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2022年中間選挙の検証③ 地域で異なった結果 その背景は

 こんにちは。雪だるま@選挙です。この記事では、2022年中間選挙の結果について、州別の動向を分析していきます。前回の記事では、全国レベルで共和党が失速したことについて分析しましたが、今回は実際の選挙結果をもとに州の傾向を分析していきます。
 前回の記事はこちらからご覧いただけます。

州別の結果(概観)

 それでは、まず州別の結果を概観していきます。全米規模では民主党が善戦しましたが、ニューヨーク州とフロリダ州では共和党が躍進しました。これらの州の結果は世論調査の結果と同じ、あるいはそれ以上の成果となりました。また、カリフォルニア州の結果も民主党にとっては期待を下回るものになっています。

 一方で、激戦州のミシガン州やペンシルベニア州、アリゾナ州、ジョージア州では共和党が不振に終わりました。特にミシガン州では、事前の世論調査で接戦を示すものがあった中、結果は知事選で民主党現職が大勝し、州議会の上下両院で過半数を得る圧勝となりました。

 この記事では、共和党が伸びた州、民主党が伸びた州の2つに分けて分析します。現時点で検証途中のことも多く、この記事は州別に「何が起きたのか」をまとめることを中心にしています。

共和党が躍進した州

ニューヨーク州

 共和党が躍進したニューヨーク州とフロリダ州の状況を見ていきます。ニューヨーク州は民主党の強い地盤として知られている州で、2020年はバイデン氏が30ポイントに迫る差で勝利しました。
 しかし、今回の知事選では民主党現職が勝利したものの5ポイント程度の差に留まっていて、連邦議会下院でも複数の選挙区を奪取されるなど事実上の「敗北」と受け止められています。
 2020年から2022年では、州全体が共和党に動いていることがわかります。

ニューヨーク州:2020年→2022年(知事選)での動き/New York Times

 共和党が躍進した背景は、共和党が治安対策に焦点を当てたことだと考えられています。共和党は、白人警官による人種差別事件を受け、民主党が警察機能を縮小しようと試みたことが治安悪化の原因だと主張しています。ニューヨーク州の郊外では犯罪率が上昇していることから、共和党が治安対策を強調したことが功を奏したと考えられています。

 さらに、筆者は「超大都市ならではの課題が民主党に逆風を吹かせた」可能性があると考えています。ニューヨーク市は全米最大の都市で、人口は過密状態です。そのため、貧富の差は急激に拡大し、治安が悪化している(仮に事実ではなかったとしても有権者の中にそのようなイメージが醸成されている)可能性があります。

 そこで、共和党の経済重視・治安対策強化のメッセージが一部の白人を中心に共感され、共和党への回帰が発生している可能性があります。依然として民主党が圧倒的に強いことは変わりませんが、一般的に民主党有利とされる都市化の動きが、過剰になれば共和党回帰の動きを生じさせる可能性については留意が必要です。

フロリダ州

 フロリダ州は、デサンティス知事の人気がかなり強く結果に影響しています。選挙前から民主党候補の知名度が上がっておらず、そもそも選挙戦は接戦といえる状況でなくなっていました。
 2016年頃から、共和党はフロリダ州での勢力を伸ばしてきました。ヒスパニック有権者の保守化、高齢化や比較的共和党支持が多い高齢者層が退職後に流入してきていることなどが理由として考えられています。
 さらに、今回の選挙では大卒有権者など民主党に投票する傾向がある有権者も共和党に流れており、デサンティス氏個人の人気も共和党をアシストしています。

カリフォルニア州

 カリフォルニア州でも、民主党の成果は必ずしもよいものではありませんでした。ニューサム知事は圧勝し再選を勝ち取りましたが、その結果を下院の選挙区などで結果に結びつけることが出来ませんでした。
 民主党の組織戦不足などが指摘されていますが、全米第2の都市・ロサンゼルスはニューヨーク市と同じく共和党へ回帰する動きが僅かに確認されていて、今後同様の現象が起きる可能性もあります。

民主党が躍進した州

ミシガン州

 それでは、民主党が躍進した州について見ていきます。ミシガン州は、世論調査ではニューヨーク州と同様に接戦が予測されていました。しかし、結果はニューヨーク州と対照的で民主党現職が知事選で圧勝する結果となっています。全州レベルで民主党側へ動いていることも大きな特徴です。

