にやってみると結構大変で、ドラムに関してはかなり低音が鳴ってしまうから、その低音とベースの兼ね合いが難しかったね。周波数的にベースの低音をドラムの上にするのか下にするのか、下にするとこもった音になって、上にすればパンチが聴いた音にはなるけど、どっちにするかとかね。

――そのサウンドの上で、自分が歌うために曲を書くってことはスナーキー・パピーでやってることとは異なる作業かなって思うんですけど、それに関してはどうですか?

曲を書くってことに関してはスナーキー・パピーやボカンテでやってることと似ていると思う。僕はいつも「ソング」って認識で書いているので、ジャンルには関係なく、何を伝えたいかっていうメッセージの部分と、それをどう伝えるのがいいのかってことと、面白いと思ってもらえる音にすること、それだけを大事にしているので作っていく過程に関してはあまり変わらないかも。アブストラクトなものを作ろうってことはやってなくて、僕の音楽は常に「ソング」だから。スナーキー・パピーの曲でも作曲しながらメロディーを口ずさんでいるから、同じなんだよね。

――伝えたかったことってどういうことですか?

最初にあったのはサウンドスケープで、具体的なメッセージよりも先にこんな感じの音を作りたいってのがあったかな。最初に全般的なサウンドのイメージが頭に浮かんだ。少しずつ作り始めていく中で、その大きな音の絵柄の一つ一つをどう実現していったらいいかを考えた。曲としてのメッセージはその後に浮かんできたもので、言ってみれば「人間」ってことだと思う。みんながどんな暮らしをしていて、そこから何を経験しているのかってこと。人間観察と言ってもいいのかもしれない。その中では人々がいかに問題と向き合っているのか、不安もあるし、落ち込むことだってある。いつも通りの恋愛を歌っているものもある。ひとつの恋愛についてずっと語るのではなくて、その中の具体的な何かを引っ張り出して、前に付き合っていた人とのことが今付き合っている人たちとの関係にどう影響しているかを歌ってたりする。かと思えば、死生観、特に死を見つめる思いとか、政治に対することもある。だからパーソナルなことなんだけど、同時に社会的なことでもある。それを言葉にするとやっぱり人間観察ってことだね。

『So Many Me』ってタイトルは人は自分の中にたくさんの自分を抱えてるってこと。マイケル・リーグって名前は一つだけど、たぶん僕の中には150人くらいのマイケル・リーグがいる。その時々に応じて、適当な役割を引っ張り出して演じて見せている。そういうタイトルだね。

――歌に関してはどこか内省的で慎重な、控えめとも言っていい歌い方だと思うんですけど。歌に関してどうですか?

いわゆるリードシンガーではないことは自覚していて、僕が歌うのならバックコーラスだと思う。僕はそれをデヴィッド・クロスビーベッカ・スティーブンスのところでもやっていたんだよね。実は今回の僕の歌はそれらの時のアプローチと変わらないんだ。もちろん初めてメインで歌うってことはチャレンジだったけど、アプローチとしてはバックの時と同じ。フロントにバーンと立って、自分はこれを聴いてほしんだって感じで歌うんじゃなくて、あくまでサウンド全体としてメッセージを伝えたいと思ってた。
例えば、レディオヘッドはそうだと思うけど、ミックスの際に敢えてボーカルを控えめにして、歌を引っ込ませることで、聴く側が全体のサウンドを聴き取ろうとするし、全体として何を伝えようとしているのだろうって考えてくれる。それと同じで、僕が目指したのはサウンドとしてメッセージを送りだすってこと、ボーカルがこういうことを歌っているから聴きなさいってことじゃなくてね。それにミックスでボーカルを控えめにすると、アトモスフェリックな質感が出るしね。

――ちなみにあなたはいつも大人数のバンドでやってますけど、今回、籠ってすべて独りでやるってことはどんな作業でしたか?

