2022年中間選挙の検証② 消えた赤い波 そのとき何が起こったのか
こんにちは。雪だるま@選挙です。中間選挙では、事前の共和党大勝予測を覆して民主党が善戦し、上院の多数派を確保しました。全米レベルでは共和党が伸び悩む結果でしたが、一部の州では共和党が予測通りの躍進を見せた地域もありました。
この記事では、全米レベルで共和党が伸び悩んだ理由を中心に、結果に地域差がみられたことについても分析していきます。
最終盤で動いた無党派層
世論調査:10月から共和党が支持拡大
まず、世論調査と実際の結果を比較するために、事前の世論調査で捉えられていた動きについてまとめていきます。
世論調査では、6月末以降に民主党が支持率を伸ばし、9月下旬まで優勢を保ちました。9月末からは共和党が支持率で猛追し、10月20日頃に民主党を逆転、その後は投開票日までリードを拡大、維持しています。
6月末は、米最高裁が中絶権を保障した「ロー対ウェイド判決」を覆した直後で民主党が支持を伸ばしましたが、10月以降は争点が経済や治安対策に回帰したため、共和党が優勢となったという見方が支配的でした。
そのため、世論調査では10月以降に無党派層が共和党支持に傾き、選挙結果も共和党が大勝すると予測されていました。
出口調査:有権者が態度を決めた時期
ここからは、選挙結果と出口調査から、実際に何が起きたのかを検証します。出口調査では、投票先を決めた時期について次のような結果が出ています。
この結果を最終的な民主・共和両党の得票率で補正し、時期別の投票先を推定した結果が次の図です。
世論調査の傾向と違って見えるのは、「9月以前の投票先で共和党がリードしている」、そして「共和党がリードを拡大していた10月の投票先で民主党が大きく上回っている」という2点です。この記事では、これらの点について分析していきます。
9月以前に投票先を決めていた割合は全体の68%ですが、筆者はこの内訳は民主・共和両党の支持層がほとんどだと分析しています。
出口調査では、民主党支持が33%、共和党支持が36%となっています。選挙まで1か月以上を残す中で最終的な態度を決定する層(68%)は、政党支持に比較的強い態度を持っていると考えられ、明確な支持政党を持っている有権者の割合(69%)ともほぼ一致しています。
9月以前に投票先を決めた人の共和党リードは、支持者の割合で共和党が上回っていることで、ある程度説明できると考えられます。
最終盤 民主党支持に流れた無党派層
次に、10月に態度を決めた層の投票先で民主党が大きく上回っている点について分析していきます。世論調査では共和党が支持を拡大していた時期ですが、結果的には民主党が大きく上回っています。
なお、共和党は民主党寄りも支持層が大きく、無党派層ではリードしなくとも互角以上の戦いができれば大勝できるはずでした。ここでは、民主党が大きく上回っている点に焦点を絞って分析していきます。
この結果を説明する仮説として「一部の無党派層の態度が10月、そして最終盤の2度変わった」という可能性を提起したいと思います。
1回目の態度変更は10月で、この時点で無党派層の多くは共和党候補を支持する方向に流れました。経済や治安対策が争点に再浮上し、態度を決めていなかった無党派層が共和党支持を決めてきたことで、10月に共和党が支持率を伸ばしたと考えられます。
10月の時点では、態度未定者の間で共和党と民主党は互角の戦いだったとみられます。
2回目の態度変更は11月に入ってから、選挙当日にかけての数日間で生じたと考えられます。共和党に投票する予定だった無党派層の一部が(何らかの事情で)民主党に回帰し、そこで最終的な投票先を確定させたとみられます。
この動きの結果、10月の時点では共和党に投票するつもりだった有権者の一部が、民主党に流出しました。そして、10月時点に決定した政党に投票した有権者の間では、共和党支持の一部が崩壊したため、結果的に民主党支持が上回ったと考えられます。
出口調査は最終的に投票先を決めた時期を質問しているため、「10月時点でどの党を支持していたか」を示しているわけではないという点に注目した仮説です。
そして、この態度変更は有権者全体から見るとせいぜい2~3%程度の動きに過ぎません。繊細な動きであり、全体の空気感にその動きが捉えられにくかった可能性が高いといえます。
10月に投票先を決めた有権者では民主党が2ポイント上回っていて、生じた動きをこの程度であると考えてみます。
実際に、民主党の得票率を2ポイント減らし、共和党に2ポイント乗せれば、得票率で共和党が7ポイント程度リードすることになり、共和党大勝の「赤い波」が発生する水準に近づきます。
