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旅とコーヒー

 旅先で飲むコーヒーが好きだ。カプチーノが好きになったのも、エスプレッソの美味しさに目覚めたのも、旅がきっかけだった。その土地ならではのコーヒーの飲み方を知り、コーヒーとともに過ごす豊かな時間も味わった。

ブラックコーヒーが飲めるようになったころ

 私が好んでコーヒーを飲むようになったのは、大学生になってから。我が家は子どもはコーヒーを飲んではいけない、という方針だったので、コーヒー牛乳か甘いカフェオレくらいしか飲んだことがなかった。

 このnoteを一緒に作っているMihokoとNorikoは大学のクラスメートで、お互いの部屋を行き来していた。コーヒー好きなMihokoが淹れてくれるコーヒーは美味しい気がして、遊びに行くのが楽しみだった。ハンドミルで豆を挽き、少しずつお湯を注ぐと、こうばしい香りが立ち昇る。コーヒーを淹れる様子を見るのも楽しかった。Norikoが早朝にアルバイトをしていたファミリーレストランを訪ね、おかわり自由のコーヒーを飲んだことも懐かしい。
 はじめはミルクや砂糖を入れないと飲めなかったが、やがてブラックで飲めるようになった。当時の私にとって、コーヒーは大人の飲み物というイメージだった。

 初めての海外旅行でカナダに行き、バンクーバーに住む伯父の家に滞在した。ある夜、従姉が温めたミルクを電動のミルクフォーマーで泡立て、カフェラテかカプチーノをつくってくれた。家でこんなアレンジコーヒーを飲めるんだと驚いた。

コーヒーの国、フィンランド

 大学の卒業旅行で、MihokoとNorikoと一緒にフィンランドに行った。それまで知らなかったのだが、フィンランドはコーヒーの消費量がヨーロッパで一番多い国。一人当たりのコーヒー消費量は世界一ともいわれる(資料により異なるようだ)。

 北極圏のサーリセルカという街に滞在し、先住民族サーミ人のお宅訪問というアクティビティに申し込んだ。かつてサーミの人たちが住んでいたテントで、焚き火を囲んでコーヒーと手作りのアップルパンをいただいた。

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 首都ヘルシンキでは、老舗店「KAPPELI」へ行った。レストランとカフェが併設されていて、ガラス張りの建物はクラシックな雰囲気。1867年の創業だという。私たちはカフェでコーヒーとベリーのケーキを頼んだ。

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 フィンランドでそんなにコーヒーが飲まれているなんて意外だった。この後イギリスに移動したので、コーヒー文化の国と紅茶文化の国だなあと思った。

ギリシャのコーヒー時間

 社会人になってから何度か旅したギリシャには、独特のコーヒーがあった。「グリークコーヒー」と呼ばれる伝統的なコーヒーは、細かく挽いたコーヒーの粉と砂糖と水を入れ、長い持ち手がついた小さな鍋で煮立ててつくる。小さなカップに注ぎ、粉が沈んでから上澄みを飲む。カップの底に残った粉の模様で「コーヒー占い」をするそうで、私も旅行中お世話になったMさんに占ってもらった。確か幸運がくるはずだったのだが……。

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 ドリップコーヒーを飲みたいときは「フィルターコーヒー」と注文する。ガイドブックによると、フレンチ、アメリカン、ノーマル、などともいうそうだ。コーヒー、と頼むとネスカフェが出てくることもあったらしい。ギリシャではネスカフェがインスタントコーヒーの代名詞になっていて、カフェのメニューに載っていることもあった。
 最初にギリシャを旅したころはあまりおいしいコーヒーに出合えず、コーヒー好きなMihokoは嘆いていた。その後再訪したときには、スターバックスが進出。昔ながらのグリークコーヒーも、一般的なカフェメニューも楽しめるようになっていた。

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 エーゲ海の島では海に面してカフェが並び、昼下がりにのんびり過ごした。私が気に入ってよく飲んでいたのがアイスコーヒーの「フラッペ」。インスタントコーヒーをシェイクして泡立ててつくる。これもネスカフェでつくるそうで、注文するときにミルクや砂糖の量を伝える。私の好みは、ミディアムシュガーのミルク入り。「メットリオ(ミディアムの意)」というギリシャ語も覚えた。

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 初めは苦手だったけれど、旅するうちにだんだんグリークコーヒーも飲み慣れてきた。ギリシャでは昼食後にシェスタ(午睡)の時間があり、夕方になると起き出してコーヒーを手にくつろぐ。夏の夕暮れに甘いコーヒーが入った小さなカップを前にして、おしゃべりをしながらのんびり過ごしたあの時間が懐かしい。