自粛しなきゃいけない状況下で考える時間がたくさんあったのは間違いないね。それによって歌詞がよりパーソナルで、より内省的なものになった。少なくともツアー中に書くよりはそういった要素は強く出たと思う。自分の中にある傷つきやすさとか無防備さ(Vulnerable)みたいなものがより歌詞に出たと思う。僕が住んでるスペインは家から全く出られない規制下にあった。でも、そういう状況下になったことで、ようやくこういう作業ができる時間が持てたということでもある。スナーキー・パピーボカンテも、デヴィッド・クロスビーとのプロジェクトもそうなんだけど、僕が動かないとプロジェクトが全く動かないみたいなところがあるんだよね。僕が担っているものや責任がすごく大きいから。でも、このソロアルバムに関しては僕は何も担っていなくて、僕がやりたくなったらやればいいものでしかなかったからね。
5年間温めてきたものをようやく実行に移す時間が持てたので、自粛時間がなかったらアルバムは作れなかったかもしれないとは思うし、内容的にもちょっと暗くて、ちょっと冷たい質感のアルバムが生まれたのも自分が置かれていた当時の世界の雰囲気が反映されていたのもあるかもしれないよね。自分の脆さ、弱さ、個人的な部分が自粛の影響下でより引き出されてしまったのはあるかもしれない。自分の持っている様々な側面が現れたアルバムだから、そういうのもあってもいいよねって思ってるよ。でも、このアルバムってポジティブな曲はあったかな… 最後の「The Last Friend」は死ぬってことに対する暖かい感覚を書いてるから前向きかもしれないな。あと「Touch Me」も前向きかもね。基本的に僕はポジティブな人間だって自覚があるけど、今回のアルバムでは歌詞にはそうじゃない部分が表れちゃったんだよね。人間誰だって明るい面と暗い面を両方持っているからね。

■[コラム]『So Many Me』以前に既にあったトルコやモロッコの要素

さて、この記事を読んでから、もう一度、スナーキー・パピーの2019年作『Immigrance』収録の「xavi」を動画を見ながら聴き直してみてほしい。

というのも『So Many Me』で出てくる楽器が既に出てきているから。以下、スクショで確認してみましょう。

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マイケル・リーグがDoholaで、小川慶太がDarbuka

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小川慶太のはアゼルバイジャンの楽器Dayereh。(※『So Many Me』では不使用)

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これはサイズが異なるけど、すべてBendirとのこと。

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2人ともKrakeb(Qarqaba)です。

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マイケル・リーグが持っているのがOudをモチーフにしたフレットレス・ ナイロン弦のエレアコ・ギター。エレキ版Oudって感じの楽器です。

「Xavi」では他にも、イントロからモロッコの小さい太鼓(陶器のDarbuka的なもの)を、後半のパーカッション・ブレイクではブラジルのTimbauRepiniqueも使ってるそうです。

ボカンテではマイケル・リーグが以前からOudを演奏していたんですが、2018年にリリースしたアルバム『What Heat』だと BendirRiqDafなどもがっつり使ってます。

「Fanm」という曲で確認してみましょう。

ボカンテ1

小川慶太がBendirで、ジェレミー・ハダッドがDafでしょうか。

ボカンテ2

マイケル・リーグがDafを演奏するシーンが何度か出てきます。という感じで、この時点でマイケル・リーグがどっぷりハマっていたことがわかります。

更にベッカ・スティーブンスが2020年にリリースした『Wonderbloom』に収録されている「You Didn't Know」という曲がありまして。

ここにマイケル・リーグ小川慶太の2人が参加していて、Dafを演奏しています。演奏動画はないんですけど、たぶん3分過ぎのザーって感じの音色かなと。

という感じで『So Many Me』はここ数年、マイケル・リーグが関わる様々なプロジェクトで見せてきたものを応用した作品と言えるかもしれません。

そして、もう次の展開がグラウンドアップ・レーベルのリリースで提示されます。ベッカ・スティーブンスがトルコやマケドニアの音楽を演奏るシークレット・トリオとのコラボレーションでアルバム『Becca Stevens & The Secret Trio』を発表します。プロデュースはマイケル・リーグ。マイケルによるディープな追求はまだまだ続いていきそうです。

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