ミシガン州:2020年→2022年(知事選)での動き/New York Times

矢印の大きさが何ポイント分を表すかは州によって異なるため、この図はNY州や後で示すペンシルベニア州と矢印の大きさで直接比較はできない点には注意が必要です。

 要因としては、選挙と同時に中絶を合法化するかを問う住民投票が実施されたことが考えられます。中絶問題が争点としてクローズアップされた場合、無党派層の女性を中心に民主党支持が高まる傾向があり、相乗効果で民主党候補が支持を獲得した可能性があります。

ペンシルベニア州

 ペンシルベニア州では、民主党が上院選で約5ポイント、知事選で10ポイント以上の差をつけて圧勝しました。知事選では事前の世論調査から圧勝すると考えられていましたが、上院では接戦が予測されていて、共和党が勝利する兆候もあっただけに驚きを持って受け止められています。

ペンシルベニア州:2020年→2022年(上院選)の動き/New York Times

 民主党上院議員候補のフェッターマン氏は、ペンシルベニア州のすべての郡で得票率を伸ばしました。フェッターマン氏は、民主党が優勢の都市部だけでなく地方からも得票を伸ばすことを目標に活動していて、得票率の底上げを図りました。共和党のオズ氏は、タレント候補として空中戦に留まり地上戦を怠ったことから、終盤での追い上げを得票に生かせなかったと考えられます。

アリゾナ州

 アリゾナ州も同様です。トランプ氏の影響力を最も受けた候補の1人だったカリー・レイク氏は、優勢と見られていた知事選で落選しました。トランプ氏への逆風が直撃した形ですが、郡別にみると大都市・フェニックス周辺で民主党がさらに得票数を伸ばしていることがわかります。
 アリゾナ州は共和党優位の州でしたが、近年民主党が勢力を増しています。都市化が進むフェニックスを含むマリコパ郡が民主党寄りに動いていることで、州全体でも民主党が強くなっています。

ジョージア州

 ジョージア州では、知事選と上院選で結果が分かれました。知事選ではケンプ知事(共和党)が圧勝したものの、上院選では民主党現職が勝利しました。共和党のタレント候補による地上戦が不足していた可能性があり、また他の州と同様にトランプ氏への逆風が直撃してしまった形です。

この結果から何が言えるのか

 今回の中間選挙では、結果に大きな地域差が見られました。この結果について、筆者は「全米レベルでの動き」をベースに「地域別の傾向」が反映されて生まれたものだと考えています。
 全米レベルでは前回記事で分析したようにトランプ氏への逆風が直前の数日で強まりました。他には、人工妊娠中絶の問題が注目されたことにより、民主党が中間選挙を迎える与党としては比較的強い状態だった、などの動きも挙げられます。

 これに、地域的な傾向が加わります。治安対策が重視された州では共和党が優勢を維持し、中絶が重視された州では民主党が勢いを取り戻しました。また、候補者の質も重要な要因です。トランプ氏が擁立した候補はトランプ氏への逆風を受けただけでなく、地上戦を積み上げることができなかったという点で、終盤に流れを引き寄せることが出来なかったと考えらえます。

青い州で見えた、民主党の“死角”

 今回の中間選挙では、民主党の地盤と考えられているニューヨーク州で民主党が事実上の敗北を喫し、カリフォルニア州でも期待した成果を出せませんでした。
 まだ仮説の段階ですが、過度な都市化は貧富の格差拡大や治安悪化を招き、経済や治安対策を強調する共和党への回帰が起こっている可能性があります。
 さらに、これらの青い州では民主党が勝利する状況が続いてきたため、民主党の指導部が硬直化していたり、組織的な選挙を展開できていないという指摘もあります。特にニューヨーク州に関しては、この状況を真剣に受け止めて対策を講じなければ、2024年の大統領選挙にも影響が出るという声が上がっています。

知事選挙と上院選挙 重要な“政治経験”

 一般的に、知事選挙や上院選挙などの全州レベルの選挙では、現職であることや政治経験が重視される傾向があります。今回の選挙でも民主党は、新人候補でも他の公職経験を持った人物や、政治・社会的活動を十分に経験した人物を予備選で勝利させてきました。
 一方で、共和党は必ずしもそのような候補を選んだわけではありません。トランプ氏自身が政治経験のないアウトサイダーでしたが、トランプ氏の推薦候補もタレントやスポーツ選手などの有名人候補が中心で、政治経験は全くない候補がかなり多かったといえます。

 実際の選挙結果では、トランプ氏が選んだアウトサイダー候補は各地で競り負けるケースが目立っています。今回は民主党はインフレ、共和党はトランプ氏という逆風を受けつつも現職は議席を何とか維持した場合が多く、「現職・政治経験」が選挙結果を左右する重要な要素となっていることがわかります。

 なお、この記事で用いたNew York Timesの地図については、こちらからご覧いただけます。


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