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エスプレッソに目覚めたポルトガル

 ポルトガルでは、コーヒーの飲み方がいろいろあり驚いた。小さなカップで飲むエスプレッソを基本に、多めの湯でいれたもの、少量のミルクを加えたもの、ミルク多めのもの、たっぷりのミルクにエスプレッソを加えたもの、とそれぞれ呼び方が違う。ガイドブックで確認しながら注文した。

 コーヒーはブラックで飲んだ方がよいと思い込んでいて、エスプレッソもそのまま飲んで、苦いし少ないし、普通のコーヒーの方がいいなと思っていた。一緒に旅したMihokoが砂糖を入れて飲んでいたので、真似してみた。

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 砂糖を加えて小さなカップでキュッと飲む。エスプレッソってこんなに美味しかったんだ、と初めて知った。ミルクを多めに入れた飲み方も気に入った。リスボンからポルトへ移動する列車の中のカフェスタンドや、長距離バスのターミナル内でもエスプレッソを飲んだ。

 ポルトガルから帰国後、引き出物のカタログギフトでエスプレッソメーカーを手に入れた。カナダからは電動式のミルクフォーマーを持ち帰り、ギリシャではグリークコーヒー用の小さなコーヒー鍋を買って帰った。その後、手動のコーヒーミルまで買ってしまった。コーヒーグッズは増えていくものの、ほとんど使わないまま眠っている。

ホテルでのんびりコーヒー時間 

 20代のころの貧乏旅行ではポットも無いようなホテルに泊まったので、電気式の湯沸かし器を持って行った。両親と一緒に旅をしたときは、さすがにそのころよりも良いホテルに泊まったので、ポットだけでなくコーヒーメーカーを備えた部屋もあった。昔はそうでもなかったのだが、父がコーヒーをよく飲むようになり、ホテルの部屋でもコーヒーを淹れた。ギリシャの島の宿では、カプセル式のコーヒーメーカーが用意されていた。喜んで使ってみたのだが、カプセルに穴は開くもののカップに透明なお湯が入るだけ。オーナーに部屋に来てもらい、使い方を教えてもらった。

 両親とカナダを旅したときも、カプセル式のコーヒーメーカーを置いたホテルがあったが、私はまた使いこなせなかった。移動してホテルが替わるたびにマシンと格闘した。フロントに聞いてみたらと両親に言われ、思わずため息をつきたくなった。電話で英語を話すのは難しい。私の拙い英語でもなんとか通じて、人の良さそうなおじさんが部屋にやってきて教えてくれた。

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 朝、ホテルでコーヒーを飲む時間もいい。朝食付きのホテルでは、最初にオレンジジュースで始め、後からコーヒーを飲む。ギリシャの島ではパンとコーヒーだけの簡単な朝食でも、青い空やブーゲンビリアの花を眺め、優雅な気分になれた。

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 移動の多い旅やツアーだと、せかせかと朝食をかきこんで出発することになる。昔はせっかくだからできるだけ多くのものを見て回りたいと思ったが、今ではゆっくり過ごす旅もいいなと思うようになった。
 Norikoと一緒に行ったハワイでは、同じホテルに連泊した。早朝からマーケットに出かけ、帰ってきてもまだホテルの朝食ビュッフェが利用できる時間だった。マーケットで軽食を食べてきたので、フルーツやヨーグルトだけ皿に取り、海を眺めながらコーヒーを飲んだ。なんの予定もない。何をしてもいい。急ぐ必要もない。朝食には少し遅い時間で、人の姿もまばらだった。コーヒーをおかわりして、のんびり過ごした。今思うと贅沢なひとときだった。

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 日本でビジネスホテルに泊まるときも、部屋でコーヒーを飲むことが多い。備えつけのインスタントの場合もあれば、ドリップバッグを持参して使うこともある。ホテルによっては、ロビーや朝食会場から部屋に持ち帰れるサービスがあり、うれしくなる。

 今では毎日のようにコーヒーを飲むようになったけれど、以前は外食のときか自宅でくつろぐときのちょっと特別な飲み物だった。
 コーヒーの味や香りは、旅先でも気持ちを解きほぐしてくれる。再び旅をするときも、心に残るコーヒー時間を過ごしたい。

※「ヨーロッパ・カルチャーガイド8 ギリシア」(ECG編集室編集、トラベルジャーナル)参照

(Text & Photos:Shoko)©︎elia





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