実際に態度を変えた有権者がどのくらいなのかを正確に推定するのは難しいですが、全体から見るとそこまで大きな動きではないことがわかります。
共和党は、10月以降に態度を決定した有権者でも民主党と同等程度の支持を得られるはずでしたが、何らかの事情で民主党に支持が流れたため、「赤い波」は幻に終わりました。
次の章では、その理由について分析します。
なぜ共和党は失速したのか
トランプの出馬表明示唆
中間選挙の最終盤で共和党が失速した主要因は、トランプ前大統領の出馬表明示唆だったと考えています。
トランプ氏は、投開票日直前の11月4日頃から2024年大統領選への出馬表明を強く示唆していました。共和党大勝が予想されていた中、その勝利を自らの手柄として強調し、共和党予備選に向け一気に勢いをつけようとする狙いがありました。
この出馬表明示唆によって、有権者の中では「共和党への投票=トランプ出馬の引き金」というラベリングが強まり、トランプ氏を忌避する無党派層の一部が投票先を直前で共和党から民主党に変更したと筆者は分析しています。
その根拠として、共和党の結果に地域差があったこと、そして無党派層にトランプ氏を特に忌避する有権者が存在することは選挙前の世論調査から示唆されていたことの2点を挙げていきます。
躍進した“非トランプ派知事”
共和党が全国的に失速する中、予想を超える大勝だった共和党候補もいます。その象徴的存在は、フロリダ州のデサンティス知事とジョージア州のケンプ知事です。
フロリダ州のデサンティス知事は、激戦州のフロリダ州において民主党候補に20ポイント近い差をつけて勝利しました。事前の世論調査でもデサンティス氏はリードしていましたが、10~15ポイントの差をつけられれば圧勝の水準と考えられていました。
デサンティス氏だけでなく、ルビオ上院議員も予想より大きな幅で圧勝して再選を決めました。ルビオ氏もトランプ氏に頼る候補(いわゆるMAGA候補)ではなく、トランプ氏と距離感が近くない政治家に失速は見られませんでした。
この結果がより顕著だったのは、ジョージア州です。ケンプ知事も7ポイント以上の差をつけて民主党候補に勝利しました。ケンプ氏は、4年前の知事選も同じ民主党候補と対戦し、その際は1.4ポイントの接戦でした。
当時とは状況が違い、無党派層の支持をケンプ知事は強く引き寄せました。この背景には、2020年の大統領選結果についてトランプ氏の圧力を跳ね返して認証したことなどで、非トランプ派候補との認識が広まったことが考えられています。
さらに、上院議員選挙に出馬したトランプ派のウォーカー候補は、事前の予想を下回る得票率となり、民主党のワーノック候補に逆転を許しました。
同じ州の選挙でも州によって状況が異なったことから、最終盤に世論調査で捉えられなかった動きが発生し、しかもそれがトランプ派候補やトランプ氏を忌避する動きだった可能性が示唆されます。
トランプを忌避する無党派層
それでは、実際にトランプ氏を忌避する無党派層がどれだけ存在するのかについて分析していきます。
次に示すのは、10月の世論調査で「2024年の大統領選でバイデン氏とトランプ氏のどちらに投票するか」を質問した結果を、バイデン氏を大統領として支持するか、そうでないか別に整理したものです。
バイデン氏を大統領として支持しない層でも、トランプ氏に投票するのは7割程度に留まっています。どちらにも投票しない/決められないという回答が2割に上り、バイデン氏に投票する人も6%程度います。
このことから、バイデン大統領は支持しないが、トランプ氏の復活は望まないという層がある程度いることがわかります。さらに、アメリカ国内の党派的分断を考慮すると、こういった考え方をもつ有権者は無党派層に集中していることが予測されます。
選挙前の状況を振り返ると、民主党劣勢、共和党優位の情勢が繰り返し伝えられており、最終盤でトランプ氏の出馬が現実的となりました。
この状況で、一部の有権者が民主党が劣勢という状況も考慮し、トランプ氏復活への警戒感から民主党に投票先を変更する判断をした可能性があります。
上でも分析したように、最終盤で動いた有権者は2%程度と考えられるため、「トランプ氏への支持を躊躇うバイデン不支持層」(15%程度)の一部が動くことは十分にあり得る状況となっていました。
次の記事では、民主党が大勝したペンシルベニア州や、共和党が事前の勢いを維持して健闘したニューヨーク州など、州別の結果についてさらに分析する予定です。
なお、この記事は中間選挙の検証記事2本目で、次期大統領選挙への影響を分析した1本目の記事はこちらからご覧いただけます。
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